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引き裂かれる日常

 アスモデウスとの戦闘の翌日、まだ朝日が僅かに窓から入ってくる時間に、響は目が覚めるのであった。

 部屋に入ってくる朝日に目を閉じながら、襲いかかる眠気に抗いながらも響は枕元に置いてあるスマートフォンの画面を見て今の時間を確かめる。


「ん~眠い……今何時……六時前か……」


 スマートフォンの画面に表示されている時間は、平日に起きるにはまだまだ早い時間であった。そのせいか響はもう一眠りするかと思いながらも、ふと体に

 感じとった違和感から布団の中を覗き込むのだった。

 響が感じていた違和感の正体は、布団に潜り込んで響の体と密着するように熟睡していたキマリスであった。キマリスに気づいた響は叫びそうになるが、なんとか手で口をふさぎ、叫ばないことに成功する。

 熟睡しているキマリスの顔は、長いまつげにきめ細やか肌、上下するたわわな胸と、普段のイメージとは違いまるで物語に出てくるプリンセスのようであった。

 ふと寝ているキマリスの表情を見ていると響は、昨日のキスを思い出してしまい。気恥ずかしさのためか響は、顔が赤くなるのを止められなかった。

 寝ているキマリスを起こさないように、響は静かにスマートフォンを元の位置に戻すと、そのままキマリス一緒に二度寝するのであった。


「おやすみ……」




 スマートフォンの時計が午前七時を指すと、設定されていたアラームが響を起こすためにけたたましく鳴り出す。


「むにゃ、何もう時間?」


 耳に響き渡るアラーム音に目が覚めた響は、すぐさまスマートフォンの画面を操作してアラームを止める。

 そして眠そうにあくびをしながらも布団をめくると、響に密着するように寝ていたキマリスが、眠そうにまぶたをこすっていた。


「キマリスもう起きるから布団から出てくれ」


「響もう少し寝かせてよ……」


「それは普通俺が言うセリフだよねぇ」


 眠そうなキマリスを起こそうとする響だが、キマリスは響の体へ更に密着させると顔を擦り付ける。そんなキマリスを剥がそうとする響であったが、キマリスの力が強く、なかなか剥がすことが出来なかった。


「キマリスそろそろ布団から出ないと遅刻するかもしれないから、離してくれよ」


「ううん……わかったよ仕方ないね」


 体を密着させてくるキマリスに、響は顔を赤くしながらもなんとか説得をする。そしてキマリスが離れると、響はすぐさまベットから出るのだった。


「んじゃあ行ってらっしゃい……」


「いやまだ行かないけど……」


 眠そうなキマリスはそのまま実体化を解除して消える。それを確認した響は、リビングへと向かうのだった。




 遅刻もせずに学校についた響は、授業が始まる前に達也、結奈、薫の三人と昨日あったことを共有していた。


「って事があったんだけど何か質問ある?」


「響、ならこれからアストラル界の住人が増えてきて人を襲うのか?」


「アスモデウスの言葉が嘘でなければね」


 達也の質問を聞いた響は、肩をすくめるような動きをしながら返事をする。響はふざけたような反応をしているが、昨日のグールの集団との戦闘でアスモデウスの言葉がありがち嘘ではないと思っていた。

 それは他の三人もそう思っているのか、先程の響の説明を茶化すことなく無言で聞いているのであった。


「だとしたらこれから戦うことも増えるのか……」


「普段の生活も危なくなるね……」


 達也と薫は真剣な表情をしながら、アストラル界の住人が人々を襲う光景を想像してしまう。そんな光景を想像した二人は、口が乾くほどに緊張してしまいツバを飲み込むのだった。


