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バカ兄貴!

 坂井洋子を背中に抱えた響は、歩きながらスマートフォンを取り出す。

 目的は千恵にイヴィルダーの契約者を連れて行くことと、椿に坂井洋子が襲ってきたことを報告するためだ。


(しかしどう伝えたらいいもんか……)


 千恵への連絡は簡単に済むが、椿へ詳細に坂井洋子が襲ってきたと伝えれば、どのようなリアクションを取るかは想像がつく。

 だからといって伝えなければいつかは彼女も、襲ってきたことを知ることになるだろう。


(よしシンプルに書こう!)


 思い立ったが吉日、響はすぐに椿へのメールを作成する。

 内容は坂井洋子が魔神と契約していて、イヴィルダーとして遅いかかてきた、と単調なものであった。

 メールを送信してすぐに、椿からのメールが返ってくる。

 急いでメールを打ったせいか、誤字だらけであったが内容は単純に、今すぐ保健室に向かいますと書いてあった。


(大丈夫そうだし、俺も急ぐか)


 周囲の生徒からは訝しむ目で見られながらも、響は急いで保健室へと歩みを進めるのだった。



「先輩無事ですか!?」


 保健室に入った響を出迎えたのは、椿の心配した声だった。

 保健室には椿の他には、千恵だけしか見当たらず、他の生徒は確認できなかった。


「ああ大丈夫だよ椿君、心配かけたね」


「あの、あの子は……」


 椿の遠慮がちな言葉を聞いた響は、背中で失神している坂井洋子を見せつける。

 意識のない坂井洋子を見て椿は、ホッと胸をなでおろす。


「よかったふたりとも無事で」


「まあ、何とかね」


 響は愛想笑いをしながら、坂井洋子をベットに寝かせる。

 寝かせた後も坂井洋子は意識が戻らず、そのまま寝息だけが聞こえていた。

 静かに寝息をたてる彼女の顔を、椿は優しくなでる。


「この子は人を傷つけるような人では無い筈なんですけどね……」


 椿は悲しそうな顔をしながらも、起こさないようになで続ける。

 それ見て響は、椿が坂井洋子から離れたがっていても嫌ってはいなかったと判断するのだった。


「先輩、それじゃ私はここで御暇させていただきますね」


「わかったじゃあね」


「はいお元気で」


 響と千恵は手を振りながら、椿が保健室を後にする背中を見届けていった。

 そして椿が保健室から去ったのを確認した二人は、真剣な表情をして見つめ合う。


「どうかしらコーヒーでも?」


「いただきます……」


 それを聞いた千恵は、保健室に常備されているコーヒーカップに、インスタントコーヒーの粉を入れると、そのままポットのお湯を注ぐ。

 カップにお湯が注がれる音だけが、保健室に響き渡り、二人分のコーヒーが出来上がった。


「はいどうぞ」


 響と千恵の前にコーヒーの入ったカップが置かれる。

 そして二人は椿には出来ない話を始めるのだった。


「でどうだったの坂井洋子は?」


「すごい剣幕で迫られましたよ、お前は下屋先輩の何なんだ! って」


 響は肩をすくめておどけるように言うが、その目は真剣そのものであった。

 そんな響をみながら千恵は、コーヒーを一口飲むと「モテる子は大変ね」と他人事のように話す。

 実際に他人事であるが、響からしたらたまったものではないのであった。


「いきなりあんなこと言われて驚きましたよ」


 アチチとコーヒーカップを持った響は、コーヒーの熱さにすぐに手放してしまう。

 それを見て千恵は、フフと口元を隠しながら小さく笑うのだった。



 坂井洋子を千恵に任せた響は、一人家までの道を下校していた。

 夕日が差し込むアスファルトとの上を一人歩きながら、誰にも聞こえない程度の音量でポツリと「今日は疲れた」と小さく呟く。

 しかし誰もいないはずの道路で、響は誰かの視線を感じて周囲を見渡す。

 だが辺りには人も自動車も無く、誰かに見られているとは思えない。

 気分の悪くなった響は、急いで走り出して帰宅するのだった。


「ただいま~」


 家に帰った響は、返事が返ってくるこないに関わらずいつもどうりに挨拶する。


「おかえり~」


 響を出迎えたのは、リラックスした様子の琴乃の返事であった。

 それを聞いた響は、安堵しながら靴を脱ぐ。

 そしてリビングに顔を出すと、ソファーに寝転がる琴乃が居た。


「何やってんの琴乃?」


「ちょっと最後の授業の体育で足が痛くなったから休ませてるの」


「そうか……」


 響は寝転がっている琴乃スカートから見えるふとももを見てしまい、すぐに目をそらす。そしてボソッと「はしたないぞ」と呟くのだった。

 琴乃はすぐに兄にどのような体勢だったのか気づき、顔を真っ赤にして起き上がるのだった。

