Intld.Ⅱ-xviii
投稿めちゃくちゃ遅れまして申し訳ありません。
『む、無理です……私はきっと貴方の期待には応えられませんわ』
『――どうしてだ。お前は賢者なのだろう』
『それは、他の人が勝手に言っているだけで……私は、そんな大層なものでは』
俯く私をルカントは静かに見つめていた。そんな彼と私をミリアは心配そうにかわるがわるに見遣る。不意に、ルカントは口を開いた。
『――俺を見ろ』
『え――?』
その言葉に私は思わずつられて顔を上げた。そしてここに至って初めて、私はルカントの顔をまじまじと見つめたのです。
きっちりと刈り込んだ髪、鋭いけれど意思のこもった眼。厳格ながら、どこか心を引かれる顔つき――リリスは小さく感嘆の息を吐いた。そうか、これが王子、これが勇者なのかと。高貴さと力強さ、そして強い信念――そのどれも私には無いモノで、私には眩しすぎるモノだった。それでも、私は目を背けることが出来なかった。
そんな私に彼は言った。
『俺たちにはお前の力が、お前の知識が、お前の積み上げてきたすべてが必要だ――少なくとも俺とここのミリアはそう考えている』
『あ、貴方は――私の何を知ってるというの……』
『経歴だけなら十分に。魔術王国メルリアの生まれ、若くして国立魔術大学を首席卒業。だが、在学中に両親を失っていたな。卒業後は仕官することなく、旅をして我がレブランクに流れ着いた――どこか間違っているか?』
私は何も答えられなかった。どうやって調べたのだろうか――いや、大陸一の王国の王子ともなれば私の想像もつかない情報網もあるのだろう。
急に自分が本当にちっぽけで滑稽な存在に思えてきて自嘲の笑いが零れた。そんな私の肩にルカントの手が置かれた。
『だが、俺が知っているのはあくまで外から見える経歴だけだ。お前という女の内面を俺は知らない――だから、教えてくれ。お前は何故、こんなところに隠れている。何故自分を過少に評価する』
『だって――私は分からないんです』
『何がだ……教えてくれ』
『私は、何が正しいのか分からない……どう生きればいいのか分からない……何に従って生きればいいのか分からない……誰も教えてくれなくて、教えられなくちゃ私は決められなくて……』
なぜ自分は見ず知らずの他人にこんなことを言っているのだろう。一音一音唇からこぼれていくたびに、恥ずかしくて情けなくて顔が赤くなり、目の端に涙が貯まっていった。
そんな私に、ルカントは立ち上がりそして言った。
『そうか――ならば』
言われると思った。「いらない」と。そう言って欲しいはずだった。なのに、彼の言葉が紡がれるのがとても怖かったし、どこか私にも分からない期待も混じっていた。そんなぐちゃぐちゃの感情のまま、私は立ち上がったルカントを見上げた。
それと同時に、ルカントは続けた。
『――俺に従え、俺が教える、俺が決める。俺はお前に道を与えよう。だからお前は俺にその力を与えろ』
『何を――』
『今のままは嫌なのだろう? でも、自分からは怖くて変われないのだろう? お前が望むモノを俺は与える、お前が望む者に俺はなろう。お前をお前が望む姿にしてやろう――どうだ』
『どうって――』
言葉は困惑を示していた。でも、心はもうすでに惹かれていて。私は震える手を前に、空に伸ばす。ルカントはその手を素早く、そして柔らかくとった。
『俺がお前を導こう、だからお前は俺たちの道を拓いてくれ』
そう言ってルカントはわずかに、ほんの微かにだけど笑った。その笑顔が何よりも眩しくて。
そうして私は、外へと踏み出すための寄る辺を手に入れたのでした。
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また、本日これまでに感想をくださったお三方に返信をさせていただきました。作品内の描写の裏設定についてもお話させていただいたところもあるので、ご興味があれば覗いてみてくださいませ。