空からの襲撃者
いつもどおりの日常のはずであった。
休みの日に行きつけのラーメン屋に行って、好きなメニューを頼んで、腹ごなしに遠回りして家に帰ろうとした時、ふと気づいたのだ。
――誰かに付けられている。
何者かの視線を感じた響は、急いで人の少ない道を選んで歩き始める。
しかし後ろから感じる視線は、消えることはなくずっと響を見ている。
付けている人物を撒こうと響は、曲がりくねった道を右に左に走り出す。
(撒けたか?)
数百メートル以上走って響は立ち止まると、呼吸を整えながら追跡者がいないか確認する。
後ろを写すカーブミラーを見上げるが、後ろには誰もいない、しかしまだ視線を感じるのであった。
埒が明かないと思った響は、さらに人がいない場所に向けて走り出す。
走って走って走って、坂道を登り人がいない場所へとたどり着く。
(ここなら今の時期人はいないだろ……)
響が逃げる場所として選んだのは、地元に親しまれている神社あった。
ここは長距離の坂道があって、祭りや元日、三が日を除いて人は殆どいない。
しかし響を見つめる視線は、まだ降り注いでた。
響が視線の先を睨みつけると、何かの影が近づいてくる。
(何だあの影は……)
『響、避けるんだ!』
キマリスの助言に従って響は、ジャンプして横に転がる。
先程まで響が立っていた場所は、まるでえぐられたかのように地面が露出していた。
もしキマリスの助言に従ってなければ、自分がこうなったかと思うと、響は内心冷や汗をかくのだった。
「誰だ!」
響は襲撃者の姿を見つけると、理由を追求する。
襲撃者の姿はツグミの頭と腰にサーベルを帯刀した、異形の鳥人であった。
異形の鳥人は背中から生えた翼を羽ばたかせてながら、響を睨みつけると様子を見続ける。
『ツグミの頭にサーベル、響あいつもイヴィルダーだ。魔神の名はカイム! 三十の軍団を従える総裁』
『なるほど、じゃあ遠慮なく殴ってもいわけだ。そっちからやってきたからな!』
〈Demon Gurtel!〉
起動音と共に響の腰にデモンギュルテルが装着される。
それと同時に響はポケットに手を突っ込んで、イヴィルキーを取り出そうとするが、何のイヴィルキーを出すかに悩む。
(誰のイヴィルキーを出す? キマリスか、遠距離のレライエ、それともハルファス・マルファスか……)
一瞬の間に悩んだ末に響は、ハルファス・マルファスのイヴィルキーを取り出す。
「行くぞ! ハルファス・マルファス!」
〈Halphas Malphas!〉
響がイヴィルキーを起動させると、デモンギュルテルにイヴィルキーを装填する。
「憑着」
〈Corruption!〉
デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、デモンギュルテルの中央部が開き中から黒と白の鳥が現れる。
黒と白の鳥は響の周囲を飛行すると、響の左半身と右半身に消えていく。
そして響の体は黒と白のシンメトリーな見た目を持つ、ハルファス・マルファスイヴィルダーに変身した。
「さあ叩き落としてやるよ!」
響は挑発的な態度をカイムイヴィルダーに取ると、走り出して勢いよくジャンプする。
空中に飛んだ響は、背中から生えている黒白の翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。
「落ちろ!」
先に仕掛けたのは、カイムイヴィルダーより高度を取った響であった。
高所からカイムイヴィルダーにめがけて急降下すると、太陽を背中にして勢いよく蹴りを放つ。
響を見ようとしたカイムイヴィルダーは、太陽を視界に入れてしまったために目をつぶってしまう。
「うううぅぅぅ……」
その隙を突いて響は、カイムイヴィルダーを蹴り落とす。
蹴られたカイムイヴィルダーはすぐに翼を羽ばたかせて、体勢を立て直す。
そして響に向かって組み付きに行く。
「うおおおぉぉぉ」
組み合いながらも、空中でマウントを取り合う両者、どちらが上を取るかで勝負となっていた。
きりもみしながら両者は地上へと落下していき、そして急降下するのだった。
