魔神との契約者（イヴィルダー）～悪魔と契約したら同じ契約者と戦うことになりました～

戦慄の学園

舞い散る羽

　走り出す二人のイヴィルダー、先に攻撃したのはカイムイヴィルダーであった。

　腰に帯刀しているサーベルを抜くと、勢いよく響に斬りかかる。

　きらめく剣閃は響の肉体を切り裂かんと、一直線に襲いかかるが、その一撃は響が右腕に生成したキマリススラッシャーによって受け止められる。

　互いの刃をぶつけ合い、拮抗する響とカイムイヴィルダー、両者共に力を入れて押し切らんとするが、その均衡はあ二人が後ろに下がることで終焉する。

「シネェ！」

「お前がなぁ！」

　斬りかかるカイムイヴィルダーであったが、先程響によって傷つけられた翼のせいか、痛みで動きが鈍くなっていた。

　やや遅いサーベルをキマリススラッシャーで防ぎながら、響は間合いを詰めていく。

　そして互いの距離が一メートルほどまで詰めあった瞬間、響はキマリススラッシャーを手放してしまう。

「イマダァ！」

　それを好機と見たカイムイヴィルダーは、勢いよくサーベルを響に突き刺しに行く。

　皮膚と肉が切れる音と、血が流れる音が神社の境内に響き渡る。

「バカナァ……」

　しかし驚いた表情をしているのはカイムイヴィルダーであった、サーベルは響の体を貫かずに、響の左掌を貫通していた。

　そして勢いよく放たれた響の右足が、カイムイヴィルダーの側頭部を捉えていたのであった。

「グッグ……」

　接近戦に持ち込まれることを危惧したカイムイヴィルダーは、掌に突き刺さったサーベルを引き抜こうとするが、響がそのままサーベルを握りしめて抜けないようにしていた。

　さらにサーベルは掌の奥に突き刺さっていき、響とカイムイヴィルダーの距離は近づいていく。

　再び響の右足がカイムイヴィルダーの頭を狙って蹴りが放たれる、カイムイヴィルダーは攻撃を防ごうと片手で防御するが、連続で放たれるキックに徐々に押されていく。

「ハァ！　ハァ！　ハァ！」

　一撃、二撃、三撃、と連続して放たれるハイキックから逃れようとするカイムイヴィルダー、しかし完全に勢いづいた連続キックからは逃れられなかった。

　悩んだ末にカイムイヴィルダーは持っていたサーベルを手放して、響から距離を取ろうとするが、サーベルを手放した瞬間、頭を自由になった両腕に完全に掴まれる。

「ハナセ！」

　逃げようとするカイムイヴィルダーであったが、両手でロックされてしまっているために、離れることは出来なかった。

　そのまま完全にロックされたカイムイヴィルダーにめがけて響は、連続で膝蹴りを繰り出す。

　顎に向けて放たれた膝蹴りは、着実にカイムイヴィルダーへとダメージを与えていた。

「グゥゥゥ」

「最後にもう一発ぅ！」

　響は頭のロックを外すと、勢いよくジャンプしてそのまま両足で飛び蹴りを放つ。

　近距離のドロップキックを食らったカイムイヴィルダーは、そのまま後ろに吹き飛ばされて地面に体を叩きつけられる。

「ふん！　どんなもんだい」

　地面に倒れたカイムイヴィルダーを睨みつけつつ、胸を張る響は左掌に刺さったサーベルを抜き取り放り投げる。

　サーベルが抜かれた傷口からは、血が止まること無く流れ続けるが、響が力を込めると止血された。

「さあ、どうする？」

　不敵に笑う響、逆にカイムイヴィルダーはゆっくりと悔しそうに立ち上がるのだった。

「フ、フザケルナヨォォォ」

　カイムイヴィルダーは地面に落ちているサーベルにめがけて走り出すと、サーベルを拾い上げる。

　そしてサーベルを目元まで持ち上げると、勢いよく響に向かって斬りかかるのだった。

　岩さえも切り裂くほどの切れ味をもつサーベルは、響の胴体を斜めに切り裂き、鮮血が勢いよく舞い散る。

　しかし響はタダで体を斬られたわけではなく、カウンターとしてカイムイヴィルダーのあごに強烈なアッパーを放つのだった。

「グウウウゥゥゥ……」

「ちぃ、痛えじゃないの」

　顎を殴られて後ろにふらつくカイムイヴィルダー、胴体を勢いよく斬られた響は傷口を手で止めて止血に専念するのだった。

　互いに睨みつけ合う両者、先に動き出したのは響であった。

　地面に落ちているキマリススラッシャーを拾うために駆け出す響、そうはさせないとカイムイヴィルダーはサーベルで斬りかかる。

　甲高い金属音とともに火花が飛び散る。

　勢いよく振り下ろされたサーベルは、響が逆手で持ったキマリススラッシャーによって防がれていた。

「チィ……」

「ふん！」

　互いに後ろに下がって距離を取った両者、響はキマリススラッシャーを持ち直し、カイムイヴィルダーは再びサーベルを構えるのだった。

　走り出した両者は再び己の武器を振るう、剣と剣がぶつかり合い甲高い金属音を境内に響き渡る。

　武器同士がぶつかった衝撃で後ろに下がる両者、そしてもう一度武器を振るうのだった。

「ウオオオォォォ」

「うるせえんだよ！」