 そんな琴乃の様子などつゆ知らず、響はキッチンでバックから弁当箱を取り出していた。

 だが弁当箱には食べ残しがあったことに気づいた響は、箸を取り出して残った弁当の中身を食べるのだった。


「あれ? 兄貴今日弁当食べきらなかったの?」


「ああ、今日は忙しくてな……」


 珍しく家で残った弁当を食べる響の姿を見た琴乃は、兄に残したの、と聞いてしまう。

 響は事実を言いながらも、一口一口弁当を食べていくのだった。

 五口も食べると弁当の中身は空っぽになり、響は流しに弁当箱を水につける。


「あ、兄貴今日の晩ごはん何がいい?」


 リビングを去って自室に戻ろうとする響に、琴乃は声をかける。


「え、何でもいいよ」


「じゃあカレーね」


 何でもいいと言った響の言葉を信じて、琴乃は晩ごはんを煮込むだけのカレーにするのだった。



 自室に戻った響は、バックを投げ捨てるとそのままベットに飛び込む。

 布団が響の体を受け止めると、小さく空気が抜ける音が聞こえる。


「ふー今日は疲れたよ……」


 別途に体を預けている響の上に、人影が覆う。その影はレライエのものであった。


「レライエ?」


「ふむ、今日は頑張っていたからな、私からのお礼だ」


 そう言うとレライエは響のズボンの裾をめくると、太ももをマッサージしだす。

 柔らかい手の感触につい声を出してしまいそうになる響であったが、食いしばって声が出ないように努力する。

 しかしレライエの指はときには繊細に、ときには大胆に響の太ももをマッサージしていく。

 マッサージの快感と、金髪ロングの美人に触られている事実を認識してしまった響は、股間を隠すようにベットにこすりつける。


「ん、どうかしたのか?」


「いやなんでもなにゃい!」


 レライエのマッサージので痛いところを触られた響は、つい変な声を出していまう。

 それを聞いたレライエは小さく微笑みながら、「にゃって、にゃって」と繰り返して笑うのだった。

 さらにレライエの手は太ももから上に移動していく。

 そして彼女の手は響の腰をマッサージしだすのだった。


「レライエ! まだやるのか?」


「もちろんだ、まだ太ももだけだろ」


 腰をマッサージするために、響の足に馬乗りになるレライエ。

 足にレライエ体重を感じた響は、軽い感触にレライエも女の子なんだと思うのだった。

 腰からさらに手は上に上がっていき、響の背中をマッサージしていく。


「ふむ、響君の体少し固いんじゃないか?」


「あ、そうか?」


「そうだろ、力を入れているがなかなかほぐれない」


 そう言ってレライエは、マッサージする指の力を強くするが、響の体の反応は思わしくない。

 流石にラチがあかないと思ったレライエは、響の体を覆いかぶさるような体勢になると、上から力を入れてマッサージしだす。


(おいおい、柔らかい感触が増えたぞ)


 後ろを向けない響は、レライエがどんな体勢になっているか分からないので、背中に感じる感触にただ混乱していた。


「ふむ、ここだな!」


 レライエは響の体の固いところが分かってきたのか、マッサージするところを肩に変える。

 肩をマッサージするためにレライエは、響の腰にまたがるように座り肩をマッサージする。


(なんだこの感触は……)


 腰に感じる柔らかな感触に困惑する響、しかしそんな響などつゆ知らずレライエはマッサージを続行する。

 柔らかな指の感触、女性特有の甘い匂い、女性に乗っかられているという確信、いくつもの要因が重なって響の下半身はさらに固くなっていく。


「ん、どうした響?」


 流石にレライエも響の様子がおかしいと思ったのか、整った顔を響の耳元に近づけて話す。

 耳元に感じるこそばゆい感触に、響は顔を真っ赤にして「なんでもない」と小さく答えるのだった。

 さらにマッサージは続いて数分後、響の部屋にノックの音が響く。


「はーい?」


「兄貴、ちょといい? 教えてほしい事があるなんだけど……」


 ノックしてきたのは琴乃であった、彼女は響の許可も無くそのまま部屋に入っていく。


「……って何やってるの兄貴!」


 琴乃が見たのは、兄の背中に乗っているレライエの姿であった。

 思春期で多感な琴乃から見たら、兄と契約した悪魔の体勢は性的なものにしか見えなかったのだ。


「不潔! このバカ兄貴!」


 琴乃はそう言うと、持っていた教科書を響の頭に勢いよく投げつけるのだった。

 放り投げられた教科書は、響の顔面にジャストミートする。


「ククク……」


 バカ兄貴と言われてショックな顔をしている響の表情を見て、ついレライエは笑ってしまうのだった。


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