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Intld.Ⅱ-xxi

「恥ずかしいところを――見せましたわね」


泣き腫れた顔で、少しうつむき気味にリリスはそう言った。妖艶、美麗。そんな言葉で飾られていたリリスとは思えないほど、シャールには今の彼女の姿は可愛らしく見えた。


「そうかも……ですね」


「そこは、否定なさい! 全く……シャールのくせに……」


子どもっぽく唇を尖らせるリリスに、思わずシャールは苦笑を漏らす。ようやく、リリスが自分を見てくれているようなそんな気がした。リリスは深く息を吸い、そして吐きだして呼吸を整える。

そして、まっすぐシャールを見つめなおして、居住まいを正す。


「ねえシャール。貴女がここに残ることは分かったし、私に付いて来てくれないのも――まあ、納得します。そのうえで問いますわ……貴女は此処に残ってどうするつもりなのです」


「――!」


シャールを見つめるその瞳は透き通っていた。真っすぐと、シャールという人間の奥底まで見通そうとする瞳。噓やごまかしをするのは憚られるような綺麗な瞳だった。シャールは腰に佩びたアメルタートの鞘を一撫でしてから答える。


「私は……エリオス・カルヴェリウス、あの人を倒すために此処に残ります」


「貴女に……倒せますの? あの魔人を」


リリスの瞳が揺らいだ。それでも口調は変わらないままにシャールに問いかける。そんな彼女の姿に、シャールはリリスが猜疑心から問うているのではないのだと感じられた。それがどうにも嬉しくて、シャールはわずかにほほ笑んだ。

それでも、虚勢を張ることなんて出来ないから、シャールは思っている通りを語る。


「――正直なところ、まだ私にも分かりません。それでも、このひと月彼という人物を見てきていろいろ分かったこともあります。あの時、皆さんが刃を交えていた時には見えなかったことが――だから、これから先、彼の側にいることで、彼という悪役(ヴィラン)との戦い方が見いだせる。私は今、そんな気がしています」


「そう……ですか」


シャールの答えにリリスは少し目を伏せる。どこか寂しげな表情だった。そんな表情を浮かべるリリスの手をシャールは優しく取った。

リリスは顔を上げる。その目には僅かに涙が浮かんでいた。それでも彼女は唇を噛み締めながら、じっとシャールを見つめている。

——泣き虫だけど、怖がりだけど、寂しがり屋だったけれど。やっぱり貴女は強くて優しい素敵な人です。

シャールはそんな風に思いながら、ふわりと笑う。花の咲くように、丘を撫でる春風のように。


「でも私は力も弱くて魔術も使えないただの村娘です。心だけ立派になれたとしても、それは変わらない。一人だときっと彼には勝てない。だから——」


そこまで言ってシャールは言葉を切る。

一瞬怖くなった。自分を拒絶した、自分を放り出した娘の言葉に彼女が頷いてくれるのかと。でも、彼女の顔を見ているとそんな恐れも溶けて消えていった。


「だから、その時が来たら。私と一緒に戦ってくれますか?」


シャールの言葉に、リリスは微笑んだ。涙を拭き、肩を竦めて見せる。


「全く、貴女思ってたより酷い人ですわね……一人で生きていけなんて言うくせに、すぐに私に助けを求めて」


「お嫌、ですか?」


「もちろん——そんなわけありませんわ」


そう言ってリリスは悪戯っぽく微笑んだ。


「あの男から——『奪うなら奪われる覚悟をするべき』なんて嘯く男から、奪い返して見せましょう! 貴女と一緒に」


そう言ってリリスは笑った。かつてルカントたちといた時よりもずっと自信に満ちた表情で。

もうすぐインタールードも終わりです。

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