スイートピーの花束
春の柔らかな日差しの中を、日傘を差した一人の美しい少女が歩いていた。
どこかへ向かう途中なのか、人で賑わう町の中をゆったりと歩いている。
途中、通りに面した花屋に寄って花束を買い、それを持って徐々に人が少なくなっていく道を進んでいった。
町の通りを抜けて、緩やかな坂を上り、町を見渡せる丘の上にある苔むした大きな岩の前に持っていた花束を置いた。
昔は立派だったのだろう岩に掘られている字は雨風に削られもう読むことは出来ないけれど、少女はそれを愛おしそうになぞる。
「……久しぶり。今年も来たよぉ」
そして、親し気に、はにかみながら声をかけるのだった。
時はとっても遡り、視点を勇者に合わせて現状を見てみる。
今、勇者は魔王城の最奥……のちょっと手前、四天王と呼ばれる四人の魔族の最後の一人と対峙していた。
流石最後。勇者と愉快な仲間たちの力を持ってしてもかなり強いし結構ギリギリの戦いをしていたところである。
最後の一人は何やらぶつぶつと「絶対行かせない」「行かせるわけにはいかない」と呟き続けているけれど、それを気にする余裕は勇者にもないのである。
それなりに長く続いた戦いは、勇者の一撃をもって無事に終わり、その場に倒れた四天王を端っこによけて彼が守っていた扉……魔王の間への扉を開けた。
つまりは、ついに魔王戦である。
ここまで来たしもうやるっきゃない、と扉を押し開けて中に入った勇者たちを待ち受けていたのは、玉座に腰かけず仁王立ちで待っていたなんか幼げな魔王(女の子)であった。
あまりにも予想と違う魔王の姿に勇者御一行が一時停止したところで、目の前の魔王(?)はふんすっと胸を張って声を上げた。
「よくきたなゆうしゃよ!」
魔王の最初の一言にしてはあまりにも舌足らずだった。
勇者はもう一ターン行動不能になった。
「このわれがぁーぼっこぼこにしてくれるぅー!」
シュッシュッとその場で空に向かってパンチを繰り出す姿が、余りにも弱そうであった。
勇者はまだ動けなかった。
あまりのことに心も体も付いて行かない。
え、なにこれ、これ倒すの?と仲間に助けを求める視線を向けた勇者の足を、何者かがいきなり掴んだ。
下を見ると、先ほど倒したはずの四天王が血を吐きつつ地を這って勇者の足を掴んでいた。
「だから、だから待ってって言ったじゃん!」
「え、言った!?ごめん聞こえなかった!」
思わず普通に返事をしてしまった。
その後、いやこれが作戦だったらどうする、と我に返った勇者を待っていたのはいつのまにやら近くに来ていた魔王のパンチだった。
ぺちっという音がした。
端的に勇者が抱いた感想は「猫パンチ……!?」だった。
「魔王様、ちょ、無理ですから」
「でもだって、かたきうちしないと」
「まだ誰も死んどりませんが」
「……手、いたい」
「ああもう……鎧の所殴るから……」
四天王に足を掴まれ、魔王にぺちっとされた勇者は仲間たちを振り返った。
その瞳が訴えるのは「これどうしたらいい?」という純粋な疑問。
なんというか、この魔王を魔王として倒すのは大分無理があるというか謎の罪悪感があるというか、どうしたらいいか分からない。
「なあ、勇者」
「え、あ、はい」
「見ての通り、魔王様代替わりしたんだよ」
「あ、はい」
「んで、今代、弱いの。レベルにすると五くらいなの」
「……はぁ」
「お前勇者なら弱いものをいじめるなよ……」
魔王のことを語っているとは思えないくらい、悲痛なる声だった。
もはや懇願。勇者に対して一番効果がありそうな慈悲を乞うという手段に出たあたり、本当にどうにもならないのではないかという気配がとっても強い。
「正直なところな、俺が倒された時点で負け確定なんだよ……」
「それは言っていいことなのか……」
「ここまで来たら誤魔化せねえもん……」
お願いだからうちの魔王様攻撃しないで……と懇願してくる四天王に足を掴まれたままどうしたらいいのか本気で分からなくて固まった勇者に、後ろでこそこそ話し合っていた仲間たちはものすごい棒読みで声を上げた。
「いやー、おれたちも、だいぶ負傷してるんだよなー」
「私もそろそろ魔力の底が見えそうだ、ナー」
「これは一回撤退するべきかもシレナイナー」
それを聞いて勇者はそっと、足を掴んでいた手を外した。
普通にそっと外したし、普通にそっと外された。
その時点で四天王の横に魔王がしゃがみ込んでいたので、二人を見下ろして勇者は声を出した。
「とりあえず、持ち帰らせて……」
「おう、ありがとな」
「よし帰ろう」
普通にお礼を言ってきた四天王と、なぜかバイバーイと手を振ってきた魔王。
ここ本当に魔王城だっけ?と疑問に思いながら来た道を戻る勇者は、場内の変化に気が付いた。
魔王の間にたどり着くまではめっちゃいっぱいいた魔族が全然いない。誰もいない。
居たのは各門を守っていた四天王くらいで、その四天王たちは倒したと思っていたのに誰も死んでいなかったしなぜか手を振って見送られてしまった。
しかも全員から「魔王様攻撃しないでくれてありがとねー」と緩く声までかけられた。
なにこれ。さっきまで全員と殺し合いの勝負してたはずなのに、何がどうしてこうなったのか。
そんな思いを抱えながら国に帰り、とりあえず王様に事の顛末を話した。
帰ってきたお言葉は「いやふざけるな、相手魔王だぞ?」だった。
うんそうだよね、俺もどうかと思う。
そんなわけでもう一回魔界に乗り込まないと行けなくなったので、二度目まして魔王城、と一回目と同じように乗り込んでみた。
一回目があったのだから警備が厳重になっているとかあるかと思ったのだけれど、そんなことは全くなかったし四天王の一人が守っていたはずの城門には見知らぬメイド服の魔人が一人立っているだけだった。
しかもこっちを見つけるなり満面の笑みを向けてきた。
「あ、お待ちしておりました勇者さん!」
待たれてた。
「四天王の方々からですね、玉座の間にお通ししろと言われておりますので!案内しますね!」
案内係だった。
「以前いらしたときに通って貰ったのは一番長い撃退ルートなので、今回は最短で!」
ガゴン!と盛大な音を立てて、メイドは立っていた場所の真後ろの壁を、動かした。
はえ?と緩い疑問の声が勇者一同のなかから漏れたけれど、気にする者はいない。正確には、それを気にすることの出来る余裕のあるものはいない。
とりあえず、なんというかガゴンしたらそこに道があった。
「ここが最短ルートです!ここを直進すると玉座の間に着きますよー!さあ、行きましょう!」
「え、きみ、つよ……」
「私物理型なので!ここを開けるために配置されましたから!」
「というか、なんで招き入れる感じに……?」
「え、だってあなたさま魔王様攻撃しなかったので!テキジャナイ!」
得意げに言ったメイドは、そのまま返事も聞かずにルンルンで開けた道に入って行った。
最短ルート、と言っていたけれど、余りにも暗い。
これはもしや罠か?と一応疑いつつ付いていくと、メイドはご機嫌に道中の説明をしてくれた。
「こっちを行くと、二個目の門ですねー向こうは鍛練場に繋がってます!あ、こっちは食堂です!今日の夕飯なにかなー。魔王城のカレーすごい美味しいんですよ!食べていきます?」
「え、いやそれは流石に……」
「やっぱりそうですよねぇ……人間が食べていったーなんて記録ないしなぁ……」
なんだこれ、と何度目かもわからない疑問を抱いたところで、出口に着いた。
