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Intld.II-ii

またもや投稿時間遅れて申し訳ありません。

「ごめんなさい――見苦しいところを見せ……ましたわね」


ヘッドボードに身体を持たれかけさせて、リリスは穏やかな声でそう言った。声や口調は落ち着いていて、かつてのリリスと大差ないように見えるが、そのやつれた顔や頬を伝う涙跡にはどこか痛々しさが感じられる。

しかし、そんな様子を覆い隠さんばかりに、リリスは笑顔を作って見せる。


「改めましてお礼を申し上げますわ、シャール」


「いえ、そんな――私なんかに……」


「いいえ、いいえ。貴女にはいくらお礼を言っても足りませんわ。あのときだって、まともにお礼も言えないで私は――」


リリスは目を閉じてうなだれる。

そんなリリスにシャールは何か言葉を掛けようとしたが、喉の奥に色々なものが痞えて何の音も紡ぐことが出来なかった。


「ところで、ここは一体……どこかの貴族の御屋敷?」


そんなシャールに対して、リリスはどこか不安げな表情で辺りを見回しながら問いかける。そういえば、リリスは地下牢を出た時から今まで、ずっと眠り続けていたのだ。自分がどこに運ばれてきたのか知るはずもないし、誰が自分をここに連れてきたのかも分かるはずがない。不安になるのも仕方のないことだ。

しかし、シャールの中にはためらいがあった。リリスに此処がどこで、誰の屋敷なのかを伝えることに。

自分が今、リリスに向けられている視線。

かつては、絶対に自分などには向けられるはずの無かった、感謝と好意の視線。彼女はきっと勘違いをしているのだ。シャールはあの日、エリオスから命からがら逃げ延びて、命を繋いだのだと。シャールがたった一人で王城の兵士たちを退けて、自分を助けに来たのだと。

本当のコトを知ったなら、彼女はシャールにどんな目を向けるだろう。

仲間たちを殺した男の下に身を寄せて、祖国を攻める彼の側にいたのに何もしなかった卑怯者の自分を。

自分の立場は分かっていたはずなのに。罵られ、後ろ指を指される覚悟だってしていたはずなのに。彼女の純粋な感謝の視線を前にすると、それが鈍り錆びていくような感覚に襲われる。


それでもシャールは震える唇を開く。

きっと隠し通すことなんて出来はしない。仮に隠し通すことが出来たとしても、こんなに弱って、寄る辺を失ったリリスを騙すなんてことはシャール自身が許せないから。


「ここは――エリオス・カルヴェリウスの屋敷、です」


「え――」


リリスの表情が強張る。温かかった視線が急速に熱を失っていくのが分かる。唇が震えだし、布団の上に置かれた拳に込められた力が強くなっているのも見て取れた。

怖い、怖い、怖い。

目を背けたい。この部屋から今すぐ飛び出してしまいたい。彼女の口から何か言葉が飛び出てくる前に。それでも、シャール動かなかった。高尚な覚悟や、信念があったわけではない。ただ、動けなかった。目を逸らすことすら許されない。やつれ、傷ついているにもかかわらずリリスの目にはそんな力のようなものがあった。

シャールは、唇をかみしめながらただリリスの口から放たれる断罪の言葉を待つしかなかった。そんな痛いほどの静謐が支配する部屋の中、リリスが沈黙を破った。


「――少し、驚きましたわ」

Interlude.Ⅱは一体どれくらいで終わるでしょうかね。

作者的には、10パート前後で終わらせたいですが……果たして

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