Intld.II-xi
ちょっと? 悪趣味なお話です
「――やあ、アリキーノ卿。ご機嫌いかがかな?」
愉悦の笑みを満面に浮かべながら、エリオスは目の前で芋虫のようにもがくアリキーノを見下ろしていた。手足を捥がれ、全身に凄まじいまでの拷問や人体実験の痕が見えるその身体は、常人であれば目を背けたくなるほど痛々しい。
しかし、そんなアリキーノの小さくなった身体をエリオスは舐るように見つめる。
「全く——随分な姿になったもんだよねぇ。というか、薬物投与なんて私した記憶がないんだけど……もしかして、アリア?」
「——さぁてねぇ」
問いかけられたアリアはわざとらしくそっぽを向いて、鳴らない口笛を吹いてみせる。そんな主人の姿にエリオスは苦笑を漏らした。
「私たちがレブランク王国相手に大立ち回りを演じているときに、そんなことやってたワケ? はは、趣味悪ーい」
「アンタだけには言われたくないわね——それに、間違ってもせっかくのショーの最中にコイツを気絶させたりするわけにも行かないじゃない?」
そう言ってアリアは嗜虐的な笑みを浮かべて、アリキーノの無様な姿を見遣る。その右手は無意識に左の頬を——アリキーノの部下に蹴り飛ばされた時のうっすら残った跡をさすっていた。
エリオスはその頬に手を伸ばそうとしたが、それはアリアによって払われる。
「――治してあげようかと思ったのだけど」
「良いわよ。どうせすぐ治るわ――それに、どうせならコイツが生きてる間は、この傷を愛でてあげようかと思ってね」
そう言ったアリアの表情には、熾火のような怒りと、それをぶつける悦びとが混じり合った複雑な笑みが浮かんでいた。
エリオスは、そんな彼女を見てくすりと笑った。そして、アリキーノの髪を乱雑に掴んでその顔を強制的に上向かせる。
「だってさ、アリキーノ卿。我がご主人様にこんなに気に入られるなんて、従者として嫉妬してしまうよ――いや、うらやましいとは思わないがね」
「う……うぁう……んぅう……」
自害を防ぐための猿轡の向こうから、アリキーノ卿は掠れ、くぐもったうめき声をあげる。そんな彼の様子を横から見ていたアリアは、口元に指を当てて「んー」と言いながら、考え込む素振りを見せる。
「――今度、あの女魔術師の前に引きずり出してみない? 面白いことになりそうだけど?」
「んー、それはどうだろう? 彼女、目を覚ましたら随分とシャールと仲良くなっちゃっててさ。あの娘の狂気じみた善意? アレに中てられて、途中で慈悲をかけちゃうかもよ? 『そんなことしても、意味がありませんもの。私の恩人を悲しませるだけですわ』――みたいなこと言い出されたら、興ざめもいいところだよ」
「――無駄に声真似上手いの腹立つわね。でもまあ確かに?」
アリアはそう言って小さく舌打ちするとかつかつと靴を鳴らしてテーブルへと戻っていく。そんな中、不意に立ち止まりくるりとエリオスの方を向いて尋ねる。
「ところで、そいつ。いつまで生かしておいてくれるのかしら?」
言外に、いつまで自分はこの玩具で楽しめるのかと問われているような気がした。
アリアの問いに、エリオスはわずかに考え込んでから、アリキーノのうつろな瞳を一瞥してから、にっこりと笑みを浮かべて答える。
「計画は今のところ順調。私の思惑通りに進んでいる――なら、その結末を見せつけてから殺してやるさ」
そんなエリオスの答えに、アリアは嫣然と微笑んだ。
そういえば、昨日で投稿開始から丸二ヶ月だったようです。
これからも頑張ります。