Ep.3-67
唇を噛み締め黙り込むシャールを見ながら、エリオスはふふんと得意げに笑ってみせる。
「少し、いじめすぎたかな?」
「うるさい、です……」
シャールは静かに、絞り出す様にそう言うとエリオスから目を背けた。
ほんの少しの間、沈黙が2人の間を支配する。そんな中で、エリアスはふいに口を開く。
「そう言えば、君にはご褒美をあげるって約束したね」
「え——」
シャールは少し呆けたような声をあげて、エリオスの方を振り返る。彼女の様子を見てエリオスはくつくつと笑う。
『ちゃあんと役目を果たしてくれるのなら、君にご褒美をあげるよ――』
そう言えば、先程エリオスはそんなことを言っていた。シャールに課せられた役目——未だに彼女の手元にある鏡を、持ち続ける。簡単至極にして、彼女にとって最悪の役目。
今更そんなことを言い出すエリオスを訝るように、シャールは眉根を寄せる。
「——ご褒美って、まだなにか?」
シャールとしては、彼の言う「ご褒美」とは広場の平民たちを助けることだったのだと理解していた。尤も、それはシャールにとって喜ばしい結果をもたらすモノではなかったわけだが。
エリオスは、そんなシャールの思考を察したかのように苦笑を漏らす。
「あはは、まあさっきのもご褒美の一環だがね。どちらかと言えば、こっちが本丸、かな——」
不意にエリオスの言葉が途切れ、眼下の広場を見遣る。その瞬間、ドンと大きな音がして、広場の人々のざわめきの質が変わる
シャールが見下ろすと、人々が城門に殺到し、城の中へと駆け込んでいく。
「な、何が——」
「ファレロたちを傷つけ、殺し切った時、彼らの怒りは収まるだろうか。膨れ上がり暴走した殺意——それも大衆が共有する『大義ある』悪意は止まらない。彼らはきっと、城の中にいる王族や他の貴族すらも引き摺り下ろし、そして殺そうとするだろう。女子供であろうとね」
「な——!?」
エリオスの言葉にシャールは絶句する。
そんなことは間違いなく間違っている。他の貴族や王族たちは彼らの怒りに何の責任も無いのだ。全てはマラカルド王やファレロ、御前会議の面々が決めたことだ。
「でもほら、私が提示した条件は『王都の生き残った平民か、城の王侯貴族全てか、どちらかを差し出せ』だったからね。無関係の王族の子女や貴族に怒りの矛先が向いたっておかしくない——かもね?」
「まさか、貴方はそこまで——」
「考慮はしていた。とは言え、これもやっぱり善良なる一般市民諸君の決めることであり、これから始まる殺戮が罪ならば、それは彼らの罪だ」
冷たく言い放つエリオス。
城内の各所からは混乱の声や絶叫が響き始める——更なる惨劇が始まるのだ。善良だったはずの人々が、悪魔に変わる惨劇が。
シャールはエリオスに背を向けて走り出そうとする。そんな彼女をエリオスは止めた。
「何する気だい?」
「彼らを——みんなを止めます」
震える唇でそう溢すように言ったシャールを、エリオスは嗤う。
「やめておきな。無駄だから——」
気分の良くない展開が続きますが、まあ悪役を主役に据えると言うのはこう言うことだよなぁ、と思う今日この頃です。
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