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Ep.3-62

前回の予告通り投稿時間遅れました……申し訳ありません

「それでは、華のレブランク王国の皆々様——幾星霜にもごきげんよう」


そう言って慇懃無礼に腰を折るエリオスの姿は、直ぐにファレロの視界から消えた。足元が崩れ、落下していくファレロ。取り巻きの貴族たちは何事か叫んでいるし、広場の市民たちは何か喚いている。その全てが雑音のように右から左へと流れていく。


「ぅあ――」


ファレロは思わず虚空に手を伸ばすが、その手は空を切ってなにも掴めない。

時間にして一秒あるかどうかという落下時間が、ファレロには無限に広がるように感じられた。

そんな歪んだ時間の終わりはすさまじい激痛と共に訪れた。


「う――ぐぅぅぅッ!」


斬り砕かれたテラスの瓦礫の上に思い切り背中を打ち付けた痛みに、ファレロは大きくうなるように苦悶の声を漏らす。しかし、その苦悶の一方で、この激痛が自身の生存の何よりの証拠であることを実感していた。


「くぅぅ――く、くくく。ははは」


苦悶の声に混じって、ファレロは笑い声を零す。

――どうだ、生きのびてやったぞ。エリオス・カルヴェリウスの蛮行から生き延びたのだ。ただその事実が――自分がエリオスの思惑を越えたという事実が、ファレロの歪んだ自尊心をくすぐった。少し周囲を見回してみると自分と同じようにテラスに貼り付けられていた貴族たちも、なんとか命を繋いでいるようだった。

家一つ分以上の高さから落下した割に、誰も目立った外傷が無いのは気になったが、そんな些細な懸念はすぐさまファレロの脳裏から消え去った。

よろよろと立ち上がり、ファレロはテラスがあったはずのところを見上げ、そして笑う。


「――はは」


見上げた先。そこからエリオスと彼の側に控えていた少女・シャールがファレロたちを見下ろしていた。エリオスはつんと澄ましたような表情を浮かべているが、シャールの方は恐怖を湛えたような表情を浮かべて彼らを見ていた。


「はははは! 残念だったなエリオス・カルヴェリウス! 不意打ちで我々を殺す気だったのかもしれないが、残念! 神は我らの味方のようだなァ!」


そこまで叫んで、ファレロは気づいた。違う——エリオスもシャールも、確かに見下ろしてはいるが自分たちを見ているわけでは無い。視線が合わない。

彼らが見ているのはファレロたちではなく、その背後のナニカであるように見えた。

不意に、エリオスの口の端が妖艶に釣り上がる。その笑顔を見て、ファレロは全身に怖気が走るのを感じて、彼の視線の先へと軋む身体を振り向ける。


「ぇ———あ、あああ……!」


今更になってファレロは気づいたのだ。自分たちがどこに落とされたのかを。

そして絶望的なほどに情けのない声を漏らした。その声に、貴族たちも彼と同様に振り返り、恐怖と絶望の声をあげる。


ファレロたちの視線の先。そこには表情の死んだ王都の市民たちが彼らをぐるりと取り囲むように立っていた。

ファレロは理解した。エリオスはテラスを落としたのではない。ファレロたちを、彼ら自身が「家畜」と呼んだ平民たちと同じところまで叩き落としたのだと。

まともなセリフがほとんどない回でしたね……


少し久々な気もしますが、毎度のお願いです。

拙作をお気に召して頂けた方は、評価・ブックマーク・感想等のリアクションをいただけますと、筆者のモチベーションが爆上がりいたしますので何卒……!

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