Ep.3-77
エリオスは部屋から出ると城の廊下を再び歩き始める。しかし、その足取りは先取りとは全く違っていた。ふらふらと行く先の定まらない物見遊山のような足取りから一転して、彼の足取りは速く、力強く。すでに目的地が定まっていて、その道のりもはっきりと分かっているかのように、まるでこの城の主であるかのような堂々とした歩みだった。
廊下の分かれ道も、階段も迷うことなく進みエリオスはある部屋の扉に手を掛ける。しかし、そのドアノブにはカギがかけられていた上に、ぐるぐると厳重に鎖と錠が施されていた。エリオスは小さく舌打ちする。
「『我が示すは大罪の一。踏破するは憂鬱の罪。私の罪は全てを屠る』!」
腹立たし気にエリオスが早口で詠唱すると、そんな彼の気分を代弁するように彼の足元の影から素早く、荒々しい勢いで黒い槍が飛び出て扉と錠と鎖をもろともに粉砕した。エリオスは足元に散らばる扉の残骸を踏み越えて、ずいずいと部屋へと入っていく。
その部屋はシックな調度品と装飾が施された空間で、カーテンの閉め切られた窓際には重厚感のあるマホガニー材の執務机が、その手前には応接机とそれを挟むように革張りのソファが二つ置かれていた。
「良い部屋じゃないか――ちょっと鉄臭いけど」
そう言って、エリオスはちらりと床の片隅を見る。カーペットに広がっていた赤黒いしみがこの部屋で何が起きたのかを窺わせる。
「やっぱりそう言うことか――ま、そんな顛末だろうとは思ってたけど」
エリオスはそう小さくつぶやくと、不意に執務室の本棚へと近づく。厚みのあるハードカバーの本たち――政治学や宗教学、哲学や歴史学の本が並んでいた。その中でエリオスは一冊の本の背に指を宛がう。タイトルは『アヴェスト聖教会聖典官による神話的遺物の位置づけと、最高司巫託宣との乖離に関する考察』というモノだった。タイトルの中のキーワードから考えるに、ジャンルとしては宗教書だろう。
「なっがいタイトルだことで――」
エリオスはそう呟きながら、その背をぐいと本棚の奥へと押し込んだ。その瞬間、ギィという音が本棚の向こう側から響いたかと思うと、本棚が横にスライドした。その後には黒々とした空間が口を開けていた。
エリオスは目の前で起きた出来事に、少しだけ驚いたような呆れたような表情を浮かべる。
「はは――古典的過ぎやしないかな、この仕掛け」
そう零しながら、エリオスは黒々とした空間へと歩みを進める。本棚の裏の空間から伸びた通路は、これも何度も枝分かれし、曲がりくねっていて方向感覚を狂わせるが、エリオスはそんな迷路のような道も迷うことなく進んでいく。
不意に通路が行き止まりになり、目の前に小さな扉が現れる。その隙間からは、緑色の光が漏れ出ていた。エリオスはそんな扉を躊躇なく開いた。
ここのところ忙しくてお久しぶりの感はありますが……毎度のお願いです。
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