無人の家を探索せよ!
響は急いで階段を降りる、走って走って走って、十二階から一階まで急いで降りていく。
途中階段を歩いている生徒とぶつかりかけるが、平謝りしてそのまま降りていく。
響が目指すのは保健室だ、保健医でイヴィルダー関係で親しい千恵なら、響の知りたいことを教えてくれると思ったのだ。
保健室のあるフロアにたどり着いた響は、普段ならノックをして相手の返事を待つが。今は急いでいるために、そのままノックもせずに保健室の扉を開ける。
「桜木先生居ますか!」
扉を開けると同時に大声で千恵の名前を呼ぶ響、保健室の中では桜木千恵がコーヒーを飲んでゆったりとしていた。
「どうしたんですか、加藤くん?」
慌てた様子の響を見て驚く千恵、普段ならノックをして千恵が中にいることを確認してくるはずであるが、それをしなかったためにキョトンとした目で響を見る。
「桜木先生、ここ数日の無断欠席者のリスト見せてもらっていいいですか!」
「え、いきなりそんな物見てどうするの?」
「調べたい事があるんです!」
響の気迫に押された千恵は業務用のタブレットを持ってくると、すぐさま操作してタブレットを響に見せる。
上之宮学園は学生証に電子カードが使われており、校門に入る時に学生証を使うことで学校に来たことが記録される。
「どれどれ……」
千恵から見せられたタブレットには、三日間の無断欠席者のリストが映し出されていた。
表示されている画面には名前しか写っていなかったが、響が一人の名前をタップすると顔写真と学年、クラスが表示される。
「おいおい嘘だろ」
そこに表示された顔を見た響は顔を引きつらせる、その生徒は三日前に達也に告白してきた女子生徒の顔であった。
女子生徒の出席記録を見ると、女子生徒は三日前から今日まで連続で無断欠席をしていると記録されていた。
嫌な予感がした響は、さらに無断欠席者のデータを詳しく見ていく。
そこには達也に告白してきた女子生徒達が、何日も無断欠席していることがわかった。
その中には今日達也に告白して、一緒に教室を出ていった女子生徒の顔もあった。その女子生徒は今日だけの無断欠席であった。
「狐にばかにされたわけじゃあるまいし……」
「何が狐にばかにされたかな~」
千恵は顔をしかめっ面をさせている響の頬をつねながら、いきなり無断欠席者のデータが欲しくなったことを問い詰める。
「痛いです、痛いです、この無断欠席者のうち何人かを学校で見たんですよ!」
「本当?」
「マジです、この子とか教室で達也に告白したんですよ」
そう言うと響は三日前に達也に告白してきた女子生徒のデータを指差す、それを見て千恵は顔を近づけて響の顔をじっと見る。
まるで心を見透かされているような視線に、響は目をそらしたくなったが事実なのでしなかった。
「嘘はついていないみたいね……」
千恵は数秒程響の顔を見ていたが、嘘ではないと判断すると顔を離すのだった。
「あの桜木先生、警察に連絡してこの生徒が何処にいるかわからないですか?」
響は三日間無断欠席している女子生徒のデータを指差して、千恵に頭を下げる。
「確かにやろうと思えばできるけど……」
流石に千恵も非合法的な活動に言いよどんでしまう、それでも響は頭をさらに下げてお願いするのだった。
千恵が悩むこと数分後、千恵は仕方ないという顔になる。
「わかったわ、とりあえず連続で無断欠席してる子の位置情報だけでも調べてあげる」
「ありがとうございます!」
千恵の言葉を聞いた響は嬉しそうに顔をあげると、千恵の両手を掴むのだった。
流石に年頃の男子生徒に手を掴まれたのが恥ずかしかったのか、千恵は顔を赤く染めるとすぐに響の手を振り払う。
そして警察に無断欠席した生徒について連絡を始めるのだった。
数分後響と千恵は警察から送信された地図を見て、慌てた様子で保健室を急いで出た。
スマートフォンに内蔵されたGPSの位置データを元に、無断欠席している女子生徒達の場所はわかった。しかし彼女達がいる場所はすんで違わずに同じ場所であった。
注意されないように走り歩きで響と千恵は校内を移動し、千恵の愛車のコンパクトカーが置いてある駐車場まで急いでいく。
「どう思う加藤くん?」
「実は拉致監禁されてるとかじゃないことを祈ってますよ!」
「ええそうね!」
急いでコンパクトカーに乗った二人は、自分たちの想像が合っていないことを祈りながら、女子生徒がいると思われる地点に急ぐのだった。
法定速度ギリギリのスピードで数分後、響と千恵はとある一戸建ての家の前にいた。
