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Ep.3-69

レブランク王国の王都マルボルジェから、遥か西方ベルカ公国の森の中のエリオスの屋敷――その地下実験室に遠く離れたところにいるはずのエリオスの笑う声が響いていた。

実験室の中央には、木製の簡素な椅子がぽつんと置かれていて、その上には鎧姿の男が縛り付けられている。長い丈のひざ掛けを脚に掛けられた全身傷だらけの男――数時間前にエリオスの館に攻め込み、敗北したアリキーノ子爵は、目を血走らせながら目の前のテーブルに立てられた鏡を睨みつけ、さるぐつわ越しに唸り声をあげていた。


『あはは、いい顔じゃないかアリキーノ子爵。その顔が見たかったんだぁ』


鏡に映るのはアリキーノではなくエリオス、そして荒廃したレブランクの王都の様子だった。エリオスは、アリキーノのうめき声に心底満悦そうな笑みを浮かべる。


「――まったく、遺物をこんなことに使って。悪趣味」


実験室の影からそう言いながら現れたのは、アリアだった。アリアは、アリキーノの横を素通りして鏡の前に立ってエリオスを見つめる。


「だいたい、こんなド変態騎士と私を二人っきりにするだなんてどういう了見なの? ほーんと信じられない!」


『それは――ごめんなさい。でも役回り的にこれしかなかったんだって……許してよ、マイフェアレディ』


「ま、万が一なんてことは無いのだけどね」


そう言ってアリアは振り返ってアリキーノに歩み寄ると、その下半身に掛けられたひざ掛け――よく見ればそれは、彼が纏っていたマントの一部だった――を乱雑にはぎ取る。そこには何もなかった。そう、アリキーノの脚は無くなっていたのだ。

太腿から下を乱雑に切断され、ぐるぐると血のにじんだ包帯の巻かれただけの傷口は痛々しい。アリアはそんな彼の傷口を思いっきり硬い靴で蹴り上げる。


「ぐぅぅぅう!?」


「くふふ。良いざまねぇ」


椅子の上でのたうつアリキーノを見ながら、アリアは口元に手を当てて上品そうに笑う。そんなアリアの様子に、鏡の向こうから呆れたようなエリオスの声が聞こえてくる。


『悪趣味はお互い様じゃないか』


「あら、当たり前でしょ。私、貴方のご主人様なんだから」


『うーん、ぐうの音も出ない正論だ』


鏡の向こうで肩を竦める仕草をしながらエリオスはそう言った。


あの時、エリオスの影の槍に足を貫かれ、気を失ったアリキーノはそのまま死ぬところであった。しかし、それをエリオスはこともあろうに生かすために治療を施したのだ。両足を逃げたりアリアに危害を与えられないように切断し、地下室に監禁した。

目的はただ一つ、アリキーノに受けた傷の報いを受けさせるため。

そのために、エリオスはかつて入手した魔道遺物である「遠見の鏡」を使って、アリキーノが忠誠を誓う王族たちと、彼らの住まう王都の崩壊していく様を見せつけ、深い絶望と後悔を彼に植え付けようとした。

そして、その片棒を担がされた――王国が崩壊する様を鏡を通してアリキーノに見せ続け、絶望を与え続けるという役目をエリオスに申し付けられたのが、シャールだった。


「ほほふゥ! ほほふぃへひゃうゥゥ!」


猿轡越しに響く、くぐもったアリキーノの声。アリキーノにだって、そんな声を上げてもエリオスたちを楽しませるだけだというコトは分かっている。しかし、叫ばずにはいられない。怒らずにはいられなかったのだ。歪んでいるとはいえ、彼は厚い忠誠を以て王国に仕える騎士であり、軍人だったから。

そんな彼に、エリオスは鏡の向こうから笑いかける。


『君、あのとき勝ち誇ったみたいに私を笑ってくれたよね――最後まで王国に忠節を果たせたと思った? 王国のために殉死できたと思った? 残念! ぜーんぶ私がぶっ壊してあげちゃったよ! 勝手に勝ち逃げみたいに死ぬなんて、悪役()が許すわけがないじゃないか!』


「ふゥゥゥ!」


唸るアリキーノを見ながら、傍らでアリアはにまにまと笑う。

そんな彼女以上に愉快そうな表情でエリオスはさらに続ける。


『もう少しだけ君には生きててもらうよ――君はそこで、動かない手足と無力で愚かな自分を恨みながらこの国の終わりを見ると良いさ。くく、あはは、あははははははは!』

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