結局罠も何もなく一度見た魔王の間の扉前についてしまった。
しかも、メイドが躊躇いなく扉を開け放っていた。
「勇者さんお連れしましたよー」
自分がメインらしいし、と扉を潜った勇者が目にしたのは、魔王を囲む四天王。
四天王の一人から差し出されている皿。中身は剥いたリンゴ。
リンゴをフォークにさして頬張る魔王。……シャクッ。
……いや、何食っとんねん。
「ノックをしろ!!!!!」
「え、ごめんなさい!」
「一回閉めろ!!!!!!」
「はい!」
バタン。
怒られた。リンゴを差し出していた四天王に怒られた。
待たれてたらしいのに締め出された。
なにこれぇ……と扉を見ていたら、案内してくれたメイドが振り返り、申し訳なさそうに言った。
「すみません、五分少々お待ちを……その間私が面白いかどうかは微妙な小話でもしますので……」
せめて面白い話をしてほしかった。
でも脳が追い付かないので何も言わない。
そんなわけでメイドが話始めようとしたところで、魔王の間から一人だけ人が出てきた。
確か、一回目に来た時は門を守っていた最初の四天王だ。
「なんで最短で来ちゃったの?」
「まさかリンゴ食べてるとは思わなくて……」
「そうじゃなくて!最短ルート暗いでしょ!人間暗いとこ見えないんだって!」
「え、あ……!そっか、そうですね!?」
「なんのために二番目ルートの燭台に蝋燭灯したと思ってるのー」
「ごめんなさい!私が門に配置されたの、扉開けるためだと思って!」
道が暗かった理由がただの伝達ミスだったし、魔王城で蝋燭の準備とかしてお出迎えの支度をしていたらしい。
話しぶりからして魔族にとって暗闇は普通に見えるものであるらしいから、うっかり間違えた、というか脳からすっぽ抜けていたのだろう。
なんでこんなに歓迎されているのかは本当に分からないけれど。
「君を配置したのは君がメイド長だからだよ!」
「……え、メイド長夕飯の内容知らないのか」
「……ん?あ、もしかしてそっちのメイド長って家事能力有能な子がやる感じ?」
「むしろ違うのか」
「違うねぇ。この子はねー、四天王に欠けが出た時の四天王候補だから。上の方の役職つけとこうぜーってメイド長してもらってるの」
なんか、普通に会話してしまった。
ついでにメイド長は別にメイドの一番上、というわけでもない、という使いどころのない魔界知識を取得してしまった。
メイド長、という役職の者がそれでいいのか……とか思ったが、まあここは魔界だし別にいいのだろう。
……うん、そうだった。魔界だった。魔王城で、魔王の間の前だった。
あまりにも緩いせいで正直忘れかけてた。
「……よし、入っていいぞ」
忘れかけていた真実に勇者が気付いたのと大体同じくらいのタイミングで、魔王の間の扉が内側から開けられた。
中に入ると、今日はちゃんと玉座に座っている魔王がきりっとした顔を……しようとしたのだろう表情で高らかに言った。
「よくきたな、ゆうしゃよ!」
「あ、はい。どうも」
「……これしかおそわってない。つぎなんて言ったらいい?」
「あー……うん。引き継ぎます」
「あい」
そっと前に出てきたのは、一回目で足を掴んできた最後の四天王。
ついでに言うと、リンゴを差し出してた人。
「話は基本、俺がする。いいか」
「あ、はい」
「まず言うんだが……魔王は、最近代替わりした」
「うん、言ってたな」
「この方……今代魔王なんだがな」
ポンッと肩に手を置かれた魔王は、なあに?とでも言いそうなくらい純粋な目を四天王に向けた。
……なんというか、見た目は少女、中身は幼女って感じがする。
じゃ、ないんだよ。大事なのは魔王が話に聞いた魔王と全く違うということだ。
魔王の記録はある程度読み込んできたと思っていたけれど、どの魔王も大体全部人間界に侵略しようとしかしてなかった。
少なくとも魔王城に勇者を招き入れたりはしてないはず。
「端的に言うぞ?この人、本当に戦闘力無いんだ」
「……うん、なんか、知ってたけど……」
「いっぱんへいに勝てたことない」
「それでいいのか魔王……」
「歴代魔王が持っていたはずの戦闘力を持っていないこの魔王様は、力の出力が全く違くてな。なんか、豊穣的な力が使えるんだよ」
「……それ魔王の力じゃないだろ」
「それを言われると何も言えない」
破壊系ばっかり生まれてた魔王の系統から、なぜかぴょこっと豊穣系が生まれたらしい。
それが今代の魔王であると。
理由は全く分からない、と横にいた別の四天王が教えてくれた。この人が出てきたのは二番目の扉だったと思う。
「そもそも魔界から人間界への侵攻って、食糧難が大きかったんだよ」
「そうなのか」
「おう。日の差さない不毛の地だからな。でも、今代が豊穣系だろ?」
「……あ……」
「そうなんだよ。正直言って、代替わりのおかげで侵攻する必要性消えてんだよな。今そっちで暴れてるのは先代魔王派の面々だから邪魔なら殺してくれて構わんのよ」
「そんな軽く言うか……?」
「人間だってよく内輪もめしてるだろ」
オウイケイショウーとか言って、と言われてしまうと何も言えない。
いや、直接は関係のない話なのだけど。
でもまあつまり、今の魔王たちは人間と争う気はないらしい。
言われてみれば確かに魔界に入ってからはこちらから攻撃を仕掛けなければ攻撃してこなかった気がする。
魔王城のなかでの戦闘も、魔族は基本防衛姿勢で始めていたはずだ。
「なんというかな、俺らは、魔王様だけ守れればそれでいいの」
「そう。我らが姫だけ守りたい」
「守りたいこの笑顔」
「能力とか関係なく可愛くて仕方ない」
畳みかけるように四天王が全員ひしっと魔王にくっついた。
魔王が不思議そうな顔で勇者を見てきた。
俺も分かんないから見ないで……と勇者は目を逸らした。
目線の先に居た仲間も目を逸らした。
「んーで、まあ端的にまとめるとな。勇者、お前と和平を結びたい」
「……俺、と?」
「そう。お前以外なら正直勝てるから姫のこと守り切れるんだよ」
「今まで勝ってきたわけだしね?」
「我ら四天王は基本的に姫の所にたどり着かせるわけにはいかない、って戦ってるから」
「あと、国だの王だのよく分からんものと和平結ぶより姫を攻撃しなかった勇者と和平を結びたい。これは単純な信頼の差だな」
信頼するまでがあまりにも早いし理由が全部魔王だった。
姫を攻撃しないから敵じゃない!はおかしいと思うんだ。
そもそも姫なのか。魔王ではなく姫なのか。なるほどこれが姫プと言うやつか。
よく分からないことを考えてしまうくらいには、勇者の脳は混乱していた。
とりあえず、分かることは一つだけ。
「……一回持ち帰ってもいいか……」
この場で決めるにはちょっと荷の重い話であるということだけだ。
目を逸らしがてら仲間の方を見たら、皆して首がもげそうな勢いで頷いていたのでこれでいいんだと思う。
多分また王様に怒られるだろうけれど、それでもここで即決とか出来るわけがないから一回帰ろう。
二回目だけれど許されるだろうか、と魔王軍の方を見ると、普通に許されたし行きの案内をしてくれたメイドが「今度は明るい道を行きますよー!」と張り切っていた。
ルンルンで歩くメイド長の後ろを付いていきながら、その背中に沸いてきた疑問を投げかける。
「魔界って、そんなに魔王が大切なのか」
「んー……魔王っていうより、今の姫様が大事なんですよねぇ。みんな姫様大好きなので」
「そうなのか」
