天使のように細心に、悪魔のように大胆に
フラウロスイヴィルダーに変身した響を見て、一歩後ろに下がる三人のイヴィルダー。しかしすぐに動き出した者がいた、フルフルイヴィルダーである。
「姿が変わっただけじゃねーか!」
近づくフルフルイヴィルダーを響は、音もなく迷わずに迎撃体勢をとり走り出す。それを見てフォカロルイヴィルダーとヴィネイヴィルダーは攻撃しようとするが、攻撃を躊躇してしまう。
響は二人のイヴィルダーとの間に、フルフルイヴィルダーを間に挟んだのである。
フルフルイヴィルダーを盾のようにされた二人のイヴィルダーは攻撃できず、そのスキに響はフルフルイヴィルダーと組み合う。そしてフルフルイヴィルダーの脇腹に向かって、爪を素早く突き立てる。
「がぁぁぁあああ!」
脇腹を襲う痛みにフルフルイヴィルダーは叫び声を上げる、しかし響は動じずそのまま爪を下に向かって引き裂いていく。傷口が大きく開きフルフルイヴィルダーの脇腹からは鮮血が舞い、返り血によって響の頭を赤く染め上げる。
「なんだぁこいつ」
先程とは違う響の戦い方にフォカロルイヴィルダーとヴィネイヴィルダーは、恐怖を覚え後ずさる。
実際に響は氷の精神を持ったわけではない、架空の英雄達の戦い方をエミュレートしているだけに過ぎない。しかし今響はエミュレート結果ある意味本当に戦うためだけの冷徹な機械となったのだ。
二人のイヴィルダーの反応など響は興味は無いと言わんばかりに、爪をフルフルイヴィルダーから抜き取る。そしてもう片方の手で勢いよく、フルフルイヴィルダーの体を手刀で切り裂くのであった。
「スカーレット・オブ・ベルリン!」
響の手刀によって切り裂かれたフルフルイヴィルダーの体からは血が大量に吹き出て、響の顔をまるで赤い雨が降ったかのように赤く染めるのであった。
「はぁ!」
血を大量に失って意識を失いかけてるフルフルイヴィルダーを、響は勢いよく蹴り倒す。そして間髪入れずに両手と片膝を地面につけて、クラウチングスタートの姿勢をとる。
フルフルイヴィルダーが地面に倒れたと同時に響は、勢いよくフォカロルイヴィルダーに向かってジャンプして、頭から突撃するのであった。
「ドラゴン・ロケット!」
まるで弾丸のように勢いよく飛び出した響の体は、フォカロルイヴィルダーのみぞおちに鋭く突き刺さる。
「ごぉおお」
みぞおちを襲う衝撃にフォカロルイヴィルダーは苦悶の声を上げるが、響は立ち上がると遠慮なくフォカロルイヴィルダーの後ろを取り、フルフルイヴィルダーの首元に鋭いエルボーを叩き込む。叩き込まれたエルボーの一撃で首元を押さえるフォカロルイヴィルダー。
「てめえ!」
ヴィネイヴィルダーは響に向かって突風を吹かせようとするが、フォカロルイヴィルダーが邪魔になって放てない。
ヴィネイヴィルダーの反応を見た響は大きくジャンプをすると、フォカロルイヴィルダーの頭上を取る。
「コーホー!」
収納していた爪を再度出した響は片腕を前に突き出すと、そのままフォカロルイヴィルダーの頭に爪を突き刺す。
「ギャァァァ!」
頭部を襲う痛みにフォカロルイヴィルダーは絶叫をあげる、フォカロルイヴィルダーの頭からは血が流れ、足元を鮮血で赤く染めていた。
凄惨な状態のフォカロルイヴィルダーを見てヴィネイヴィルダーは絶句する、しかしそんな事は響には関係は無かった。
「はぁぁぁ!」
響は雄叫びをあげると同時に体を回転させる、その姿はまるでドリルのようにフォカロルイヴィルダーの頭を抉っていく。
回転する響の一撃をくらったフォカロルイヴィルダーの頭からは、まるで噴水のように血が流れていく。
フォカロルイヴィルダーが膝をつくと同時に、響はフルフルイヴィルダーから離れる。
「うぁぁぁ」
フォカロルイヴィルダーは小さく苦悶の声をあげると、その身を砂浜に委ねるのであった。
フォカロルイヴィルダーが倒れると同時に、光がフォカロルイヴィルダーを包み込む。そして光が収まった後には、変身を解除した男とフォカロルのイヴィルキーが落ちていた。
響がフォカロルイヴィルダーに攻撃を仕掛けて、僅か三十七秒のことであった。
「てめえ!」
フォカロルイヴィルダーがやられた事実を理解したヴィネイヴィルダーは、響に向かって手をかざし突風を放つ。
しかし響は突風を紙一重で回避して、どんどんヴィネイヴィルダーに近づいていく。近づかれることを恐れたヴィネイヴィルダーは、更に突風を響に乱発する。
