戦闘の後、休校
急いで食堂を離れた響は人気が全く無い校舎裏にたどり着くと、デモンギュルテルからイヴィルキーを抜いて変身を解除しようとする。
響がイヴィルキーを抜くと同時に光に包まれ、光が消えると人間の姿に戻った響が立っていた。
すぐにスマートフォンを取り出して達也と椿の無事を確認しようとする響であったが、画面を見ると上之宮学園からの緊急メールと、担任からの無事を確認するメールが何件も入っていた。
「うげ、すごい数……」
画面に表示された受信数を見た響は、どう返事を書くかに迷ってしまったが、先に達也と椿に自体の収束を伝えるメールを送るのだった。
次に響のスマートフォンに送信してきた担任へ無事を伝えるために、無事と返事を書くとメールを作成すると送信する。そしてメールを送り終わった響は、すぐに達也と結奈が戦っていると思われる場所に走っていく。
「達也、大丈夫かな……」
達也達の無事を祈りつつも、先程達也と別れた場所に向かう響。走って向かう途中、先程の戦闘で起きた爆発のせいで生徒達は混乱して暴徒と化していた。
混乱している生徒の波を乗り越えるように走る響。そして先程達也達と別れた場所に到着すると、そこはクレーターが幾つも出来ていて、阿鼻叫喚の渦にであった。
「こりゃひでえな」
周囲を見渡すが生徒も達也も結奈もおらず、人の気配は一切しなかった。またその場には血痕らしきものも見当たらず、逆に言えば戦闘で怪我した生徒がいないことを証明していた。
けが人が出てないことにホッと一息ついた響であったが、すぐにスマートフォンが振動する。誰からかと、画面を見ると達也からのメールであった。
内容は響達のクラスの避難場所について教えてくれるものであった。さらには結奈もいると追記されていた。
集合場所まで周知されているのに一で人行動していることがバレると、何を言われるか分かったものじゃないと、響は急いで避難場所に向かう。
「さすがに何度も怒られるのはまずいか……」
響は避難場所に向かいながらも、周辺にけが人や逃げ遅れている人がいないか、注意しながらも走るのだった。
周囲を見渡しながら走った響であったが、けが人は見つからず程なく避難場所に到着する。避難場所には殆どの生徒が集まっており、担任が点呼を取っていた。
「すいません、加藤響到着しました!」
「遅いぞ、加藤も集まったか、これでうちのクラスは全員無事だな」
担任は響の集合が遅かった事に注意するが、響が無事であったことを確認すると、安心した表情で次の指示を出す。
「全員このまま安全な場所に避難するいいな!」
担任の指示を聞いた生徒達は騒ぎ出すが、担任は一蹴するように指示を出し動き出すのだった。
「なあ響、そっちはどうだった?」
「食堂の方にも天狗が四体いたよ、あーそういえば食堂爆破しちまった」
集団で移動しながらも達也は周囲に聞こえないぐらいの大きさで響にささやきかける。同じく響も小さな声で返事をするのだった。その途中食堂の大惨事を思い出した響は、ポツリと誰にも聞こえない音量で一人呟く。
そうしてる間にも、響達のクラスは他の生徒たちが集まる場所に移動し終わるのだった。
他の学年の生徒達は小さな声で囁きながらも、見事に整列を完了していた。そして響達のクラスが最後だったのか、上之宮学園の高等部の校長と教頭が生徒達の前に出る。
「えー本日学内で爆発事故が起こりました、原因は不明です。なので今日は臨時休校となります」
校長の説明を聞いた生徒達は、ざわざわと騒ぎ出す。中には嘘だと言ったり、怪物を見たんだと言う生徒達もいた。そんな中響と達也は何も言わずに視線を向けて、互いに意思疎通をするのだった。
そのまま自分のクラスに戻っていく生徒達から離れすぎないように、響と達也は遅れるように歩く小声で情報を共有していく。
「そっちはどうだった達也?」
「なんとか全部倒したぜ。空を飛ぶのは厄介だったけどな」