「はい!だから攻撃しなかった勇者さんは歓迎しますよ!もし剣を抜いたりすれば、天井裏に潜んでた残りの先鋭全員でとびかかる用意してたんですけど必要なかったわけですし!」
あんまり聞きたくなかったことを聞いてしまった。
あそこで混乱して行動を止めていたから一斉攻撃に合わずに済んでいるらしい。
この言い方だと、多分この子もその「残りの先鋭」の中に入っているのだろう。
足を掴んできた四天王が魔王の最後の守りなのかと思っていたけれど、全然そんなことなかった。まだまだ守りは堅かった。
別に攻撃する気はもうないからいいんだけども。
そんなこんなで魔王城を出て、全力で手を振ってお見送りされて魔界を去り、人間界に帰ってきて王様を説得したり何回か魔界に行ったりと勇者が忙しい日々を過ごして数年が経った。
勇者が、忙しい、数年が過ぎた。
他は正直あんまり忙しくなかった。
まあともかく数年が過ぎ、勇者の頑張りによって魔界と人間界の王国の間での和平が何故か結ばれてしまったりしたのだ。
勇者って有能。とってもすごい。
そんなわけで魔物と人間の戦争は終わり、勇者はなんか老け込んだ。
魔王は相変わらずなので、というか数年で変わるような成長速度をしていないので、魔王側で働くのは基本的に四天王の面々である。
人間側で魔界に来れるのは勇者たちくらいであり、勇者たちが魔界に来るか、四天王が人間界に行くか、で交流を図っていた。
人間が来てもいいように魔界では大通りに街灯を設置したりしているし、人間界では光が入らない様に囲いのある通路を作っていたりする。
意外とがっちり交流を図っていた。なんかみんなちょっと楽しそうだった。
「よー勇者。元気ー?」
「……よ。なんで来たの」
「いつもの残党狩りですよーっと。はい、うちの姫からお土産」
魔王軍の四天王は、かなり気軽に人間界に遊びに来るようになった。
一応仕事ではあるらしいけど、あまりにも軽いノリで来るから遊びに来てるようにしか見えないのだ。
しかもすごい家庭的な、魔王城の食堂からのお弁当とか持ってくるし。
これ、魔王から勇者に向けてのものらしい。開けてみたら向こうでご飯を食べた時に美味しい、と言った記憶があるものが詰めあわされていて思わずお母さんのお弁当……と思ってしまった。
ちなみに今問題なのはお弁当の内容ではなく、これを渡しているのが和平を結んだ王国の城の玉座の間だということなのだ。
「我のこと無視しすぎじゃない!?我王ぞ!?」
そう。つまりは国王が居るのだ。
この国王も普通に馴染んじゃっているのが何かもう笑うしかないかな、と思えてくる要因なのだけれど、そんなことは知らない王は今日も今日とて無視されたことへの不満を口にした。
いやそこじゃないだろ、というのは結構前に考えるのを辞めた。
「えー……だってさぁ……お前今なんさオァブッ」
「お前そのマウントの取り方はやめろ!それだけは許さねえぞ!?」
魔人が人間に対して年齢マウントを取ろうとするので思い切り頭を殴ってしまった。
結構全力で殴ったのに痛い!と文句を言ってくるだけなのでやっぱりこいつは四天王の一角なのだ。
「ねえ勇者ぁ!?そいつあまりにも不敬じゃなーい!?」
「いや、そうなんですけど、でも王……こいつが自分の仕事のついでに厄介な魔物倒してくれるのも事実なんで……」
「そういうこった。で、今回なんか倒す奴いる?」
残党狩り、と言って人間界に来ているこいつは三番目の四天王。
戦った時は物理でひたすらぶん殴ってくる奴だった。怖い。
基本的に殴る蹴る以外はしないらしいこの四天王の仕事は「残党狩り」であり、まあつまりは今の魔王には従わない、と言って人間界で暴れている魔人の殲滅がお仕事なのだ。
先代魔王派閥の残党という扱いらしいから、残党狩り。
結構強い魔人もいたと思うけれど、何せ四天王だから実力差が明らか過ぎて。
王がこうしてやいやい騒いでいるだけのも、自分たちが手を焼いていた「魔王軍」をこいつが一人で殲滅しきったからだったりする。
地味に王からの信頼を勝ち取りやがったのだ、こいつら。
「あー……西の山に邪竜がおってのう。うちの討伐隊がすでに三部隊ほど壊滅されられてしまっとるのじゃ……」
「西の山なー。分かった。じゃあついでに行ってくるわ」
「邪竜はついでで倒すような相手なのか……」
じゃーなーと手を振って去って行った四天王を見送って、勇者はため息を吐いた。
勇者が忙しい日々は続いているので、今から少しだけ仮眠の時間なのだ。
今しがた出ていった四天王が戻ってくるまでが仮眠タイムだけど、あいつは基本寄り道もしないで戻ってくるので早く寝て叩き起こされるまでの時間を少しでも長くしないといけない。
なんて思ってベッドに入って即寝落ち、気付けば布団がはがされていた。
はがされたものは仕方ないので起き上がって王城を出てざわついている街に降りると、そこには邪竜の尻尾を掴んで引きずっている四天王の姿がある。
「お、勇者。倒したぞー」
「はやい……し外傷ほとんどないし……」
「拳五発くらいで死んだぞ」
「……俺、そんなやつと戦ってたのか」
「しかも勝ってるからな。お前凄く強い」
「いや俺は魔法でサポートしてもらってたから!?」
「それでも元が弱いと一発で大体死ぬぞ?まあ、魔法もすごかったけど。思わず笑っちゃったしな。どうにか連絡いれて姫連れて逃げてもらった方がいいかもしれないと思ったし」
「あの笑いそういうことだったのか……」
戦った時に彼が笑っていたのはよくある戦闘狂的な、やり合える相手がー的な笑みかと思っていたらただただもうこれ笑うしかねえわこれ、的な笑みだったらしい。
そんな話をしている間にも、まわりからドンドン人が居なくなっていく。
そらそうだろう。首が明らかにおかしい方向に曲がった邪竜の尻尾をもって引きずっている魔王軍の四天王が勇者となにやらおしゃべりしているのだから。
「……とりあえずそれどうにかしようぜ。すごい遠巻きに見られてる」
「お。いらない?」
「いらねえよ……」
「じゃあ魔王城に送るか……あれ、魔法陣どこやったっけ」
ポスポスと服のポケットを叩いて魔法陣を探している四天王に言いたいことは色々あるのだけれど、一番はやっぱり「魔法陣をポケットに入れてるってどういうことだよ」であり二番目は「なんでそれをなくしてんだよ」だ。
思ったし実際言った。
そしたら「俺は魔法使えないから転移用魔法陣貰ったんだよ。便利」という返事が返ってきた。
便利。じゃねえんだよものすごい技術なんだよ。無くしかけてんじゃねえよ。
「あ、あったー。よし。……あーもしもし?今からそっちに邪竜送るから。あーうん、結構デカい。夕飯?任せる……あ、まって竜肉のステーキだけ……そう、尻尾の付け根あたり……おう、おねがーい」
「……え、邪竜食うの?」
「え、食わんの?」
「食わねえよなんで食うんだよ……」
「ほら、ちょっと前まで魔界は食料難だったから食えるものは大体何でも食うんだよ。後単純に竜肉美味いし。尻尾はとてもジューシー。シチューとかカレーに入れるんなら前足辺りがオススメ」
「聞いてねえし知らねえし……」
竜の美味しい食べ方は学んでも生かされないから一回黙ってほしい。
あと話を聞いてちょっと興味ありげにしている町民A(シェフの姿)も一回止まってほしい。
話している間に邪竜は転移魔法の光に包まれて消えており、四天王もその後王に倒したよーと報告だけして帰って行った。
