Intld.II-i
投稿遅れました申し訳ありません。
Episode.3の後日談。Interlude.II、始まります。
柔らかいベッドの上で、女魔術師リリスは目を覚ました。
まともな寝所で眠るなんてどれくらいぶりだろう。ルカント王子との旅の中でも、まともな宿に泊まれる機会なんて数えるほどだったし、その後は――
リリスは不意に頭に痛みが走るのを感じて、身体を布団の中で折り曲げる。
やめておこう、思い出すのは。リリスは目を閉じて、自分に深く深く言い聞かせる。
自分はどうなったのだろう。
眠りに落ちる前、誰かに会ったのだ。その誰かに助けられて、自分は今ここにいる。彼女に、この世の地獄のような牢獄から助け出されたのだ。
彼女はあの日最後に別れたときに見せたような強い瞳をしていた気がする。少し震えていたけれど、凛とした声も、剣と共に握りしめたモノもどこかあの人に似ているような気がした。だから、あの人が助けに来てくれたんじゃないかって、そんな気すらしていた。
本当に助けに来てくれたのがあの人だったのならば、ロマンチックな恋物語の結末のようで素敵だったのだけれども。そんなことはあり得なくて。
実際に助けてくれたのは、自分がずっと顧みることの無かった——
「しゃー、る……」
「リリス様?」
ふと足元の方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
リリスはその声に弾かれたように起き上がる——つもりだったが、ひと月以上もの間痛めつけられた身体はそうやすやすと自身の意思にも従ってくれないもので、痛む手足をフル活用して、鉛のように重い身体を芋虫のように捩らなくては上半身を起こすことすらままならなかった。
「リリス様、ご無理は——」
声の主はそういうと、リリスの下へと駆け寄って彼女の背中に手を添える。そしてゆっくりと、労るような優しさで、彼女の上体をヘッドボードにもたれかけさせる。
荒れた呼吸を整えて、リリスは声の主の方を見る。久々にまともに直視した日の光が眩しすぎて、それを背に受ける彼女の顔が一瞬見えなくなるが、それでもリリスはじっと日の光に負けないようにと彼女を見つめる。
やがて目が慣れて、彼女の顔がはっきりと見えるようになる。透き通るような金糸の髪、純粋でどこか危ういけれど、真っ直ぐな瞳。飾り気のない薄い唇。
彼女の顔がよく見えるようになるにつれて、記憶も鮮明になっていく。
牢獄に繋がれた自分を見つけて、嬉しそうに、それでいて悲痛な声でその名を呼んだ彼女の姿も。縛めから放たれて倒れそうになった私を抱きとめた細腕の感触も。恐ろしい囚人たちの声々に立ち向かった、凛然とした瞳も。
リリスは唇を震わせながら、頬に熱いものを伝わせながら、彼女を呆然と見つめていた。
「リリス、様?」
不思議そうな顔をして見つめる彼女。リリスは力の入らない両腕を震わせながら、彼女に向かって伸ばす。上体を乗り出すようにして。しかし、力の入らない今の身体は思い通りになんてならなくて。リリスの身体は、崩れ落ちそうになる。
そんなリリスを、彼女は抱きとめた。
「リリス様、まだご無理をされては——?」
リリスの耳元でそう心配そうに言う彼女の肩に震える手を回し、リリスは嗚咽をなんとか抑えながら、胸の中にある大きくて張り裂けそうな想いを口にする。
「あり……が、とう……あ、りが……とう……助けて、くれて……生きてて、くれて……あり……がとう……シャール……!」
その言葉に彼女——シャールは驚いたように一瞬身体を震わせたが、すぐに柔らかな表情を浮かべてリリスの細い身体に手を回して、強く強く抱き締める。力の入らないリリスの分も、強く強く。
そして、静かな声で——溢れ出す感情を抑えきれない震える声で言った。
「こちらこそ……生きていてくれて、本当に嬉しかった。ありがとう……ございます。リリス様——」
Episode.4の執筆に向けて、少し休載しようかなー、とか思ってたんですが、休載するとそのままズルズルいきそうなのでもう少し頑張ります。
毎度のお願いではありますが、拙作をお気に召していただけた方は評価、ブックマーク、感想等いただけますと励みになります。




