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Ep.3-55

「障壁展開――太極転写陣、開帳」


エリオスの言葉と共に、展開した薄紅色の光の壁、そして広場一面に広がった幾何学模様の魔法陣――シャールはそれらをつい最近見たことがあるのを思い出した。そう、アレはエリオスの館を取り囲んだアリキーノの軍勢、その中の魔術師兵たちが展開していた魔術。確か――『太極接触・混沌原初(インテリ―トゥム)』と言ったか。シャールの脳裏には、光の障壁の中で渦巻く破壊の極光が浮かんでいた。

エリオスは、アレを王都の民に使おうとしている。その事実に気付いた瞬間にシャールは腰に下げた聖剣に手を触れる。しかし――


「動くなよシャール。君に与えた役目はまだ完了していないはずだ。ちゃんとその鏡を抱えて――じっとしていて」


エリオスは広場を見下ろしたまま、静かにそう言った。

びくりとその声に弾かれたように、シャールはその身体を跳ねさせる。それでも震える唇で、シャールは問いかける。


「貴方は、なんでこんなことを。国王陛下も――!」


じろりとシャールはテラスに居並ぶ面々を睨みつける。

幼い少女が相手だというのに、ファレロ王も、貴族たちもその視線に黙り込む。そんな彼らをちらと見遣りながら、エリオスはくつくつと笑った。


「嗚呼――確かにこのままでは君も、市民諸君も納得できないだろうね。じゃあ、一つ説明してあげよう。私はね、そこの王サマに一つ提案をしたんだよ」


「お、おい……待ちなさい。待て……!」


ファレロ王は震える声でエリオスを制止するも、そんなものに耳を貸すほど彼は優しくはない。にやにやと笑いながら、「取引」の中身を告げる。


「『王城の王侯貴族たち全員の命か、生き残っている王都の民の命か。どちらかを差し出せばこの国からは手を引く』ってね」


良く響く声で、エリオスはそう言った。

そんな彼の言葉に、シャールは背筋を怖気が走るのを感じた。彼の言葉が聞こえた市民たちの間でも、困惑が広がっていく。

そんな周囲の状況など気に留めることもなく、エリオスは言葉を続ける。


「私のような道を外れた魔術師にとっては、人の命を奪いその魂を取り込むことこそが力の回復や増強につながるのでね。数少ない洗練された貴種の魂か、あるいは凡百ではあるけど万単位の魂か——どちらかを差し出してもらって、今回は手打ちにしようと思ってね」


それが昨日エリオスがファレロ王に突き付けていた条件かと、シャールはようやく理解した。みるみるうちに青ざめ、怒りに震えていくシャールを見ながら楽しそうに笑うエリオス。彼は、更にシャールの神経を逆撫でんとするかのように、言葉を連ねる。


「で、結果としてそこの王サマと貴族は『御前会議』とやらで、王都の市民を差し出すことに決めたらしいよ。だから私は、それをこの国の意思と判断して今彼らを殺そうとしているってワケ」


愉快そうに笑うエリオス。その背後でぶるぶると拳を震わせるファレロ王と貴族たちに、シャールは信じられないというような視線を向ける。怒り、不信、恐怖、絶望――様々な感情が身体の中で混ざり合い、撹拌されていく。

次の瞬間、シャールは思わず口を開いていた。


「貴方達は――貴方達は、いったい何なんですか……」


途切れ途切れの声ながら、強い非難の色を浮かべた声でシャールはそう言った。自分は平民で、相手は王侯貴族――天と地ほども乖離した身分の差などは、すでにシャールの頭の中には無くなっていた。


「貴方達は、自分の保身のために……罪もない人たちの命を!」


広場の市民たちも想いは同じようで、テラスの下からは非難や怨嗟の声が飛んでくる。憎悪と憤怒に満ちた声が嵐のように吹き荒れる中、ファレロ王がわずかに口の端を吊り上げた。


「――黙れよ……愚民どもが」

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