爆発
映画館の前で立つレライエは、響の腕を掴んで今上映されている映画のポスターの前に移動する。まるで珍しいモノを見るようにレライエは一つ一つポスターを興味深そうに見ていき、見終わったら一つ横に移動して次のポスターを見る。
そんなレライエの様子を見ている響は、彼女が人ではない魔神のはずなのに、ただの女の子に見えてしまうのだった。それに気がついた響は、頭によぎった考えを振り払うように首を横に振るのだった。
そんなことをしているうちに、響の前にレライエが戻ってきていた。彼女は一枚のチラシを両手で持って、恥ずかしそうな表情をしていた。
「あの……響……お願いがあるんだが……」
響がチラシを受け取り内容を見ると、過去に上映された銃撃アクション映画を、特殊な演出を加えてリバイバル上映すると書かれていた。
チラシとレライエの間を響の視線が行ったり来たりするたびに、レライエは落ち着かない様子で体を震えさせるのだった。
「席が取れたら見に行くか」
「ホントか響!?」
響の言葉を聞いたレライエは嬉しそうな様子で、響の両腕を手に取り上下に激しく動かす。まるで大型犬だな、と響は思ってしまったが、それは口に出さず心のなかにしまう。
響はレライエと共に、すぐにチケット販売の所に並び始める。並んでいる人は少なかったために、すぐに響達の番が来た。
レライエが見たい映画の開いてる席を確認すると、席の埋まり具合はまばらで、運良く中央で真ん中の席を取ることができた。響はすぐにチケットを購入すると、レライエに一枚手渡す。
「ハイ、これを無くすなよ」
「もちろん、無くすなんて子供みたいなことしないさ」
レライエはバカにするなと言わんばかりに胸を張る。その瞬間、豊満なレライエの胸も服の上からでもわかるぐらいに揺れるのだった。響はそんなレライエの様子を見て軽く苦笑しながらも、飲み物を買いに行く。
「飲み物なんているのか?」
「いるね。特にアクション系は喉が乾きやすいからな」
そうなのかとレライエは響の言葉を信じて、響が買ってきた飲み物を受け取る。響はレライエが好きな飲み物が分からなかったために、無難なウーロン茶にした。
劇場内に入った二人は指定した席に移動すると、隣り合わせになるように座る。しばらくすると、スクリーンに様々な映画の予告が放映されていくが、レライエは興奮が抑えきれないのか椅子の手すりを力強く握っていた。
そしてスクリーンは今回の映画の特殊な演出についての説明をしだす。座席は前後左右に揺れるので注意することや、耳元で風が吹く演出、水を被ることなどを説明した。
「なあ響、さっきスクリーンで飲み物を飲む時は気をつけろと言っていたがどうゆうことだ?」
「戦闘シーンだと座席が揺れるから飲むと口を怪我するんだ。だから会話しているシーンで飲み物を飲むんだ」
「なるほど!」
レライエは小さな声で響に質問すると、響も小さな声で安心させるように答えるのだった。それを聞いたレライエは声を抑えながらも、興奮した様子を隠せていなかった。
そして上映時間がになると、映画が始める。序盤からアサルトライフルを持った主人公たちと悪役の銃撃戦が始まる。
銃弾が飛ぶたびに耳元から空気が飛び出し、まるで銃弾が掠めたと錯覚させる。そしてスクリーンでは主人公達が悪役に向かって銃撃をして殺していく。
そのまま映画は進んでいき、悪役が爆発物を使って主人公を爆殺しようとする。次の瞬間スクリーンで爆発すると同時に、響達の椅子が揺れてまるで本当に現場にいるようであった。
銃撃戦が終了するとアメリカチックな日常シーンが展開されたために、響は飲み物を手に取り喉を癒やす。ふと、隣に座っているレライエはどうなのかと思い横目で見てみると、レライエは目をキラキラさせて楽しそうであった。
(良かった楽しんでるな)
楽しそうなレライエを見て響は安心すると、そのまま自分も映画を見ることに集中するのだった。
そうしているうちにシーンは、カーチェイスをしているシーンに移行する。車同士がぶつかり合うたびに座席が上下左右に揺れ、臨場感を引き立てる。
