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プロローグ リグレットという少女



予言:第二話からあれなので、読むと疲れます。





 浄化の泉 『リグレット』


 巫女の役目を終えた後、一人になるその時間が、私にとって小さな慰めだった。


 冷たい湖につかって、体の熱をとる。


 ほてった体には、それがひどく心地よかった。


 このまま湖の水になって、とけてしまいたい。


 そんな心地を味わっていたら、近くの茂みがガサガサと音をたてた。


 私は警戒して、音がした方に視線を向ける。


 そこには、二十代くらいの長髪の男性がいた。

 光を拒絶するような、吸い込まれそうな漆黒の黒髪に、手の届かない深海を思わせる青い瞳。


 見る者すべてを拒絶するような雰囲気を纏うその男性は、こちらの姿を見て呆気にとられたような顔をする。


 ここに、服も身に着けず水浴びをしていた女がいたのだから、当然といえば当然だ。


 一瞬、かすれた声が耳に届いた。


「あんたは……」


 けれど、言葉を続けようとした彼の背後から、人の気配がした。


 そして、足音。


 数は複数だ。


 この男性はどうやら、何か事情があって人に追われているらしい。


 私はその男性に小さく声をかけた。


「こちらに」

「いや……」


 迷う男性を「早く」と急かす。


 湖に入ってきた男性の腕を引いて彼を沈めた後、私はそこから出た。


 畳んで置いておいた着物を手に取って、着替える。


 その途中で、こちらに近づいてきていた気配の主が姿を見せた。


 まさか、こんな場所で女性が一人水浴びをしていると思わなかったのだろう。


 姿を見せた者達が息をのんだ。


 その姿は、一見して普通の旅人に見えるが、ただものではないのだろう。


 慣れた様子で辺りを窺い、互いに目配せをする。

 そのしぐさは、訓練されたものに見えた。


 しかし私は何食わぬ顔をして、対応。


 手に取っていた布で体を隠すようにして、「覗かないでください」と冷たい声を発する。


 旅人(仮)達は、顔を見合わせて、しばらく互いをうかがっているようだが。


 どうするべきか判断がつかないらしい。


 やがて、


「悪かったな」


 そっけない一言だった。


 愛想のかけらもない声音でそう言って、この場から離れていった。


 私は、着替えかけた服を再び地面の上に放って、泉の中へと向かった。


 隠れ潜んでいる彼を引き上げなければ。


 泉から引き揚げられた彼は、限界だったのだろう。


 水面から顔を出した際にしばらくせき込んだ。


 そして、「悪かったな」と先ほどの人間と同じように謝った。


 しかしその言葉には、心がこもっている。


 巻き込んでしまって申し訳ない、とそういった感情が。


「いいえ、気にしないようにしてください。ただの自己満足なので」


 私は彼の言葉に淡々と答えた。


 名前を知らない彼は、こちらの真意を測ろうとしているのだろう。


 まっすぐに質問をぶつけてくる。


「追われていたんだぜ。かなりあやしいだろ。俺がお前をここで襲ったら、って考えなかったのか?」


 しかし、返答するよりも前に、人として最低限の礼節をわきまえてもらわねばならない。


「助けてもらったのだから、まずお礼を言ってください」

「あ? ああ、ありがとう。助かった」


 男性は、濡れた髪をかき上げながら「気にするとこ、そこか?」と呟いている。


「先ほどの質問の答えですが、別に貴方が善人に見えたから助けたわけではありませんよ」

「そうなのか?」


 私は空を睨みつけて、その向こうにいる者について思いをはせながら、述べる。


 しいていえば、それはそう……。


「ただの気まぐれです」


 そのようなものだ。


 今の行いは、普段の自分ならしない事だった。



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