Ep.3-78
「――みぃつけた」
緑色の光の漏れ出る扉を開くと、エリオスはにんまりと笑ってそう言った。
そんな彼の視線の先にあったのは若草色の光を放つ宝玉だった。石の壁にはめ込まれた宝玉は、ぼんやりとしていながらにとても強い光を放っていた。エリオスは興奮を何とか押さえつけるように、息を整えながらゆっくりと宝玉に近づいていく。
神聖なまでの光を湛える宝玉に、エリオスの手が伸びる。しかし――
「――ッ!?」
宝玉に触れようとした手から何かがバチンという弾けるような音が石壁に囲まれた部屋に響いた。エリオスは驚いたような表情を浮かべて、弾かれた手を見る。しびれるような痛みが残る手をさすりながら、宝玉を睨みつける。しかし、その目とは裏腹にその口元には笑みが浮かんでいた。
「やっぱり、聖剣と同じか――」
エリオスにとってはソレが本物かという点についてのみ、わずかながらに不安を持っていた。レブランク王国王家が長い歴史の中で営々と受け継ぎ、守り続けてきたソレが本当にエリオス自身が求めるモノなのかという不安。
この宝物についての話をしたときのアリキーノの焦りようや、この厳重なまでの隠しようから見るに確信に近いものはエリオスの中にあったが、それでもその宝物が最初から偽物であったという可能性もあるわけで。
しかし、その不安はこの一瞬の出来事によって解消された。エリオスの手を弾く――その原理は分からないが、聖剣と共通するその特徴こそが、この宝玉がエリオスの求めるものであることの何よりの証明であった。
エリオスは喜色を隠すことなく、短く詠唱する。
「――『私の罪は全てを屠る』」
エリオスの呪詞が淡い光の中に融けるのと同時に、足元の影は揺らめき立ち上がり、影の槍となって真っすぐに宝玉の放つ緑色の光の中へと突っ込んでいく。しかし、そんな影の槍は宝玉に触れた途端に霧散する。それを見て、エリオスはわずかに表情を顰めた。
「そう――対抗力は聖剣以上ってわけか。まあ、彼が手づから作ったモノだろうから、当然と言えば当然か。全く忌々しすぎて嬉しくなってくるじゃないか」
鬱陶し気な表情を浮かべてエリオスはそう毒づくと、今度はすっと宝玉に顔を近づける。よくよく見ると、青い宝玉の中には複雑な幾何学模様の線や点が描かれていて、宝玉から放たれる光もその内部の紋様によってその色や具合がだいぶ変わってきているようだった。
エリオスは宝玉から顔を離すと、その指先で今度はつんと宝玉が埋め込まれた壁の石組みをつついて見せる。反応は無く、ただ冷たく硬い石の感触がエリオスの指に伝わって来るだけだ。
エリオスはそれを見て、にんまりと笑って見せると、右手の人差し指を前に突き出して、くるりと円を空中に描いてみせた。
次の瞬間、その指の軌跡をなぞるように、石壁の上をエリオスの影から伸びた黒い槍が走った。