「こっちは室内だったから、あんまり苦戦しなかったよ。あ、でもサメ野郎が出てきて戦ったからなぁ……」
「サメ野郎って前に戦ったっていう奴か」
「二戦したせいでボロボロだよ」
達也が小さな声で災難だったなと言うと、クラスメイトが二人に対して遅れてるぞと言ってきたために、二人は急ぎ足で合流するのだった。
そのまま響達は無事にクラスに戻ると、自分の荷物を回収してそのまま帰宅するために学外にでる。学外には生徒達がまばらにたむろしていて、この後どこかに出かけるか、ファミレスに行こうなど、自由に喋っていた。
「響はこの後どうするんだ?」
「ん、琴乃と合流して家に帰るかな。父さん母さんも心配かけたくないし」
「だな、じゃあまた学校で」
「おう」
そう言うと達也は自分の家に帰るために帰宅し、響は琴乃に今どこにいるのか、とメールを送信するのだった。
すこしばかり時間が経つと琴乃から返信が返ってくる。その内容は校門で待っているという内容であった。それを見た響はすぐに琴乃を迎えに行くために、校門に向かって走り出す。
「あ、兄貴だ」
駆け寄ってくる響の姿を見た琴乃は、こっちこっちと言わんばかりに手を大きく振る。それを見た響も手を振りながら、琴乃に近寄るのだった。
「兄貴は怪我ないよね?」
「もちろん。琴乃は?」
「私もないよ。あ、今心配してなかったな~」
聞いてくる響の顔を見た琴乃は、責めるように響の脇腹を肘で軽く小突く。さすがに悪いと思ったのか、響は申し訳なさそうな顔をして謝った。
「すまん、実は俺今日現場に居たんだ……」
「え!? じゃあ兄貴爆発のことも詳細を知ってるの?」
「あー半分は俺のせいだし……」
琴乃に問い詰められた響は、とても言いづらそうに周囲に聞こえないよう程度の声の大きさで、白状するのだった。
それを聞いた琴乃は頭を抱えながらも、大声で叫ばない自分を褒め称えた。なにせ爆発事故に兄が関わっていたのだから。
「はぁ、もういいよ兄貴。それより一緒に帰ろ!」
「ああ悪いな琴乃」
まるで雑念を振り払うように頭を振る琴乃を見た響は、流石に気を使わせたかと思って、琴乃の顔を直視出来なかった。
そのまま二人は横に並んで、他の生徒と同じように自宅に帰るのであった。
帰宅した後琴乃と別れて自分の部屋に戻った響は、かばんを床に置くと疲れた様子でベットに倒れこみ目を閉じる。
疲れた様子の響を見たキマリス達は、流石にちょっかいを出すのに気が引けたのか何も言わなかった。
「うーん、は! 今何時!?」
次の瞬間目が覚めた響は、枕元に置いてあったスマートフォンの画面を見ると、時刻は午後七時を表示していた。
すぐさま窓に目を向けるとすでに日は沈み、星と月が出た夜の時間となっていた。
「嘘だろ、寝すぎた……」
今着ている服を見れば、シワまみれとなった制服を着たままであった。特にズボンはシワがひどくみすぼらしかった。
さすがにこのままの制服で明日も学校に行く気になれなかった響は、後でアイロンをしようと心に強く思うのだった。
「やあ、おはよう響」
そんな響を元気づけるように、キマリスが響の椅子に座って実体化する。キマリスは響の様子を見て元気そうだね、とポツリと言う。
「なんで起こしてくれなかったんだよ」
「だって君言わなかったじゃないか。それにあんなに気持ちよさそうに寝ていたから、誰も起こす気になれなかったし」
キマリスの正論を聞いた響は、そのとおりだと黙ってしまう。そんな響を見たキマリスは響の頭を抱きしめると、優しく撫でるのだった。
「しょうがないな、そんな君には僕と一緒に寝る権利をあげよう」
「いや寝苦しいからいいや」
断られたキマリスはショックだったのか、響から離れると部屋の角でしょんぼりとしていた。
(危なかった……即決出来なかったら、あのままずっと抱きしめられていた……)
キマリスの柔らかい感触が気持ちよかった響は、すぐに離れられるように断ったが、キマリスの誘惑はそれほどまでに魅力的な物だった。