　叫ぶカイムイヴィルダーの声を聞いた響は、キマリススラッシャーを振り上げるとサーベルをかち上げ、その隙にがら空きの体に何度も斬りかかる。

　袈裟斬り、右薙ぎ、左薙ぎと連続して切り刻む響、何度も放たれた斬撃にカイムイヴィルダーの体は傷が増えていき、それと同時に鮮血が周囲を赤く染めるのだった。

「そらぁ！」

　連続攻撃によってダメージを受けたカイムイヴィルダーに対して、ヤクザキックを勢いよく放つ響。

　蹴りを食らったカイムイヴィルダーは地面を転がり、その隙をついて響はレライエのイヴィルキーを取り出すのだった。

〈Leraie！〉

　響がレライエのイヴィルキーを起動させると同時に、起動音が鳴り響く。

　そしてデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーと入れ替えるのだった。

「憑着」

〈Corruption！〉

　デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、デモンギュルテルの中央部が開き、そこから緑のマントが飛び出す。

　マントは響の体を包み込むと、そのまま人型へと変化していく。

　そしてマントが再度開かれた時、そこに居たのは緑の衣を着た異形、レライエイヴィルダーに変身した響であった。

　響はレライエマグナムをその手に生成すると、カイムイヴィルダーに向けて無言で引き金を引く。

　レライエマグナムから放たれた無数の弾丸が、飛来してカイムイヴィルダーの体に着弾する。

「ウウウゥゥゥ」

　命中した弾丸が体にめり込み、そののダメージに苦悶の声を漏らすカイムイヴィルダー。

　そのまま響は引き金を引き続けながら、ゆっくりと距離を詰めていくのだった。

　弾丸を避けようとするカイムイヴィルダーだが、徐々に累積していくダメージに動きは鈍くなっていき、響に容易に照準を合わせられる。

　カイムイヴィルダーまで残り五メートルといったところまで進んだ響は、レライエマグナムを腰に収めると、殴りかかるのだった。

「ふん！」

　カイムイヴィルダーも防御するが、追撃と言わんばかりに放たれる回し蹴りが頭部を襲う。

　回し蹴りの勢いで土くれが飛び、同時にカイムイヴィルダーの皮膚が削れる。

　バランスを崩すカイムイヴィルダーを、響が隙を逃さずに膝蹴りを胴体に放つ。

　そして腰のレライエマグナムを抜くと、至近距離で引き金を引く。

「グゥゥゥ……」

　至近距離で放たれた弾丸の衝撃に、後ろに一歩また一歩と下がっていくカイムイヴィルダーであったが、響は逃さずに照準を合わせて引き金を引き続ける。

　放たれ続ける弾丸によって、響とカイムイヴィルダーの距離は離れてしまったが、響は勢いよくジャンプすると、カイムイヴィルダーの頭上を飛び越えて着地する。

　さらにジャンプして空中にいる間にも、照準をカイムイヴィルダーに合わせて空中で連続射撃をする。

　着地した響はカイムイヴィルダーに向き合うと、すぐに走り出して再び殴りかかる。

　カイムイヴィルダーの負けじと反撃をするが、響は格闘をしながらも至近距離からレライエマグナムの引き金を引く。

「これで終わりだ！」

　響はデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーに手をかけようとするが、次の瞬間カイムイヴィルダーがその手に持ったサーベルを投擲する。

　サーベルを回避しようとしバランスを崩す響、するとカイムイヴィルダーは残った力を振り絞り、周囲に羽を撒き散らしていく。

　撒き散らされた羽によって視界が妨げられた響は、カイムイヴィルダーを見失ってしまう。

　次に響が目を開いたときには、カイムイヴィルダーの姿は何処にもいなかった。

「はぁはぁ、逃げられたか？」

　響はレライエマグナムを構えながら周囲を見渡すが、辺りに人の気配はなく、カイムイヴィルダーに逃げられたことを確信した。

　戦闘が終わったことを確信した響は、デモンギュルテルからイヴィルキーを抜き取り変身を解除する。

「すいません、神社でイヴィルダーに襲われました。後処理をお願いします、と」

　響は戦闘の余波で滅茶苦茶になった神社を見渡しつつ、千恵に後処理を依頼するためにメールを送信するのだった。

　千恵から了解した、と返事が返ってきたのを確認すると、響は神社を後にする。

「ただいま～」

「おかえり～」

　家に帰ってきた響は帰ってきたと声を出す、それを聞いた琴乃も返事を返すのだった。

　そして返ってきた響を見た琴乃は、顔を少ししかめさせると、顔を響の体に近づける。

「なんだよ琴乃？」

「クンクン、兄貴なんか臭くない？　なんか鳩のフンみたいな臭いする……」

　琴乃は気まずそうな表情をすると、響に正直に言う。

　それを聞いた響は自分の体を臭ってみるが、自分では分からなかった。

　しかし琴乃に臭いと言われてショックだった響は、すぐに風呂に入ろうとするのだった。