Intld.II-vi
「それで、本当に貴方は何をしにきたんですか?」
「ねぇ、言いたかないけどココ、私の屋敷の部屋なんだけど——」
シャールは冷たい目を向けたまま、エリオスに訥々と言った。そんな彼女の態度にエリオスは心底不満げな表情を見せる。
「あーもー! 本当に信用ないね。私は彼女を客人として迎えているんだ。危害なんか加えないよ」
「どうだか——」
シャールは吐き捨てるようにそう言った。彼女の脳裏には、王城のテラスでのエリオスとファレロのやりとりが思い出される。
彼は嘘をつく。他者の絶望のためならば、自分の愉悦のためならば、躊躇うことなく嘘をつくし、人を騙す。
その果てに引き起こされた惨劇を知っているからこそ、シャールはエリオスの言葉を信じられなかった。
そんな威嚇するように、エリオスを睨め付けるシャールの背後から、不意にリリスがエリオスに問いかけた。
「一つ、お聞きしたいことがありますわ——貴方は一体、どうしてシャールに私を助けさせ、そして今もここで介抱させているのです? 私は——」
「君は私のことを殺したいほど憎んでいるのに——って?」
言葉の続きを奪ったエリオスに、リリスはわずかに目を伏せる。
「それもありますが、貴方にとって私は一度この屋敷に攻め込んだ賊でしょう……どうして生かしておくのです? どうして——」
「皆みたいに殺さないのか——そう言う話? なら答えは簡単だよ」
エリオスは部屋の隅にあった椅子を引っ張り出して、それに腰掛ける。
「もうとっくに君たちの私に対する非礼は清算されている。そこのシャールのおかげでね」
「え——」
「彼女は私の課した仕事を見事にやりおおせた。それを以って私は君たちの非礼の落とし前がついたものと考えている。だから殺さない、君たちと私の間には、もはや何のしがらみもないと言うわけさ」
そう言ってエリオスは肩を竦めてみせる。
そんなエリオスをリリスとシャールは苦々しげな表情を浮かべながら見ていた。
そんな二人に、エリオスはさらに言葉を続ける。
「そうなれば、私としてはもはや君は本当に単なる客人に過ぎない。ならば、殺す必要なんてないだろう?」
「私が貴方に殺意を抱いていたとしても?」
「それこそ考慮する必要もないコトさ。だって君、私に勝つことなんて出来ないだろう——もう忘れた?」
エリオスの言葉に、リリスはわずかに歯噛みする。そんな彼女を見ながら、エリオスは愉しげにふふんと笑ってからゆらりと立ち上がる。
「そもそも、今の君では私の寝首を搔くことだって出来はしない。そんな悔しそうな顔をするのなら、せめて少しはその身体を癒すことだ」
「え——?」
エリオスの言葉に、シャールとリリスはその意図を計りかねたように困惑の色を浮かべる。そんな二人にエリオスはわずかにため息を漏らしながら告げる。
「君が一人で歩き、一人で出て行けるようになるまではこの屋敷への滞在を認める——それを言いにきたんだ」
エリオスは唇を尖らせながらそう言うと、踵を返してつかつかと早足で部屋を出ていく。
そんな彼を見つめながら、シャールとリリスはぽかんとした表情を浮かべていた。
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