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Ep.3-72

『推測するにね、聖剣の能力っていうのは形式(カタチ)としては私の権能(チカラ)と似たようなものなんじゃないかと思ってね』


数日前、館の地下実験室で聖剣の研究を行っていた際にエリオスはシャールに何の気なしにそんなことを言っていた。聖剣を握りしめたシャールの中の魔力の流れと、刀身からあふれ出す魔力、その力の発動のプロセスを考えるに、魔術とは根本的に違うモノではあるらしい。

エリオスは滔々とその理屈を独り言のように語っていたが、魔術やそれに関連する学問についての素養に乏しいシャールにはいまいちその言葉の意味が分からなかった。

しかし、そんな彼女にも一つだけ記憶に残っているモノがあった。


『私の権能は、私自身の力と表現するのは厳密には違う。権能の核ともいうべき私とは別の存在に語り掛け、その力を引き出し利用する。聖剣の力も使用者の想いや祈り、或いはそれを具現化した言葉に応答して力を発現するというのは権能に似ている――そんな風に思うんだよね』


想いや祈りに聖剣は応答する――そんなエリオスの言葉が思い出された。

だから、シャールは今この瞬間自分の裡にある願いを言葉にしてみた。そうすることで、きっと聖剣に自分の想いがより一層はっきりと伝わると思ったから。


「萌芽の理を司る聖剣よ――木の芽が石と土をかき分け光を求めるように、私の道を切り開いて」


その瞬間、聖剣からこれまでに感じたことが無いほどの強い魔力があふれ出てくるのを感じた。目の前の重厚で堅牢な石の壁――今なら切り裂ける気がした。

シャールは奥歯を噛み締めて総身の力を込めて、目を閉じてアメルタートを振り下ろす。

その瞬間、すさまじい破壊音が地下牢に響き渡る。

目を開くと、足元には強固に組み固められていたはずの石たちがバラバラと転がっていて、目の前には黒々とした空間が広がっていた。


「――この先に」


「お、おい――嬢ちゃん!?」

「ま、待ちやがれ――」


囚人たちは、シャールの背後から喚き散らして腕を伸ばすがシャールはそんな彼らを振り返ることなく黒い通路の向こうへと駆けだした。

暗い隠し通路の中は明かりもなく、シャールはアメルタートの刀身が放つわずかな光を頼りに進んでいた。

そんな中、不意に真っ暗だった視界の先に朱色の光の筋が見えた。それは、扉から漏れ出る光のように見えた。シャールは思わず息を呑む。

光に近づくにつれて、空気に変化があった。澱んで悪臭が漂っているのは変わらないのだが、それに薬品のツンと鼻を突くようなにおいが加わっていてこの先の空間が単なる地下牢とは違う異質な空間が広がっていることを予感させた。

シャールは肺に流れ込んでいた澱んだ空気を吐き出して、まっすぐ黒い扉を見据え、ドアノブに手を伸ばす。鍵はかかっていない。

ギィという軋んだ音とともに扉が開き、ちろちろと燃える蝋燭の炎の光に照らされた空間が目の前に広がる。


「――ッ!」


シャールは思わず息を呑んだ。

目の前の石壁、そこには四肢を不気味な文様が刻まれた鎖でつながれた人影があった。それを見て、シャールは震える唇でその名を呼ぶ。


「――リリス、様」


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