Intld.Ⅱ-ix
今回は、少しいつもと違う形式の文章表現に、必要上挑戦してみました。
読み苦しかったら申し訳ありません。
「つまり、民衆と貴族の殺し合いであの国はこの先、滅びるってこと?」
アリアはココアを飲みながら、そう問うた。
エリオスは、「んー」と口元に手を当てながら考えるような素振りを見せる。
「それは根源的な原因ではあるけど、直接原因ではないね」
「まだるっこしい――なぞかけは好きじゃないのよ。まとめて教えなさいよ」
持って回ったようなエリオスの言葉に、アリアは硬い石床の上で貧乏ゆすりしながら、不満げに彼を睨め付ける。
そんな彼女の言葉に、エリオスはため息を漏らす。
「えぇ……まあいいけどさ」
そう言って、エリオスは語り始める。
§ § §
——最初は私もね、実力行使でレブランクを滅ぼしてやろうと思っていた。たとえ、それが無理でも王都くらいは落とさないと気が済まないくらいには、私も怒ってはいたんだ。
なに? そんな風には見えなかったって?
いやいや、そんな感情をいちいち表に出していたら悪役としては、二流だと思わない?
少なくとも、私は自分の主人を嬲られて上機嫌でいられるほど、情緒は死んでいないつもりだよ? いや、本当さ。そんな胡散臭そうな顔をしないでよ。
まあ尤も、私の怒りの原因はもう一つあってね——他ならぬ、アリキーノ卿だ。
彼ってば、私に傷をつけてくれちゃってさ。挙げ句の果てには、「お前の考えることはお見通しだ」みたいなことまで言ってくれちゃって——負けたくせに、勝ち誇った顔した彼がどうにも憎らしくてね。
だから思った——彼は癒えることのない絶望を与えてから殺してやろうと。
そして考えた——どうすれば彼に深い深い絶望を与えられるか。
答えは明白だった。彼が命を賭けて忠節を誓い、守ろうとしたものを壊してやろうと。でも、ただ壊すだけじゃあ私の気がはれないし、何より私の権能というのは、一種の天災のようなモノだからね。それで与えられる絶望は、私が彼に与えたい絶望とは性質が違う。
じゃあどうしようか。
嗚呼、そうだ。それなら彼が忠義を誓ったものの価値を暴落させてやればいい。
守る価値を、忠義を尽くす価値を揺るがし、彼の人生の意味も叩き落とそう。
「一体自分は何のために」。そんな裏切りにも似た絶望はとてもとても——私好みだ。
だから、私は考えた。
どうすれば、価値は落とせる? 華やかな王都の貴族たちの、無辜たる一般市民たちの皮を引き剥がし、その下にある、醜い悪性を剥き出しにさせよう。
たとえ上手くいかなくても、それはそれ。だってこれは一種の自己満足なのだから、叶わなくても「残念だなぁ」と思うだけのこと。
至上目的さえ果たせれば、後はまあどうでもいい。
もし仮に、全てがうまくいったとしよう。狙い通りに王都に倫理的崩壊、秩序の崩壊が起これば、レブランクという大国全体にその影響は広がる。
そうすれば、貴族制の崩壊を厭う生き残った地方貴族たちが王都の制圧に動くだろう。もしかすると、我こそは新たな国王にという野心も働くかもね。
対して貴族たちへの不信と憎悪に駆られた王都の市民たちは、切り捨てられかけた一般兵たちと結んで対抗する。
そうなれば、地獄のように素敵な内乱の完成だ。
そうなれば辺境の防衛能力はガタ落ち——これまでレブランク王国に煮湯を飲まされてきた隣国や、植民地扱いの属国たちは反旗を翻し、やがて王国への侵攻が始まるだろう。
レブランクは王都以外も騒乱と蹂躙の混乱に覆われる。
——そしてその全ては、自らの命を惜しんだ王と宮廷貴族たち、憎悪に身を焦がし最善を見失った衆愚たち。全て、アリキーノが忠義を誓い、あるいは守ろうとしたモノたちの本性によって引き起こされるんだ!
それをアリキーノは、動くことも自決することも出来ないまま、ただ見せつけられる。彼の自由になるのは頭の中だけ。それすらも、私のコーディネートしたこの喜劇によって魔女の釜の底みたいなどす黒くて痛々しい感情が、彼を苛み続ける——嗚呼、最ッ高の絶望だと思わないかい!?
と言うわけで、今回の後半はエリオスの言葉を「」付きのセリフとしてではなく、一人称の文章っぽく綴ってみるという形式にしてみました。
独白みたいに見えますけど、一応対話相手としてちゃんとアリアはいます。黙ってココア啜ってるだけなので、エリオスの一人相撲感が否めませんが。
こういう形式って読者の皆様的にはどうなのでしょうね?
「感想」等でご意見をいただけますと今後の参考になります。