そしてその数日後、今度は別の四天王がひょっこりやってきて勇者の周りをちょろちょろし始めた。
「ねえ勇者ー!ドレス作ってるところ見たい!」
「なんで俺に言うんだよ!勝手に仕立て屋行ってろ!?」
「……したてや?」
「は?知らねえの?」
「うん。……あ、そっか、人間は服作るんだもんね、専門にやる人が居るのかー」
「まて、まて。魔人は服作らねえの?」
「作らないよ?」
「じゃあその着てるのは?」
「え、魔力で」
「まりょくで???}
お互いにお互いの言っていることが理解できなかったせいで、同じ方向に首を傾げて固まるあまりにも無意味な時間が流れた。
とりあえず脳内を整理してこいつの言うことをまとめた結果は、魔族は魔力で服を形作るので「着る服を他で作る」という人間の行為が理解できない。
その上で、人間界の煌びやかなドレスに興味があるというか姫に着せたくて仕方ないから作っているところを見せてほしい、ということらしい。
「うん。勝手に行けよ」
「知らないんだってー。調べるのも勝手に図書館とか行っちゃだめでしょー?」
「だったらお前らんところのに聞けばいいだろ?よくこっち来てるんだし」
「んー……四天王、私以外みんな忙しいの。私が一番年下で出来ることないから私だけ暇……」
「え、ああ……そうなの……ってかお前が一番年下なの?」
「うん。私だけかなり年下だよ」
「見た目変わんねえけど……何歳?」
「三百歳くらい」
「……いや分かんねえよ」
「人間換算で十一歳くらいだぞ」
「はぁ!?若くね!?てかなんでお前居るの!?」
後ろから人間換算された年齢が聞こえてきて大きな声を出してしまったし、言ってきた相手が魔王軍四天王の最後の人……他の四天王がボスと呼んでいる、事務仕事を大体やっている人だったからもう一回驚いてしまった。
手には書類を持っているからこれを渡しに来たのだろうけど、気配を消して近付いてきて急に声をかけるのはやめてほしい。
「ちなみに姫は百五十歳くらいだぞ」
「……おいまて……つまり……五歳……?」
「おう」
思わず膝から崩れ落ちてしまった。
魔王、五歳だった。
そりゃ会うたび会うたび「よくきたなゆうしゃよー」って言ってくるわ。そう言えって言われてるんだから言えるやで!って得意げに言ってくるわけだわ。
ちょっと前に四天王からそれもう言わなくていいんですよーって言われて今では会うたびに「いらっしゃい!」って満面の笑みを向けてくるようになったけれども。
「勇者どしたの?」
「なんでも……ねえよ……」
「そっかー」
崩れ落ちていたら四天王から心配されていまった。とりあえず頭を撫でようとするのはやめてほしい。
ボスの方は忙しいのか書類だけ渡してササッと帰ってしまったので、それを見送ってから話題を戻す。いや別に戻したくはないんだけど。
「んで、ドレス?」
「うん!人間の作るドレスふわふわでキラキラで綺麗!姫のドレスは姫の魔力で作ってるから黒一色だから……」
話題を振った途端元気になった四天王は、バッと腕を広げて楽し気に語る。
いままでならテンション高いなーくらいにしか思わなかったけれど、これが十一歳と言われた途端になんだか年相応な気がしてしまう。
いや、最近子供と関わる事とかなかったから知らないけど。
……最近関わってる子供って魔王くらいなのでは……?見た目は置いといて五歳らしいし……
「……あの、勇者さん?」
「はい?」
「見に行かせてあげられませんか?仕立て屋」
どうしたもんかと思っていたら話を聞いていたらしいメイドが向こうに助け舟を出した。
きれい!きれい!と騒ぐ姿を見て、見せてあげたいなぁと思ったらしい。
つまりは絆されているのだ。気持ちはちょっとわかるけど。
「……だめ?」
「勇者さん……」
「……はあ。連れてけばいいんだろ!?」
そもそもの話。そもそも勇者とは人の頼みを断れないから勇者してるところあるのだ。
こうなってはもう連れていくしかない。
本人に頼まれるだけでも結構揺らいでいたところなのに、横から助け舟を出さないでほしい。
ほんと、やめてくれ……と呟きながらも出かける支度を始めてしまっている辺り、もうだめだ。
仕立て屋と言っても一店だけではないので、どこに行くか決めないといけない。と言っても俺はドレスを仕立てているところを見たことなんてないので、助け船を出してきたメイドに聞いてみることにした。
「ドレスの仕立て屋って、どこなら見学させてくれるか、分かるか?」
「そうですねぇ……通りの老舗の仕立て屋なら……あそこの店主は気のいいご老人ですから、見たいって言えば見せてくれると思いますよ」
「なる、ほど……じゃあそこに行ってみよう」
「やったー!」
案内しますよ、と言ってくれたメイドと共に街に出た。
先を急ぎたそうにしながらも近くから離れない感じ、本人が言っていた「勝手に行ってはいけないだろう」「人間は魔族を怖がるのだろう」という認識は大きいようだ。
横でちょろちょろしながらあれはなんだあれはなんだとはしゃいでいる時点で街の人々は微笑ましそうに見てきているのだけれど、それには気付いていないらしい。
通りに作られている日の光が入らないマジンロード(国王命名)を通っているので魔族なのは皆分かっているはずなのに微笑ましそうに見てくるので、本当に微笑ましいんだろう。
この感じなら普通に見学もさせてくれるのではないだろうか。
そんなわけでやってきたメイドおすすめの仕立て屋は、少し薄暗くそれでも分かるくらいには色々な布地と材料で溢れていた。
「こんにちはー」
「んー?おお、お客さんかのう……」
「あ、こんにちは店主さん」
「今日は弟子もいないからのう……注文なら待ってほしいんじゃが……」
「注文ではなく、見学をしたいんです。こいつがドレス作りを見たいらしくて」
「出来れば一着くらい買っていきたい感じです!ボスがお小遣いくれました!」
じゃん!と巾着袋を引っ張り出した四天王が誇らしげに言うのを見ながら、何か買えるのだろうかと店主であるご老人を見る。
置いてある椅子に腰かけた老人は、髭を触っていた手をススっと四天王の方に向けた。
「その子が着るのかい?」
「んーん?姫に着せたいの」
「じゃあ、そのお姫さんのサイズが分からんとなぁ……」
「サイズ?……あ、身体のサイズ?わかんない!」
「分からんと、ドレスは作れんよぉ」
「ええええ……」
無理なんです?無理なんじゃよ。と同じようなやり取りを何度か繰り返していた老人と四天王を眺めていたら、四天王が勢いよく勇者の方を向いた。
……なんだか嫌な予感がする。
「どうしたらいいかな」
「俺に聞くなよ」
「だってー。測り方なんて知らないもん。姫に来てもらうわけにもいかないもん」
ねー勇者―。ねえねえーとくっついてくる四天王を剥がしてメイドに目を向けると、職人がサイズを測る時は買い手の所に出張したりもするのだと教えてくれた。
けれど、買い手が居るのはこの国でもなければ隣国でもなく、魔界なのだ。
ただの人間が好んでついてくるわけも……
「まあ、行くのは構わんよ」
「構わんのか!?」
「わーい!ありがとうお爺ちゃん!」
好んでついてくるわけもなく、交渉に応じてくれるかどうか。……と言いたかったのだ。
そんな暇もなくついてくることに決定しているけれど、こっちは魔界側に加勢して交渉していいものかとちょっと真剣に考えていたところなのだ。
なんでそんなに躊躇いなくついて行っちゃうんだ。もしかして俺がおかしいのか?
