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Ep.3-71

「なあ、嬢ちゃん。もしかして、魔女を探してるのかァ?」


巨漢の囚人は、その見た目にそぐわない猫なで声でシャールにそう問いかけた。容姿と声、そしてその目線から透けて見える性格のアンバランスが、シャールにすさまじい嫌悪感と恐怖を与える。しかし、シャールはかぶりを振ると、まっすぐ囚人を見つめる。

そう、考えてみればこんな男は怖くなどない。単に大きくて凶悪な人相と生理的な嫌悪感を植え付けるような喋り方をしてくるだけの男だ。エリオスと比べれば、よっぽど一般人寄りなのだから。

シャールはそんな風に自分に言い聞かせながら、あくまでも毅然とした風を装って囚人に応える。


「知っているんですか?」


「あァ、しってるよォ。俺らァよおく知っている――なんせ、その魔女は一度この中にぶち込まれて俺らと一晩仲良く過ごしたことがあるんだからなァ」


ねっとりとした彼の言葉に、シャールは全身が熱くなるのを感じる。思い出されるのは、館で対峙したアリキーノの言葉。シャールは身の内で暴風雨のように荒れ狂う激情を何とか押しとどめ、努めて落ち着いた風に、そして努めて純粋な少女のように問い返す。


「じゃあ、その人がどこに閉じ込められているのか教えてください!」


「へっへ……教えてあげてもいいんだけどなァ。タダっていうのは、なァ?」


そう言って巨漢の囚人は、同じ雑居房の中にいる他の囚人たちと目を併せて下卑た笑い声を漏らす。

――やはりそう来るか。シャールは内心舌打ちしたい気を抑えながら、口を開く。


「そう、ですよね……私に出来ることならなんだってしますから、お願いですあの人のところへの行き方を教えてください!」


「そうだなァ、じゃあ俺たちをここから出してくれよ。その剣で地下牢(ここ)への扉をこじ開けたんだろ? ならこの鉄格子の鍵だって――」


「分かりました!」


「――え?」


シャールの即答に、もっとごねると思っていた囚人たちは思わず絶句する。そんな彼らに、シャールは畳みかけるように叫ぶ。


「私はどうしても、あの人を助けなきゃいけないんです! そしてそれは今しかない! だから――早く、お願いです。教えてください!」


その気迫に呑まれるように、囚人はわずかに後ずさる。しかし、直ぐにその顔には下卑た笑みが戻る。単純で愚鈍な小娘がまんまと口車に乗ってくれた、そんな喜びを隠しきれないというような笑みだった。彼は調子に乗って、鉄格子から手を出してその太い指で地下牢の通路の突き当りの壁を指す。


「アリキーノたち拷問官どもが使ってたのはな、そこの壁にある――」


「そこですね」


シャールは囚人の言葉を最後まで聞くことなく、ずいずいとその壁に近寄ると壁に触る。触感は重厚な石づくりの壁。一部の隙も無く、隠し扉になっているようには見えない。壁を触るシャールに、囚人は喉の奥を鳴らすような笑いを漏らしながら相変わらずの猫なで声で語りかける。


「そこにはなァ、カラクリ仕掛けがあって決まった石組みを決まった順番で叩かなけりゃあ開かないんだよ。その順番を教えて欲しかったら先にこの牢を開けて――」


そこまで口にしたところで囚人は思わず言葉を詰まらせる。目の前の少女が正気の沙汰とは思えない行動をとったから。シャールは堅牢な石の壁を前に高々と剣を掲げる。石壁を斬り崩すつもりか――馬鹿な、いかに切れ味の良い剣だろうと少女の力で石の壁が壊れるはずがない。本当に馬鹿な小娘だ。

そんなことを考える囚人をよそに、シャールはその薄紅色の花弁のような唇から音を紡ぐ。


「萌芽の理を司る聖剣よ――木の芽が石と土をかき分け光を求めるように、私の道を切り開いて」


その瞬間、新緑の輝きが白金の刀身から、泉のように湧き溢れる。シャールはその溢れる魔力を感じながら、全身全霊でアメルタートを石の壁に振り下ろした。

70話くらいで終わらせる見込みだったんです……本当なんです……

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