「アスモデウスの話じゃあイヴィルキーを集めればなんとかできるらしいし、それまでは俺と達也が何とかするしかねえ!」


 このまま暗い雰囲気になることを嫌った響は、両手を音がなるほどに強くぶつけると、そのまま椅子から立ち上がる。

 それを見た達也は負けてられないと気合を入れるように頬を叩くと、椅子から立ち上がる。

 立ち上がった二人に同意するように、薫と結奈も椅子から立ち上がると、四人で気合を入れるようにがんばるぞーと声を上げるのだった。


「ところで響、昨日本当ににそれだけで済んだのか?」


「え? それは……言えない」


 達也の質問にアスモデウスの足を丹念に舐め回して舌を入れるキスをしたことと、キマリスとの初キスを思い出した響は、顔赤らめて唇に指を当てるのだった。

 まさか乙女のような反応をされると思わなかったのか、達也は響に問い詰めるように襟を掴むと上下に揺らした。


「お前なんだその反応は! 何をした言え!」


 そんな達也を止めるように薫と結奈は二人の間に入るのだった。

 騒ぎ合う四人のド付き合いを見た響のクラスメイトは、一瞬こちらに視線を向けるがいつもの事とすぐに先程していたことに戻っていった。




 四つの授業を終わらせた響達はお腹を空かせながら、昼休みに中庭で昼食をとるために集まっていた。

 何事もなくたわいない話をしながら取った昼食は美味しく楽しいものだった。そして食べ終わった響、達也、結奈、薫の四人は教室に戻ろうとその場を去ろうとするが、周囲の生徒が空を指差すのに気がつく。


「何だあの点は?」


 生徒が指差す上空に視線を向けると、そこには黒の小さい点が八つあった。八つの点は少しずつ近づいてきてどんどん大きくなるのだった。


「あれって人か?」


 少しずつ大きくなっていく点を見て一人の生徒が呟く、たしかにそれはまるで人型のようであった。しかし空から人が降ってくることは基本的にありえないと判断した響は、よく人型を観察し始める。

 そして八つの人型にあるものが付いていることに気づく、それはまるで背中から生えたカラスの翼であった。

 カラスの翼が生えていることを確認した響は、それが人間ではない可能性に焦った表情になると、急いで周囲の生徒を逃がそうとするのだった。


「みんな逃げろ!」


 響の避難指示を聞いた生徒達は、現状が分かっていないのか首を傾げるだけで動くことはしなかった。

 そして八つの点は降下して響たちにその姿を表す。

 背中からはカラスのような黒い翼を生やし、まるで修行僧のような服を身にまとい、錫杖を片手に持った異形であった。更にその顔はまるで赤一色の顔で、長い鼻が目につくのだった。


「けえええぇぇぇ!」


 叫び声を上げながら一体の異形が一人の生徒に襲いかかろうとする。しかし咄嗟に動き出した響のタックルによって防がれる。

 人が襲われたことを見た周囲の生徒達は、やっと異常事態に気づき、悲鳴を上げながらその場から逃げ出し始める。


「逃げろ逃げろ!」


 結奈と薫は周囲の生徒を逃がそうと避難指示を出し、響と達也は懐からイヴィルキーを出そうとするのだった。だが次の瞬間響のスマートフォンが振動する。


「何だよ今忙しいんだ!」


 一体誰の連絡かと思った響であったが、すぐにスマートフォンを取り出して内容を確認すると、その内容に表情を変えてしまう。

 内容は椿からのメールであった。そしてその内容は椿のいる食堂に、響達が今対面している異形が現れたのだった。


「達也悪い、食堂にもこいつらが現れた!」


「っち、なら早く行け! こっちは蒼樹とで何とかする!」


「悪い……」


 悔しそうな表情をしながらも響は、達也達に背中を向けると食堂に向かって走り出してその場を後にするのだった。


「げげげえええ!」


 離れた響を見た一体の異形が後ろから襲おうとするが、次の瞬間に達也のタックルによって防がれてしまう。

 そして達也は不敵な笑みを見せながらも、アンドロマリウスのイヴィルキーを取り出すのだった。


「お前ら、ここから先は好きにはさせない」


「私も混ぜてくださいね」


〈Demon Gurtel!〉


 結奈もダンタリオンのイヴィルキーを取り出して、達也と背中合わせするような位置取りをする。そして二人の腰にデモンギュルテルが同時に生成される。

 睨んでくる達也と結奈の二人が、自分達に害する存在であると本能的に理解した異形達は、逃げ惑う生徒達から視線を動かして二人を獲物にするのだった。


「げげげ? げえええ!」


 異形達は叫び声を上げながら達也と結奈に向かって飛び立つと、手に持った錫杖構えて襲いかかり始める。


「「憑着」」


 近づいてくる異形を前にして二人は臆せずに、デモンギュルテルにイヴィルキーを装填するのだった。

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