その家は電気もついておらず、何の音も聞こえないために誰も居ないことが予想できた。
とはいえ家の扉には鍵がかかっており、窓もカーテンも締め切られていた。
「どうします桜木先生?」
「任せなさい加藤くん」
完全に締め切られている一階の窓を見て、千恵に指示を仰ぐ響。
そんな視線を向けられた千恵であったが、千恵は豊満な胸を張ると窓に近づいていく。
そのまま地面に落ちていた手頃な石を持つと、そのまま窓に石を勢いよく叩きつけるのであった。
「え!?」
ガシャンと大きく窓の割れる音と共に、粉砕された窓を見て驚愕する響。
流石に石を使って無理やり鍵を開けると思わなかったのか、響は驚きの表情のまま静止してしまう。
動かなくなっている響を尻目に、千恵は割れた窓の穴から手を突っ込み鍵を開けていく。
「どうしたの加藤くん? 鍵空いたわよ」
「え、あ、はい、今行きます!」
千恵が勢いよく窓を開けると、その瞬間部屋に漂っていた悪臭が二人の鼻に入っていく。
「うっ!」
「何この臭い!」
二人は服の袖で鼻を抑えて悪臭の元を探す、しかし部屋は電灯がついていなくて暗くて見ずらい。
響は鼻につく臭いを嗅いでいるうちに、一つの記憶が鮮明と思い出し始める。それはオカルト研究会の部室に入った瞬間に感じた臭いであった。
「この臭いオカルト研究会に行った時にもこんな感じの臭いが……」
「オカルト研究会? 加藤くんあそこ行ったの?」
千恵は腫れ物を見たような表情をすると、響に何が有ってそんな所に行ったような視線を向ける。
「まぁ諸事情があって……」
響も変な奴を見る視線を向けられるとは思わなかったのか、苦笑してごまかすのだった。
そのまま部屋の奥に進んでいく二人であったが、奥に進むにつれて悪臭は酷くなっていく。
響が暗い部屋を歩いていく中で大きな机が置いてある部屋を発見する、その机の上には皿が何枚も置いてあり、そこからも悪臭が漂っていた。
机の上に置いてある皿を響が詳しく見ると、カレーと思わしき料理が各皿に盛り付けられている。
しかし皿の中のカレーは夏の熱さのせいか、カビが皿全体を覆い尽くしていた。
「何これ……」
カビに覆われている皿を見て千恵は、顔をしかめっ面にしてしまう。
「もしかしてこの臭い、カビだけじゃなくて食品が傷んでる臭いかも」
カレーが盛られた皿に鼻を近づけた千恵は、部屋を覆い尽くす悪臭の原因に想像する。
事実既にこのカレーは傷んでいて、そのせいでカビの臭いも含めて部屋中に悪臭を漂わせていたのだ。
二人はカレーが置いてあった部屋を後にすると、廊下へと移動し始める。
廊下も異臭が漂っており、二人は鼻を抑えなが各部屋を回ってく。
一つ一つ部屋を見て回るが女子生徒の姿はなく、代わりにあったのは大量のゴミ袋と謎めいたオカルト系の家具ばかりであった。
「この家、なんかよくわからない物が多くて嫌になりますね」
「そうね壁にも変な壁紙が所狭しと貼られてるし」
壁や床に貼られている紙を見てしまった響と千恵は、紙に描かれている絵の冒涜さに頭が痛くなっていく。
頭の痛みに耐えながらも響と千恵は、二階へ続く階段を登っていく。
階段には一段一段に奇妙な姿をしたスタチューが設置されており、それがこの家の不気味さを際立たせるのだ。
「気味の悪い家具が多いですねこの家」
「そうね、あまり長居したくないタイプの家だわ」
響は階段に設置されているタコのような頭を持ち、人間のような手足、そして翼の生えた石像を気味が悪そうに見ながらも、階段を一歩ずつ進んでいくのだった。
二階に到達した二人は廊下をまず観察する、一見したところ廊下自体には怪しい所はないが、何処からかくぐもったような音が聞こえる。
「どうします桜木先生?」
くぐもった音を聞いた響は千恵に指示を求める、流石にこの場で一人で突っ走る度胸は響にはなかった。
「そうねまずは音が聞こえる部屋を見てみましょう」
千恵の言葉を聞いた響は、無言でうなずくのであった。
ゆっくりと二人は廊下を音を立たせずに歩いていく、そしてくぐもった音の発生源と思わしき部屋の前に立つのだった。
扉が閉められた部屋の前に立った二人の鼻に、一階で感じた悪臭とは違う臭いを嗅ぎ取る。
「酷い臭いだ……」
「加藤くん、止まっている場合じゃないわ。とりあえず扉を開けましょう」
悪臭に耐えきれなくなった響は、鼻を服の袖で隠す。そんな響を千恵は発破をかける。
発破をかけられた響は、決心して部屋の扉を開ける。
そこに広がっていた光景は……。