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Intld.Ⅱ-xx

「いいえ、貴女はちゃんと歩んでいます。一人でも、前に進めます。だって、私の知っている貴女はそう言う人ですから」


真っすぐに、何の疑いもない目でそう言ってのけるシャールにリリスは言葉を失った。そして次の瞬間に彼女の心の中に浮かんだのは湧き上がるような感情の激流だった。複雑な、形容しがたい感情――あえてそれを言葉にするのなら、怒りなのだと気づいたのは彼女が口を開いて数瞬経ってからのコトだった。


「――ふ、ふざけないで! あ、貴女が何を知っているというの! 貴女が知っている私なんてただの虚像、それを信じて……無責任です、偽善です! 貴女は――あ……」


そこまで叫んでリリスは思わず自分の口を手でふさぐ。思わず口を突いた言葉、こんなことを言うつもり何て無かったと後悔してももう遅い。その言葉に、シャールはうつむいていた。


「――ご、ごめんなさい……私、そんなつもりじゃ」


「いいえ――きっとリリス様の言葉は正しい。きっとこれは無責任で、きっと偽善でしかない言葉です。でも身勝手で無責任で偽善だったとしても、それを私が正しいと思うから何度だって言います。貴女はすごい人で、きっと一人で歩いて行ける。私はそう信じてる!」


「だから……それは、貴女の思い違いで……本当の私は」


「本当の自分なんて、そんなもの本当に存在するんですか?」


シャールの静かな言葉に、リリスは息を呑んだ。馬鹿みたいな問いかけだ。だというのに、「当たり前だ」と一蹴することが出来ずにいた。そんなリリスにシャールは語り掛ける。


「覚えていますか――あの日、私がアメルタートを持ってエリオス・カルヴェリウスの前に立った時のこと」


「もちろん……忘れるはずありませんわ――だって、あのときの貴女はとても勇敢で……ちょっとびっくりしましたわ」


「ふふ、アレに一番びっくりしたのは私なんですよ」


そう言ってシャールは悪戯っぽく笑った。その言葉に、リリスはびくりと身体を震わせて彼女の瞳を凝視した。嘘ではない、真摯な瞳だ。


「どうしてあの時私は貴女の手をとって逃げられたのか、どうして貴女の盾になれたのか、どうしてエリオスに剣を向けられたのか――あの時はそうするべきだという強い気持ちがあったけれど、それまで私はそんな大層なことができる人間だなんて自分のことを思っていませんでした」


「……それは」


「私思うんです。人間って自分自身のことが一番分からないんじゃないかって。自分自身のコトだからって誰よりも分かっているつもりになっているからこそ、自分の価値も自分の在り方も自分で決めつけてしまう――少なくとも、私はそうだったんじゃないかって、思うんです」


詭弁だ。そんなの彼女だけの特例だ。そう言いたいのに、彼女の笑顔を前にすると言葉が出なかった。本当に自分もそうなんじゃないか、なんて甘ったるい希望さえ湧いてくる。違う、違う。私にはそんなことできない――首を横に何度も何度も振るリリスをシャールはそっと抱きしめた。


「な――何を……」


「大丈夫。リリス様はすごい人です。大丈夫、リリス様に怖いものなんてありません――先の見えない暗い道でも、貴女自身できっと道を照らせます。だってリリス様、とっても輝いていますから。だから、貴女の知らない貴女を信じてあげてください」


ふわりとした笑みで、シャールはそう言った。

リリスはそんな彼女を強く抱きしめて、震えながら泣いた。恐ろしさからでも、寂しさからでもなく、ただ流れる涙を抑えられないで泣いた。シャールはそんな彼女の背中を愛おし気に抱きしめた。

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