思わずこの場で唯一味方になってくれそうなメイドに目を向けたが。彼女は笑顔で「良かったですねぇー」と言っていたので味方ではなかった。
「いつ出発になるかのう」
「それはお爺ちゃんの都合で大丈夫!そんなに急ぎでもないから!」
「そうかい?まあ、早めに行くとするかの」
「……ご老人、店は良いんですか」
「そろそろ弟子に明け渡そうと思っておったところじゃ。ちょうどいいわい」
魔界に来れないだろうかというお願いを丁度いいと扱う人を初めて見た。
まあ、そんなお願いするのも初めてだけど。
勇者が頭を抱えているのも無視して話はまとまり、ご老人を連れてこのまま魔界に行くことになってしまった。
なにやらとても大きな荷物を持ってきた老人を連れて、メイドは城に送り届けて、そのまま魔界に向かう。
老人が持ってきた荷物はなんだかあらかじめ纏められていたようで、取りに行って数分で戻ってきたので中身の詳細は分からないままだ。
「お爺ちゃん荷物大きいねー」
「ほっほっほ。ドレスを仕立てるには道具が色々必要じゃからな」
「重くないの?」
「このくらい、なんともないわい」
とんでもない元気爺さんだった。
見た感じ絶対軽くはない道具の山をひょいと担いで普通に歩いている。これが職人……ということでいいのだろうか。
絶対に普通の、ただの老人が持っていける量ではないと思うのだけれど。
「お爺ちゃん、ドレスって一人でくれるものなの?」
「わしはずーっとやっとるからのう。一人でも大丈夫じゃ」
「そうなの?」
「うむ。なんせわしはこの道数ひゃ……」
……おい。
「……数十年じゃからなー」
「おい」
「なんじゃー」
「数百年って言ったな?」
「なんのことかのー」
「言ったよな?明らかに数百年って言ったよな?」
「年を取ると耳が遠くてのー」
「そういやあんたの店、明かりが蝋燭しかなかったよな?魔族は人工光が苦手なんだったか」
「なーんのことかのーう」
誤魔化し方が下手過ぎる。
数百年と言いかけてから急に勇者のいない方だけに顔を向けている辺りも、なんというか誤魔化す気があるのかないのか分からないレベルだ。
ん゛みたいなどこから出したみたいな声も漏れていたので、完全にうっかり言ってしまっている。
「お爺ちゃん魔族なの?」
「違うぞい?」
「勇者、違うらしいよ?」
「いやそれ信じるのかよ」
たった一言違うと言われただけで信じるのはどうかと思うが、それだけ純粋なのだと言われてしまうと魔族も勇者もなにも関係なくなんかごめん、と思ってしまう。
そういえばこいつ十一歳なのか……と空を仰ぎ見たところで人間界から魔界に移動し、明かりも着けないまま進む。
この暗闇を視えている時点でこの老人、人間ではないのだけれど、本人は気付いていないのか当然のように歩いている。
そのまま魔王城に入り、歩きなれてしまった道を進み、玉座の間の扉を開けた。
「いらっしゃい勇者!」
「おー。久しぶりー」
扉を開けた途端に飛びついてきた魔王を抱え、地面に降ろしたところで奥から四天王のボスがやってきた。
いつも通り魔王を確認した後に勇者の方を向いて、よ。と軽く片手をあげ……普段ならそのまま戻ってきた四天王から話を聞くのだが、今日はそこで止まってしまった。
目線は勇者の斜め後ろ辺りで止まっている。
何を見ているのかと思ったら、仕立て屋の老人が荷物を下ろして何かを取り出しているところだった。
「……え……お、お師匠……?」
「ななななななんのことかのー!?」
絞り出すような声に「はあ?」と漏れた言葉をかき消す勢いで、老人が今まで聞いた中で一番勢いのある声を出した。
誰、と言っていないのに返事をしてしまっている辺り心当たりがあるんだろう。
……というか待て、四天王の一番であるボスの師匠なのかこの仕立て屋。
「わ、儂はそんなんじゃーないぞー」
「いや、師匠ですよね!?五百年前くらいに人間界に侵攻したっきり戻ってこなかったのはなんでですか!というか生きてたんですか!!」
「な、なーにを言っとるのかさっぱりじゃわい……儂はそんな、両手で別の武器を操る器用な子は知らんわい……」
「今持ってるのリンゴだけなのにそんなこと分かる時点で師匠じゃないですか!」
爺さんが分かりやすすぎる墓穴を掘った。
というかボスはまたリンゴ剥いてきたのか。魔王の好物だからってそう毎回持ってくるのはどうなんだ。
なんて思っていたら、いつの間にかリンゴを受け取ってきた魔王が食べる?と差し出してきた。
これは食べた方が周りからの圧力が弱まるので、大人しく受け取っておく。
受け取ると魔王が嬉しそうに笑うので、それを見た周りも笑顔になり何事もいい感じに進みそうな空気が漂うのだ。
「だって……だって魔王様からの命令で亡ぼしに行った王国でドレス見て心奪われたとか言えんじゃろ……そのまま離脱してドレス作るようになったとか……普通言えんじゃろ……」
「言っちまってるけどな。誤魔化すの諦めたのかよ」
「もう流石に誤魔化しきれんしのう……」
「え……お爺ちゃん魔族だったの……!?」
お前はまだ騙されたのかよ。
なんで信じてたんだよ。あのやり取りで信じ切っているのは流石に予想外だったぞ。
というか爺さん。あんたもそれどうなんだよ。
亡ぼしに行った国でドレスに心奪われるって……いや本当にどうなんだよ。それでいいのかよ。
「勇者。はい」
「ん?おお……」
何をしてるんだか……と眺めていたら魔王に二個目のリンゴを差し出された。
とりあえず受け取って頬張る。うん、うまい。
魔王がリンゴ好きだからと魔王城の一角にはとても大きいリンゴの森が生成されているのだ。
昔とある魔人が人間界から持ってきたリンゴの木が、一本だけ上手く育ったのを魔王に与えてみたところ、思った以上に気に入ったからと急いで増やしたらしい。
増やしすぎだとは思うけれど、まあ楽しそうなので何も言うまい。
ちなみにこの後、その場でドレスを作るらしい老人を連れて帰る必要性も感じられなかったので勇者だけ人間界に帰るのだが、誰も反対はしなかった。
老人に至っては勇者の声を聞いてすらもいなかった。
そんなわけで人間界に帰ってきてちょっとした頃。いつも通りになんの連絡もなくやってきた四天王は、当然のように勇者に声をかけてきた。
もう最近は当たり前のように扱われてしまうけれど、誰かもっと気に留めてくれないものか。
他はともかくこいつの絡み方だけはどうにかしてくれないものか。
「そんなわけだ勇者。弟子入りしない?」
「どんなわけだよしねえよ」
この、弟子にならない?という勧誘だけは誰か止めてほしかった。
いいの?魔王軍四天王に勇者が勧誘されているこの状況、いいの?
