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Ep.3-56

「黙れよ……愚民どもが」


震えるファレロ王の唇から漏れ出た言葉。シャールには、その一音一音が紡ぎ出す意味を一瞬理解することが出来なかった。否、理解を拒んでいたといった方が正しいのかもしれない。そんな言葉が、この状況で聞こえるはずがないと思っていたから。信じていたから。


「は、はは……アハハハハハ、アア――ッハッハッハッハッハ!」


呆然とするシャールを前に、ファレロ王はどこか吹っ切れたかのように高く、高く笑いだした。天を見上げ、喉から血が出るような勢いの哄笑にシャールは思わず表情を引きつらせる。そんな彼女を血走った眼で睨みつけながら泡を飛ばしながら叫ぶ。


「――逆に聞こうじゃあないかァ、小娘! 私が――俺たちとそこで喚き散らすだけの愚民ども、どちらが価値があると思う! 問うまでもあるまい! 国とは俺たちであり、やつらはその手の上で飼われた家畜にも等しい! どちらを優先するかなど、そもそも問いとして成立しないんだよォ!」


「か、かちく……ほ、本気で言っているんですか……」


「ああ、本気だとも! 家畜のように働き、税を搾り取られ、俺たちに頭を垂れて尽くすのがお前たちの人生だ。こんなの家畜と何が違うんだい? 家畜はそもそも屠られるためにいるんだから、俺たちのために死ぬことこそ、彼らの存在意義って奴だろうよォ!」


「そ、そうだ! お前たちは我々の糧に過ぎん!」

「その通りだ!」

「貴様らは黙って大人しく我々のために死んでいればいいのだ!」


ファレロ王の背後に控える貴族たちも口々に市民を、シャールを罵り好き勝手に叫ぶ。そんな彼らの姿を見て、シャールはまるで自分の足元が崩れ去っていくような感覚に陥る。

何を言っているんだ彼らは――その言葉を脳裏で何度も反芻させ、咀嚼しようと試みたがどうしても理解することが出来なかった。否、その言葉を理解することを本能的な部分で拒んでいた。


彼らは平民たちを人ではない家畜と言い放った。

しかし、シャールには、目の前にいる彼らこそが人ではないモノ――とんでもない怪物のように見えた。今まで見たことも聞いたこともないほどに悍ましい、ともすればエリオスなんかよりもよっぽどタチの悪い、人の皮を被った化け物のように。


「貴方たちは、それでも……民を導く貴族なのですか……? 貴方たちのような人が、人の上に立つモノなのですか……?」


「黙れ黙れ黙れェ! ならどうすればいいと言うのだ? 我々が愚民どもの代わりに死ねば良いとでもいうのか? あぁ?」


王としての品位や威厳すらかなぐり捨てて、ファレロは叫んだ。その言葉に、シャールは思わず言葉を詰まらせる。

たしかに、シャールの言葉は言ってしまえば「民のために王や貴族は死ね」と言っているのと同じなのかも知れない。それを彼らに選べというのは、理不尽なのだろうと言うことも分かる。

だが、それでも嬉々として臣民を差し出す彼らの姿は、シャールの思い描いていた王族や貴族の在るべき姿とは大きくかけ離れて見えた。


「違う、違います、よね……?」


シャールは震える声で、ぽつりと零した。

ファレロ豹変

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