Intld.Ⅱ-xvi
モノローグ的ななにかです
――お願い、一人にしないで
一体私はいつからそう祈り続け、願い続け、縋り続けてきたのだろうか。エリオス・カルヴェリウスの屋敷に来てから? レブランクの地下牢に囚われてから? ルカント様たちが死んでしまってから?
――違う、違う。
もっと前から、私はずっとずっとそういう人間だった。
一人は怖くて、一人は耐えられない――それは、寂しさからではない。ただ、一人で歩き、一人で考え、一人で行動し、一人で生きるということが分からなかったから。分からないモノがとてつもなく恐ろしかったから。
振り返ってみれば、きっとその萌芽は幼少期からあったのだろう。
大陸の西端にある魔術王国メルリアの王宮魔術師団の副長だった父、王立図書館の筆頭司書だった母。優秀な二人の間に生まれたときから、ずっと私はそうだったのだろう。
二人は私の才能を認め、道を示してくれた――学問の道、魔術師としての道。多くを与え、何度も導いてくれた。二人は私を深く深く愛して、優しくしてくれた。私も二人が大好きで、心の底から信頼していた。
二人の応援と指導のおかげで、私は魔術王国メルリアでも最高峰である国立魔術大学校に入学することもできた。
父は言った――「まずは魔術理論の基礎を固めてから、好きな系統の魔術を極めていくと良い。あの大学は、きっと君の興味を突き詰めることを応援してくれる」と。
母は言った――「たくさん本を読みなさい。その知識は、貴女の道を拓き、そして行く先を示してくれるわ。貴女のなりたい自分を見つけてね」と。
大学に入寮する私を二人が送り出す時に告げてくれた言葉。あの時の私は、二人の言葉の意味が、その思いが良く分からなくって、それでも二人の笑顔がただ嬉しかった。
でもある日、そんな二人が暗殺されてしまった。出世の道を歩む二人を妬んだ、とある貴族の謀だった。私が大学に入ってしばらく経ってからのコトだった。私は、目の前が真っ暗になった。
人生を暗い夜道に例えるのなら、私はその時行き先を照らして道を示してくれるランプを失ってしまったのだ。
幸い、暗殺者も首謀者の貴族もすぐに捕らえられ処刑された。奨学金ももらえていたし二人の遺産もあったから、生活や学業に励むのに困ることは無かった。
それでも、私は自分がどうすればいいのか分からなくなっていた。ずっと道を示してくれていた両親が一度に居なくなってしまったから。
どうするのが正しい、私の歩む道ってなんなの。
分からない、分からないよ。教えてよお父様、答えてよお母さま――二人がいないと私、一歩も前に進めない。怖くて怖くて仕方ないの。
それでも私の問いに答えてくれる優しい二人は今はもういなくて――だから、私は過去に縋った。
「魔術理論の基礎を固め」て、「たくさん本を読み」知識を蓄える。二人が最後に与えてくれた明確な指針。それを私は突き詰めた。
魔術理論の基礎を固め、多くの本を読んで世界にあるありとあらゆる魔術を知った私。魔術理論に対する根源的理解は、本による知識で得た魔術の理解を助けてくれた。
数年経ち、大学を卒業する頃には私は尊敬と嫉妬による揶揄を込めてこう呼ばれるに至った――「賢者」と。
何ともお笑い種じゃないか。賢者――誰よりも賢い者が、自分の道さえも見えていないだなんて。
情けなくて、あまりにも滑稽で――だから私はそれから逃げるようにして魔術王国メルリアを去った。「魔術の収集の旅に出る」だとか、なんだとか言い訳をつけて、自分を知る者がいない遠い国へと逃げたのだ。
あの国にいては、いずれ誰かに恨まれて両親のように殺されてしまうかもしれないから? 自分自身が賢者の皮を被った弱くて愚かな女だとバレてしまうかもしれないから?
違う――あの国にいては、賢者である私は誰かを導かなくてはならない、何かを極めなくてはならない。そんな恐ろしいときが来てしまうのが分かっていたから。
今回はリリスの回想でした。もう少しだけ続きますのでお付き合いくださいませ。