本当にさ、そんなまたやってるよーみたいな微笑まし気な目を向けてないでさ、止めてくれよ。
「駄目?」
「駄目に決まってんだろ」
「えー……お前なら引き継いでくれると思ったのに……」
今こうして俺の周りをうろちょろしながらダラダラと面倒な絡み方をしてきているのは四天王の三番目、邪竜を殴って倒したり魔法防御を貫通する殴りをしてきたりするやつだ。
ちなみに、魔王軍の最年長らしい。
先代魔王だけでなく先々代魔王にも仕えていたんだとか。
つまりはじじいだ。
そんなじじいは最近技の継承者を探しているらしく、やる事もないのに人間界に来てはこうして勇者を勧誘し続けるというめんどくさいことをしていた。
「興味あるだろ?」
「ねえって」
「邪竜を拳で沈めるロマンは分かるだろ?」
「……知らねえって」
「ちょっと興味あるな!?今ちょっとだけ興味持ったな!?」
「うるせえ!!」
ガバッと飛びついてくるのを打ち落としつつ、とりあえず物理的に距離を取ろうと足早に移動する。
普通についてくるので結局移動中もいい争いは続くのだが、それでも止まったら負けな気がするので移動は続ける。意味はないけれども。
「なあ!いいじゃん失うことなんてほとんどない最強の武器だぞ!?」
「あーもううるせえうるせえ!」
「我が弟子!!」
「弟子じゃねえ!!」
確かに邪竜を殴り殺すのはちょっとそわっとしたけども。
戦いを観戦に行けないかと思ったのも一回や二回ではないけども。
それでも弟子入りはしちゃいけないと思っているし、そもそもするつもりは欠片もないのでついてこないでほしい。
マジで来るな。さっさと帰れ。
そう念じながら鬼ごっこに勤しむこと数時間。やっと帰った四天王にため息を吐いて、何をしておったのか報告せいと騒ぐ王に事の顛末を伝えるために腰を上げ、もう一度ため息を吐いた。
面倒事は連鎖するものである。
王に事の顛末を伝えたら、それはそうと別件で魔界に用事があると言われた。
そんなついでみたいに言わないでくれよ、という思いと、今の話聞いたうえで行かせるんかい、という思いと、今四天王来てたんだから伝えておけよという怒りがごっちゃになって表情は消えた。
面倒だから会いたくない、と常々思っていたのに自分から魔界に行かないといけない用事が出来てしまった。
ふざけんな王。まじでふざけんな。
そんなわけで来てしまった魔界は魔王城。
もう本当に通い慣れてしまったので、門番にも顔を覚えられているしちょっとした世間話もするくらいになっている。
ちなみに今回は四天王が来てから間を置かずに勇者が来たので、四天王ったら忘れ物でもしました?と言われた。
四天王ってそんな気軽な感じで扱われてるんだ……と思いつつ、いや忘れてたのはうちの王様……とちょっとした不平を漏らす。
あら大変ですね。お疲れ様です。なんて普通に労ってもらってしまった。普通にありがとう、とお礼を言ってしまった。
数年前にここに攻め入ってきたとか、ちょっと思い出せないくらいに馴染んでしまっている。
「あ、勇者いらっしゃい!」
「おお!どうした我が弟子!!」
「弟子じゃねえっつってんだろ」
玉座の間に入った途端にパアッと表情を明るくした魔王と、勝手に弟子認定してくる四天王。
二人ともあまりにも純粋な目で見てくるが、片方は色々間違えているのでまずは勇者が弟子じゃないことを思い出してほしい限りだ。
「勇者どうしたの?どんなご用事?」
「書類と報告……いつもの四天王はどうした?」
「えっとねー、奥でお仕事してるよ!呼んでくる?」
「いや、いい」
我が弟子ー。……ねえ、勇者?ちょっと勇者?無視しないでくれない?分かった悪かったからさー。なあ勇者ったら!