そして映画はクライマックスへと突入する。激しい銃撃戦と相次ぐ爆発で座席は激しく動き、止まることを知らない。
素早い格闘シーンや危険なスタントシーン、飛び立つ飛行機にジャンプして掴まるシーンと、相次ぐ演出に響とレライエは息をのむのであった。
あっとゆう間に九十分は過ぎていき、エンディングが流れていく。スタッフロールを見ない観客達は徐々に席を離れていくが、響とレライエは未だに席に座っていた。
「なあ響……」
「なんだレライエ?」
「すごいな映画って!」
「当たり外れもあるけどな」
ふーんと興味深そうなリアクションをしながらも、レライエは響の腕を絡ませながら劇場を後にする。その時響は胸に当たっている腕から、レライエの鼓動が早くなっていることに気がつく。しかしそのことを響は言わずに一緒に歩いていく。
レライエに連れられるように歩いていく響であったが、レライエが連れてきたのは人の気配がなく、壁により死角となる場所であった。
「レライエ?」
こんな場所に連れてきたレライエに疑問の声を上げる響であったが、レライエは無言で響に抱きつくのだった。
柔らかな胸が響の胸板に当たり、レライエの呼吸が響の耳元に吹きかかる。響は晴れようとするが、抱きしめるレライエの力は強く離れられない。
「キマリスもアスモデウスもお前とキスしたのに、狩人の私が獲物を逃がすなんてあり得ないだろう?」
そのまま足同士を絡め合ったレライエは、響の耳に舌をねじ込む。艶めかしい水音をたてながらも、レライエは耳を激しく舐め回す。さらに片手を響の下半身へと、ゆっくりと動かしていく。
舐められる感触に響は体を悶えるように動かしてしまうが、逃さないようにレライエは響を壁に押し付けて動きを止める。
「こうゆう風に……れ……ろおっ……反応してくれるとは……嬉しいよ……」
響の耳元を舐め回すレライエの技量に、生理的に反応してしまう響。それを見たレライエは耳元から顔を離すと、響にキスをする。
触れ合っている唇の間から侵入してきたレライエの舌が、まるで別の生き物のように響の口を蹂躙していく。
「じゅる……れろ……くちゅ……くちゅちゅじゅる……じゅるじゅる……れろれろじゅるる……」
響の顔は羞恥心によって、まるでりんごのように赤くなっていく。それを見たレライエの表情は嗜虐心に満ちあふれていた。
そのまま空いている手で着ているミニスカートの金具を外そうとするレライエであったが、次の瞬間二人の耳につんざくような爆音が襲いかかる。
「らぁり!?」
「ッチ何だ!?」
爆音を聞いた二人は先程の雰囲気とは打って変わって、まるで戦場にいるかのように目つきを鋭くする。
急いで服を整えた二人は、すぐさま爆音がした方向に走り出す。するとショッピングセンターの外壁に、先程まで無かった大穴が空いていて、更には周囲は大火事となっていた。
「レライエ!」
「わかってる響!」
二人は手分けして負傷者が居ないか周囲を探索する。爆発によって怪我をした人間は少なかったのか、負傷者は見つからなかった。そんな時、響が汗を拭う瞬間上を見上げると、そこには人の大きさをした空飛ぶ異形の姿があった。
「っち……何だ?」
まるで岩のような肌をして腰からはしっぽが生えていて、さらには体を包み込めるぐらいの大きさの翼を生やした怪物であった。怪物は響を見つけると急降下して襲いかかる。
すぐに響は横に移動することで攻撃を回避するが、怪物はそのまま再び空に戻る。そしてまるでここに何かがあるように叫びだすのだった。
まもなくすると二体の同じ怪物が、別の所から威嚇するかのように飛んでくる。
「増えやがった……」
響はスマートフォンを取り出すと、達也に連絡をしようとする。しかし次の瞬間、阻止しようと怪物が再び襲いかかってくる。
すぐに響は地面を転がることで攻撃を回避するが、回避した衝撃で地面にスマートフォンが転がっていく。
「くそ……」
転がる響に目掛けて怪物達は、口から炎を吐き出す。生身の体で炎を受けたらただでは済まない響は、焦った様子で炎から逃げ出す。
怪物が三体同時に爪で攻撃を仕掛けようとした次の瞬間、巨大なサメが怪物達を丸呑みするのだった。