最後に上に立っていたのはカイムイヴィルダーであった。
「調子に乗るな!」
「うぐぅ」
しかし響はすぐに殴りかかりカイムイヴィルダーを上から退かせる。
そのまま立ち上がるとカイムイヴィルダーの翼を掴み、手刀で切り裂こうとする。
一度、二度、三度、何度も放たれる手刀であるが、翼は簡単には破壊出来ない。
埒が明かないと思った響は手刀で切り裂くから、翼を引き裂くに手段を変える。
「これならどうだ!」
カイムイヴィルダーの肩と片翼を両手でつかみ、そのまま力強く引っ張る。
翼の根本からは皮が破れる音が鳴り響き、カイムイヴィルダーの口からは悲鳴が上がる。
「痛い痛い痛い!」
悲鳴など無視して響は、翼を引っ張るのを止めなかった。
そして力強く翼を引っ張ると、ついに片翼はカイムイヴィルダーから引きちぎられるのだった。
先程まで翼が生えていた箇所からは鮮血が溢れ出し、響の体を返り血で赤く染める。
「これで飛べねえなぁ!」
嬉々として叫ぶ響は、右手の指を揃えて真っ直ぐ伸ばすと、カイムイヴィルダーの翼が生えていた箇所に向かって抜き手を放つ。
傷口をえぐるように放たれた抜き手は、カイムイヴィルダーの体を簡単に貫通する。
右手を動かして傷口を広げる響、先程よりも血は多く流れ出し響の体は黒白から赤一色へと染まっていくのだった。
返り血を浴びた響は、まるで笑うかのようにクラッシャーが開く。
「まだまだこれからだぁ!」
カイムイヴィルダーを仰向けにして持ち上げた響は、そのまま肩に乗せると、右手でカイムイヴィルダーの顎を掴み、左手でふとももを掴む。
そして勢いよく両手に力を入れた響は、そのまま軽くジャンプをする。
地面に着地した瞬間、衝撃でカイムイヴィルダーの体はさらに弓なりに反り。背骨はまるで悲鳴を上げるかのような音を上げる。
「ががががががぁぁぁ」
アルゼンチンバックブリーカーを食らったカイムイヴィルダーは、まるで狂った機械のように苦痛の声を上げる。
そのまま響はアルゼンチンバックブリーカーをかけながら、小さくジャンプし続けて硬い地面を探し続ける。
ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ、響がジャンプするたびに、カイムイヴィルダーの背骨はきしむ音を上げる。
そして何度かのジャンプの末、硬い地面を見つけた響は、そこにカイムイヴィルダーの頭を叩きつけるのに相応しい位置に移動する。
「ここで! 喰らえよやぁ!」
響は勢いよくジャンプすると、背負っているカイムイヴィルダーの頭を地面に叩きつける。
カイムイヴィルダーが叩きつけられた地面は、デスバレーボムの衝撃でひび割れる。
そのまま響はカイムイヴィルダーのクラッチを外すと、足を掴み自身を軸として回転する。
何度も、何度も、何度も、回転することで、カイムイヴィルダーの体は上へと持ち上げられる。
「そおりゃあああぁぁぁ!」
回転に勢いが乗った響は、そのままカイムイヴィルダーの体を放り投げる。
ジャイアントスイングで投げ飛ばされたカイムイヴィルダーは、そのまま巨木に叩きつけられた。
「ぐぐぐぅぅぅ……」
木に叩きつけられたカイムイヴィルダーは、苦痛の声を上げながら立ち上がる。しかしその翼は、度重なる攻撃の結果まともに飛べる様子ではなかった。
飛行能力を奪ったと見た響は、即座にキマリスのイヴィルキーを取り出す。
〈Kimaris!〉
キマリスのイヴィルキーを起動させると、すぐにデモンギュルテルに入れ替えて装填する。
〈Corruption!〉
デモンギュルテルから起動音と共に、デモンギュルテルの中央部が開き、そこから騎士の姿をしたケンタウルスが現れる。
そして騎士はバラバラにパーツへと分解されると、響の体に装着されていく。
両腕、両足、肩、胴体、各パーツが装着されて、響はキマリスイヴィルダーへと変身するのであった。
「さあ、第二ラウンドといこうか!」
挑発的な態度を取る響は、右腕を伸ばしてサムズダウンするのだった。
それを見たカイムイヴィルダーは、構えを取ると鬼気迫る勢いで走り出すのだった。