と、後ろで何やら騒いでいる四天王は無視して魔王に話しかける。
玉座とサイズ感があっていないのはいつものことなのでもう気にならないが、最初は魔王に対して大きすぎる玉座に若干違和感を持っていたものだ。
なんて回想に意識を向けている間に奥から四天王が出てきた。
話を聞いていたのか、単純に誰かから勇者が来たと報告を聞いたのか。それとも魔王のはしゃいだ声を聞いて察したのか。
「よ、どうした?」
「書類と報告。とりあえずこれ」
「おー……魔法の種別ねえ……」
「おう。人間と魔族じゃ扱う魔法が違うから、分類するんだと」
「ほーん……まあいいか。あ、そうだ勇者」
「なんだよ」
「姫も魔法は使えるんだぞ」
「そうなのか?」
戦闘力はないと言っていたが、流石魔族の王。
ほら、姫。と声をかけられてどこからか杖を取り出した魔王に、構えた杖の先に居る勇者はとりあえず身構えておいた。
何せ明らかにこっちに向けてきているので。
死ぬことはないだろうと思われているのだろうが、まあ自衛は必要だ。
「んー!えい!」
ポンッ。一輪の花が咲いた。
「はあ?」
「ぴっ」
あまりにも予想と違いすぎて、勇者は自分史上最も低い声を出した。
その声に魔王が驚き、小さく悲鳴のようなものを上げた瞬間、横から上からどこからか、一斉に魔王軍が襲い掛かってきた。
刃物なんかはないようだが、全員から殴る蹴るなどの暴行を受けた。
まさにタコ殴りだった。
「ちょ、まっ」
「おいこら勇者ー!」
「姫がびっくりしただろうがぁ!!」
「いやちょ、いたっ!」
「お前なあー!!」
「フォロー入れろ!!入れろよ!?」
「わ、分かった!分かったから!」
一番最初に来た時にもなかったフルボッコに思わず気圧された。
魔王が大事って言ったって、そんな一気に殴り掛かってくる?とちょっと疑問に思ってしまったくらいにはフルボッコだった。
魔王の魔法にも驚いたが、その後が一番驚きだった。
「あー……俺も出来るよ、それ」
「本当!?」
「うん。ほら」
ポンッと音を立てて、勇者の手の中に魔王が作ったものと同じ花が作られる。
魔王のものに比べると勇者作の方が精工に出来ていた。
「わー……なんでこんなに違うんだろう……」
「姫は図鑑でしか見たことがないからですかね」
「そうなのか?」
「うん。私、魔界から出られないから」
「……今度、持って来ようか」
「本当?」
「おう。これがいいの?」
「うん!」
フォローしろとは言われたけれど、これでいいのだろうか。
そう思ってさっきまで勇者フルボッコに参加していた面々を見ると、満足げに頷かれた。これで良かったらしい。
とりあえず、次に来るときはスイートピーを持ってくることを忘れない様にしないといけない。
忘れでもしたら勇者フルボッコ第二ラウンドが始まってしまうだろうし、何より魔王が多分悲しむ。
そんなわけでちょっとした約束をして、元々の用事だった報告だのなんだのも終わらせて人間界に帰ることにした。
その後、約束通り花を持っていったりして日々を忙しく過ごしていると、いつものように四天王が遊びに来て勇者にうざ絡みを始めた。
一応魔族の残党が見つかったりしていないか、という確認に来ているのだが、こいつが全力で頑張った結果数年前に最後の報告を受けて以降全く話を聞かなくなった。
なのでこれは完全に遊びに来ていると思っていいだろう。
来ている理由が、完全に勇者の勧誘に切り替わっている。
「なあー。なろうぜ弟子。受け継ごうぜ我が技術」
「いやだっつってんだろ」
「駄目ー?」
「魔族にはならねえって」
「そっかー……でも誘う。なろうぜ」
「うるっせえ!いい加減諦めろ!」
「人間のままでいるつもりなら余計に構うぞ。お前が生きてる間しか、構えないんだから」
しみじみと言わないでほしい。ちょっとだけ揺らぎそうになる。
それでもうざ絡みがうざいことには変わりないので早く帰ってほしいという思いに変わりはない。はよ帰れや。
「勇者ーなあ勇者ー」
「そもそもなんでお前はそんなに弟子を欲しがってんだよ……」
「俺もそろそろ引退を考えるような歳なんだよ。最古参だって知ってんだろ」
「……そんな見た目してねえからなぁ……」
「ん?見た目なら変えれるぞ?え、若作りしない方がいいのか?」
「まあ、その方が引退云々は受け入れられやすいんじゃないのか?」
「なるほど……やってみるか。じゃーな勇者ー。弟子入りする気になったらいつでも言ってくれ」
「ならねえって言ってんだろ」
手を振って去って行った四天王を見送って、そういや何歳なのだろうかと疑問に思う。
先々代魔王って、いつ代替わりしたんだろうか。
聞いてみればよかった。まあ、いいか。どうせまた魔界には行かないといけなくなるだろうから、その時に覚えていたら聞けばいいだろう。
と、思っていたのだけれど、思ったより早く行く用事が出来た。
とりあえず用事を済ませなければ、といつものように魔界に向かう。……いつものように、と思ってしまうくらいには通い慣れた。
魔王城内も網羅したのではと思う。工事か何かで道が塞がれていようが普通に迂回出来るくらいには歩きなれているのだ。
そんなわけで迂回しつつ玉座の間に向かっていたら、なにやら見覚えがある見知らぬ老人が居た。
やけに決め顔でこっちを見ているので、無視して進む。
「や、まてまてまてまて。無視するなよ勇者!」
「……知らない奴に声をかけるわけはねえなぁ……」
「お前が!老人の!姿の方がって!言ったんじゃん!」
「まさかそんな一気に老けると思わねえよ」
見た目が二十代から一気に六十代くらいになった。
それでも面影があるのが何故かちょっとむかつく。
「まあ、お前の言った通りこの姿になってから周りが焦って弟子探してくれてるわ」
「だろうな。よかったじゃねえか」
「んで、お前は弟子になるのか?」
「ならねえよ」
なんでまだ誘うんだよ。と言うと、マジで死ぬまで言うからな、と言われた。
本気でやめてほしい。とてもうるさい。
全部断るからな、と言うがそれでもいいと言われた。何なんだよお前。
話しながら玉座の間に向かい、用事を済ませてササッと帰ることにした。早く帰らないと勧誘がうるさいので。
そんなこんなで平和に数年が経ち、勇者は今日も今日とて忙しく。
今日は魔界に用事があるから出向かないと行けないので、ついでに託されたお土産を抱える。
魔界と人間界との和平は順調に規模を拡大し、勇者は自分の国の国王だけでなく他国の王からもあれこれ言われるようになった。
そうなってから、うちの王様結構いいひとだったんだなぁと気付いたりもした。
それはそうと、仕事は色々押し付けてくるけれども。
まあ、それは今は良いのだ。とりあえず行くかーと魔界に向かい、魔王城の中を進む。
「あ、勇者いらっしゃい!」
「よう。色々土産を預かってきてるぞ」
「やったー!」
預かった土産を渡し、無邪気に喜ぶ魔王の頭を撫でる。
ふう……とため息を吐いたところで、魔王がこちらを見上げていることに気が付いた。
「……勇者、老けた」
「うぐ……まあ、実際老けたか……」
事実、魔王と初めて会った時からは既に二十数年経過しているのだ。
そりゃあ老けただろう。魔王は、ずっと変わらないままだが。
まあ、この程度で変わるような成長速度をしていないことは知っている。
「あら……勇者さん、疲れたお顔をしてますね。薬膳粥を作ったところなんですが、食べますか?」
「……もらう」
「はい。ちょっと待ってくださいね」
「なんで薬膳粥?」
「ボスが胃を痛めまして」
こっちもこっちで大変らしい。
話しながら粥を出してくれたのは、二番目の四天王。
魔法を専門に扱っている四天王だということは知っていたが、薬膳まで扱えるとは知らなかった。
……もしかして、四天王のボスが胃をやったから覚えたのだろうか。多分同じような症状なので有難く受け取るが。
