Intld.Ⅱ-xix
それからずっと、私はルカント――ルカント様を寄る辺に生きてきた。
彼はいつも堂々としていて、まっすぐで。彼のためになること、彼の言葉に従うことは絶対に正しいのだと思えて、それを遂行出来る自分は優れているのだと思えた。自信が持てるようになったと言い換えてもいい。
でも、彼は死んでしまった――私はまた、寄る辺を失った。私はまた、暗い夜道で独りぼっちになってしまった。また私は道が分からなくなった――結局、私の「自信」なんてものは虚勢の仮面で、本当の私は変わっていなかった。本当の私は、結局ルカント様の影に隠れて引きこもっていただけ。
暗い地下牢に囚われて、ひどい仕打ちを受ける中でも私は自分がどうすればいいのか分からなくなっていた。痛いし、苦しいし、気持ち悪いし、恥ずかしいし、辛い。散々に許しを請うた。でも「やめて」と叫ぶたび、「外に出して」と願うたび、「助けて」と縋るたびに頭の中をちらつくのは、暗い道の中で独り震えながらどこにも行けずに立っている自分の姿だった。ここから出て、私はどうするというのだろう。
両親と違って、ルカントは最期に私に道を示してくれなかった。道を示す前に、死んでしまった。ミリアも、アグナッツォも私には何も示してくれなかった。もう私はどこにも行けない、何にもなれない――だとするのなら、私はここで死んだほうが幸せなのではないだろうか。
これ以上苦しい思いを、悲しい思いを、寂しい思いをしなくて済むのなら。
そんなとき、彼女が来た。あの人の形見を身に佩びて、私を暗闇から救い出してくれた。
私の目にはあのとき彼女の姿がどう映っていたのだろう――考えるに、きっとルカント様の魂が彼女にやどって私を助けに来てくれたとでも思ったのだろう。我がことながら、何と浅ましいお花畑な乙女脳だろうか。そんなことあり得ない――まともに考えれば分かるはずなのに。
それからずっと、私は彼女にルカント様の姿を投影していたのかもしれない。彼女の優しさ、彼女の凛々しさ、彼女の魂の強さ――私はかつて見下していたはずの彼女に、失ってしまった光を求めたのだ。
でも、それは打ち砕かれてしまった。
そうだ――彼女はルカント様ではない。彼女はシャールだ。私の光はもう失われたままなのだ――取り戻すことなんて出来ない。私はまた一人暗い道を――
「そうです……貴女は一人です」
泣きじゃくる私に、あの子は告げた――シャールは告げた。残酷なほど優しくて静かな声で。
なんでそんなひどいことを言うの、私が貴女に酷いことをしたから? つらく当たったから? 私が嫌いだから――?
「貴女も、私も、みんなみんな一人なんです。みんな一人先の見えない、何が正しいのかも分からない道を歩いている」
「私には、私にはそんなことできませんわ……貴女や他の人に出来たとしても、私にはできない」
「――いいえ、できます。だって貴女はすごい人だから」
「違う、違う……そんなの私じゃありませんわ……だって、本当の私はあまりに弱くて、前にも進めなくて――」
そうだ、私は賢者なんかじゃない。結局、シャールも私のことを見ていない――
そんな私に、シャールは告げる。とびきり優しく、とびきり真っすぐな視線を私に向けて。その瞳があまりにも純粋すぎて、私は紡ぐ言葉を見失った。
「いいえ、貴女はちゃんと歩んでいます。一人でも、前に進めます。だって、私の知っている貴女はそう言う人ですから」