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Intld.Ⅱ-xxv

王都の街の中は血と黒煙と絶叫に満ちていた。

城下町を駆ける女子供たち、武器を取る一般市民の男性たち。そして、そんな彼らを蹂躙し、打ち倒していくのは旗を掲げた鎧の兵士たち——レブランクのものではない旗が何種類も血生臭い王都の風に靡いていた。

殺戮、略奪——王都はまさに地獄の様相だ。


「か……くぁ……ぁぁ……」


舌を切り落とされ言葉を紡ぐことが出来なくなったアリキーノの口から、掠れるような音が溢れた。

彼の瞳に感情の色が戻る——しかし、それは黒色の絶望だった。

王都マルボルジェは他国からの侵攻を受けていた。他国の兵士たちが、王都の人々を薙ぎ倒し、王城へと向かってくる。市民たちも抵抗するが、単なる市民が訓練され将官の下統率がとられた数にも勝る軍隊を相手に勝てるわけもない。

次々に捕らえられ、或いは殺されていく。

そんな様子を見て全身を激しく震わせるアリキーノの顔を、エリオスは愉しげに見つめながら解説する。


「レブランクにこれまで煮湯を飲まされて来た周辺諸国の連合軍さ。『王族が皆殺しにされて、騒乱の広がるレブランクを鎮圧して民に安寧をもたらすため』——嗚呼、なんて詭弁だろうね。正義の皮を被るなら、もっとちゃんと被ればいいものを。ふふ」


アリキーノの擦り切れた魂の最後の残滓さえも舐り嬲るように。そんな声音でエリオスはアリキーノの耳元で囁いた。

街に火の手が上がっていく。連合軍の兵士たちは、かねてよりの鬱憤を晴らす快感に打ち震え、嬉々として王都の民を殺していく。

エリオスの殺戮から逃れた王都の民たちも、このままいけば一日も経たないうちに、死体になるか連合国の奴隷とされることだろう。

王都の、王国の末路を見せつけられたアリキーノの顔は引き攣り、ぐちゃぐちゃになった唇はぶるぶると震えていた。


「う……ううぅぅ! うぁぁぉ……うぉぁ……!」


そんな彼の顔を見て、漏れ出る音を聞いて、エリオスは恍惚とした笑みを浮かべる。


「嗚呼、嗚呼! その顔が見たかった、その声が聞きたかった。そのために今日まで君を生かしておいたんだから……くく、あはははははは!」


アリキーノのケロイド化した頬の上を涙がこぼれ落ちた。もはや、彼の心は完全に折れ砕けた。

エリオスはそれを見届けると芋虫のように蠢く彼をさらに高く持ち上げ、バルコニーの外へと突き出す。


「それじゃあね。愉しい時間をありがとう、アリキーノ卿——さようなら」


エリオスはアリキーノの首輪を掴んでいた手を離す。彼の軽い身体は風を切って王都の街並みへと落ちていく。エリオスはそれを見つめながら笑った。


「君が愛して君が守れなくて君が滅したこの王国。共に逝っておいで」


彼がそう虚空に向けて笑ったのと同時に、鈍く重い何かが潰れる音が遥か下方から響いた。



§ § §



「——斥候の報告によれば、レブランクの王都は連合軍の蹂躙によりもはや地獄の様相とのことです」


色とりどりの花が咲き乱れ、神秘的なまでに静謐な空気に満ちた庭園。その片隅で、厳かで壮麗な空気感とは相容れないような物騒な言葉が並び立てられる。

庭園の中に作られた小高い丘の上の東屋の中、白い鎧を纏った女騎士は、目を伏せ、跪きながら報告を続ける。


「地方においても貴族と市民たちや、貴族同士での内乱が勃発しているそうで……いかがいたしましょう」


お伺いを立てる騎士の視線の先、そこには白いドレスに身を包んだ少女の姿があった。歳の頃は18か19くらい、傅く騎士よりも明らかに年少であった。

少女は騎士の方をちらと見ながら告げる。


「神よりの御指図は今のところありません——しかし、このような惨状を看過するのは神々のご意志に反しましょう」


「ですが、聖典官——特に統制局長は承伏するでしょうか?」


騎士の言葉に、少女は少し不安げに眉根を寄せた。少女申し訳なさそうな表情でゆるゆると首を横に振る。


「その場合は聖典官の兵力は用いず、貴女たちだけで行っていただくことになってしまうかもしれませんね——苦労をかけますが」


そう宣う少女に、女騎士はどこか誇らしげな表情を向けて微笑む。


「それは問題ありません。私たちは貴女と神々のために存在しているのですから。どうぞ、ご命令を——」


騎士の言葉に少女はどこか張り詰めていた表情を綻ばせる。しかし、その表情はすぐに消えて彼女の顔は凛々しく引き締まる。


「——では、我が騎士たちに命じます。アヴェスト聖教国祭儀神託官の最高巫司の名の下に、騒乱に満ちたレブランク王国一帯を平定なさい」


少女——最高巫司たる彼女は、若いながらに誰もが背筋を伸ばすような凛とした威厳ある声でそう命じる。その言葉に女騎士は頭を下げる。


「御意のままに」


「手早く済ませて下さいね。平定が終わった後は、この騒乱の元凶。エリオス・カルヴェリウスなる魔術師についての対処も考えなくてはいけませんから」


そう言って、最高巫司は遠く西方の空を見上げた

これにてInterlude.Ⅱは本当におしまいです。長々とお付き合いいただきありがとうございます。


予定では10パート前後で終わらせるつもりでしたが、リリスの話を掘り下げていたら予定よりも遥かにオーバーしてしまいました。

最後の方のアリキーノの最期については、エリオスの悪趣味さが全開のエグめな描写になっていますが、それまでの話が「お綺麗」な感じすぎたので、まあ一種の調整(好感度調整的な……?)と思っていただければ。


さて、これにて拙作「大罪踏破のピカレスク(以下略)」は、序破急で言うところの「序」が完全に終わった形となり、ここから「破」につながっていくことになります。

どうぞ今後とも拙作にお付き合い頂きますようよろしくお願いします。


最後に毎度のお目汚しになりますが、拙作をお気に召していただけた方は評価、ブックマーク、感想、レビュー等のリアクションをよろしくお願いいたします。作者のモチベーションが爆上がりしますので! 本当に!

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