「勇者さんは、もう少し気を楽に持った方がいいですよ」
「楽に、なあ……」
「具体的にはお仲間の魔法使いくらい」
「あれは別ジャンルだろ」
勇者と共に魔王軍と戦った魔法使いは、和平が成されたあとすぐに魔界に引きこもった。
正確に言うと、この二番目の四天王に魔法の研究に誘われて一も二もなく頷いたのだ。
元々研究好きなのは知っていたし、魔法と名のつくものに目がないのも知っていたけれど、まさかそんな気軽に引きこもるとは思わなかった。
「この前、いい加減帰らないと本質が魔族のものに変化しますよって言ったんですけど、別にいいやーって聞いてもくれませんでした」
「あいつ……確かに見た目変わらないなと思ってたけど……」
長生きするなら研究もいっぱい出来るわーとか言いそう、と漏らしたら、言ってましたよと返された。
だろうと思ったけどもさぁ。だけどさぁ。
それでいいのか魔法使い。お前は一応勇者側なのに、何のためらいもなく魔族に変化するんかい。
別に、いいんだけどさ。気楽に好きなことをして生きているなら、まあいいんだけどさ。
はあ……ともう一度ため息が漏れた。
そのまま薬膳粥を食べながら今回の用事を済ませ、さて帰るかと思ったところで「お、来てたのか。弟子になる気になった?」と肩を組まれて思わず顔面を殴ってしまった。
「そんな全力で殴るなよ……」
「ならねえって言ってんだろ」
この程度では何ともないと知っているので、返事だけしておく。
本気で死ぬまで言うつもりらしい。やめてほしいだけれど、魔族も人間も誰も止めないのはなぜなのか。魔族はともかく人間側は止めてくれてもいいと思うのだ。
なぜ……なぜ誰一人として……勇者が魔族に組してもいいってのかよ……
「はあ……帰るか」
「おー。じゃあなー」
見送る時は、意外とあっさりしているのがあいつの特徴である。
会うたび会うたび言ってくるが、無理に引き留めたりはしないのだ。
それでもうざったいことに変わりはないので毎回言うのもいい加減やめて欲しいものだが。
本当に、会うたびに言ってきたものだ。
こちらがどれだけ歳を重ねようと、変わらず誘ってきた。
もう受け継ぐような力は残っていないと言っても、魔族になれば関係ないと凝りもせずに誘ってきた。
唯一変わったことと言えば、一回に誘ってくる回数が徐々に減って行ったくらいだ。
勇者の体力が衰えて、追い返すのも疲れると知ったからなのか単純に飽きたのか。聞いたことがないから分からないが、それでもまあ、長さは短くなった。
人間と魔族が和平を結んで早数十年。
勇者はとうに老人になり、魔王は今も少女のままだ。
この時代の人間にしては随分と長生きした勇者だが、人間である以上老いにはかなわない。
自分の死を悟った勇者が最後にしたことは、魔王に会いに魔界まで来ることだった。魔族から見てももうすぐに死んでしまうと分かる老いた勇者はそれでも魔王に会いに来た。
「勇者!」
「……よぅ」
「ゆうしゃぁ……」
「これが……最後になるかねぇ……」
息も絶え絶え玉座の間に現れた勇者を抱きとめて、魔王は大粒の涙をこぼした。
魔王は随分と勇者に懐き、勇者もかなり魔王に絆された。
だからこそ最後の力で会いに来たのである。
勇者の死を一番悲しんだのは、人間と魔族を合わせてみても魔王だっただろう。
魔王の涙を拭いつつ話していた勇者は、周りに四天王が集まってきているのを見て、ふと湧いてきた疑問を口にする。
「そーいや、魔法使いは顔出さねえのか……」
「声はかけたんですけど……今会ったら精神ぐちゃぐちゃになるーって言って出てきませんでした」
「そうか……」
他の仲間たちは先に逝ってしまったが、魔法使いだけは魔界に留まり続けた影響で人間ではなくなっており、まだまだ元気に存命だ。
最後に会えるかと思ったが、向こうは向こうで仲間が全員死んでしまったという事実を抱えたくないのだろう。
その気持ちも分かるので、会いに来ないことに不満はない。
「さて……そろそろ時間だ。ここで死んだら魂がどうなるか分からん。お前は人間界に連れていく」
「おう……」
「姫、最後に何かありますか?」
「ゆ、勇者ぁ……会いに、会いに行くからねぇ……」
「ん……待ってる……」
泣きながら勇者に手を振った魔王の頭を最後に撫でて、勇者は四天王に抱えられた。
弟子にならないか、魔族にならないか、と散々誘ってきた四天王は、勇者を抱えて静かに人間界まで移動した。
どこがいい?と聞かれて町の近くの丘の上、花畑の広がる場所を選んだ勇者は、自分を見下ろす四天王を笑う。
「……なあ。弟子にならんか」
「まだ、言うかよ……」
「死ぬまで言うって言っただろ」
「ならねえよ……」
「そうか。……そうだろうなぁ……」
最後の問いは今までに比べて、随分と弱弱しく悲しげだった。
それを笑った勇者は、笑ったまま静かに息を引き取り、その遺体は町の教会に運ばれた。
勇者の死は国を挙げて、世界中で悲しまれ、弔われた。墓は彼が最後に選んだ土地、丘の上の花畑の中に作られ、巨大な石に彼の成し遂げたことについてが彫り刻まれた。
多くの人々が訪れ花を手向けるその場所は、魔界でも皆が知る場所となる。
一方魔界では、人間界よりも長く、ゆったりとした悲しみが漂っていた。
「今日も雨だね」「最近ずっと雨だね」「姫が、泣いてるんだね」
そんな会話が繰り広げられた。魔王の力により実りを得る魔界は、魔王の感情に天候が左右されやすいのだ。
勇者が死んで一年ほどは、雨が降り続く日が多く続き、実りはかなり落ち込んだ。
時が経つにつれて雨の頻度は下がったが、時折急に冷え込む日があった。
そんな日々が数年続き、魔界にはちょっとした変化が訪れた。
人も多く訪れるようになった魔界に、一日ほんの少しだけだが日が差し込むようになったのだ。
魔人と人間の混血も多くみられるようになり、徐々に徐々に、魔界と人間界の境はなくなっていった。
その頃から魔王は魔界に捕らわれることがなくなり、少しだけなら人間界にも足を伸ばせるようになったのだ。
一年、と人間が区切った時間。
一年に一度だけ、と魔王が自分で決めた決まり。
それを守って、魔王は人間界に足を伸ばす。
魔王に会うたび、勇者は「久しぶり」と声をかけた。
その感覚が分からなかった。勇者の言う「久しぶり」は魔王にとってそれほど長くない時間だった。
だけど、今なら分かる。
勇者が居なくなってから、分かるようになった。
日傘をさして、魔王は歩く。
途中の花屋に寄って、一種類の花だけで花束を作ってもらう。
最初のころはとても多く花を手向けに来ていた人間たちは、時間が流れるごとに勇者の存在自体を忘れていき、足を向ける人間は数を減らしていった。
その中を、歩く。
ゆったりと、ゆっくりと。
一年、という自分にとってはあまりにも短い時間をかみしめるように歩く。
勇者と過ごした年月よりなんて、それ以外の年月に比べたらあまりにも短いのに、勇者のいた時間の方がずっと長かったように感じるのだ。
だから、声をかける。
自分がしてもらったように、微笑みを向ける。
「久しぶり、今年も来たよぉ」
宣言した通り、会いに来たよと笑うのだ。
真夜中に同居人と作り上げた話を文にしたら二万文字を越えました。笑う。
こんなに長い短編を書いたのは初めてです。楽しかったです。
この後に同居人とは仕立て屋の爺の話もして大盛り上がりしました。
ちなみに仕立て屋の爺の数百年は私の言い間違いからです。それを同居人に拾われてしまった結果、爺は魔族になりました。はは。
タイトルの花を花言葉で決めている最中にヤグルマギクの「独身生活」という物を見つけてしまってゆ、勇者……となりました。不採用です。
そんなわけで深夜テンション数時間で枠組みを作った話は、一週間くらいかけて全て文にされました。
同居人と二人で盛り上がったものを文にして、一緒に盛り上がってくれる人が一人でもいたら嬉しいです。