焦るヴィネイヴィルダーと冷血・冷酷・冷徹の心をもつ響とでは当たるものも当たらなくなる、あっという間に響はヴィネイヴィルダーと距離を詰めた。
「くそくそくそぉ!」
悪態をつくヴィネイヴィルダーだがそのまま響に向かって殴りかかる。しかし響は腕を掴むとそのまま背中から倒れ込む、そしてヴィネイヴィルダー腹に向かって両足蹴りを叩き込むのであった。
蹴られた勢いで空に投げ出されるヴィネイヴィルダーの体、それを追いかけるように響は大きくジャンプをする。
空中でヴィネイヴィルダーと距離を詰めた響は、そのままヴィネイヴィルダーの体を右手で顎を左手で太ももを掴む、そしてヴィネイヴィルダーの背中を首で支える。
「アルゼンチン・バックブリーカー!」
その体勢のまま響は地面に急降下していき、地面に両足で勢いよく着地する。
着地の瞬間の衝撃は凄まじく、周囲に雷のような轟く鈍い音が鳴り響いた。
メリメリメリとヴィネイヴィルダーの背中から骨の軋む音が鳴る、さらに響はヴィネイヴィルダーの体を真っ二つにしようと両手を下げていく。
「ああぁ」
背骨を襲う激痛にヴィネイヴィルダーは単純な音しか口から出せなかった。
ヴィネイヴィルダーの強靭な背骨が折れない事を悟った響は、即座に両手をクロスさせ左手で顎を右手で太ももを掴む。
「アルゼンチン・バックブリーカーネイキッドォ!」
先程のアルゼンチン・バックブリーカー以上にヴィネイヴィルダーの体は弓なりになり、背骨からはピキピキと骨が折れる音が鳴る。
そしてイギリスにあるタワーブリッジの如く、ヴィネイヴィルダーの体は背骨から折れた。それと同時にヴィネイヴィルダーの口からは血が吹き出るのであった。
技を外してヴィネイヴィルダーを開放する響、開放されると同時にヴィネイヴィルダーの体は光に包まれる。光が消えた後には倒れた男とヴィネのイヴィルキーが落ちていた。
「ううう、今はどうなっている?」
倒れ伏していたフルフルイヴィルダーが立ち上がり、二人がどうなっているのか確認する。
しかし二人のイヴィルダーは変身を解除して倒れており、立っていたのは響だけであった。
フルフルイヴィルダーに向かって振り向く響、その瞬間口元のクラッシャーがカシャリと開き、まるで冷たい笑顔を見せるのであった。
「クソクソクソ、死ね!」
笑う響を見て恐怖したフルフルイヴィルダーは、頭の角から雷撃を放つ。
しかし響には全然命中せず、当たりそうになった電撃を響は紙一重で回避するのであった。
電撃の嵐の中を走り出す響、何発もの雷が降り注ぐなか響は最低限の動きでフルフルイヴィルダーまでの距離を詰めていった。
「ハァ!」
そして響はフルフルイヴィルダーの股の間をスライディングで風のように通り抜けて、すかさずフルフルイヴィルダーの背後を取る。
「なに!?」
驚くフルフルイヴィルダーであったがもう遅い。響は背後からフルフルイヴィルダーの両足に足を引っ掛け、フルフルイヴィルダーの両腕を両手で絞るように持ちながら前に倒していく。
「リバース・パロ・スペシャル!」
フルフルイヴィルダーは技から逃れようと体を動かすが、響の絶妙なるコントロールにより逃げることがかなわない。逆にフルフルイヴィルダーはさらに技の深みにはまっていくのであった。
フルフルイヴィルダーの肩からはミシミシと肩の骨が軋む音が鳴り続ける、それを聞いても響は技を緩めることはせず、フルフルイヴィルダーの腕を前に倒していく。
「なあ、もう止めてくれよ。イヴィルキーも渡す、さっきまでのことも謝るからぁ!」
泣きわめき命乞いをするフルフルイヴィルダー、しかし響はそれでも何も言わずにリバース・パロ・スペシャルをかけ続ける。
「これで終わりだ、リバース・パロ・スペシャル・ジ・エンド!」
腕を極められているフルフルイヴィルダーは徐々に体を砂浜に付けていく、そして響はそのままフルフルイヴィルダーの腕を勢いよく前に倒すのであった。
「あぁぁぁ!」
肩の関節を破壊されたフルフルイヴィルダーは絶叫を上げて地面に倒れる、そのまま響は両手を離してフルフルイヴィルダーから離れるのであった。
倒れたフルフルイヴィルダーは光に包まれる、そして光が収まった後には変身を解除した男とフルフルのイヴィルキーが落ちていた。
三人のイヴィルダーを倒したことを確認した響は、地面に落ちている三つのイヴィルキーを回収する、そして変身を解除して千恵に急いで連絡しようとした。
「あ……」
スマートフォンを取り出した手は三人のイヴィルダーの血で赤く染まっており、自分がこの出血をさせたのだ、と無言の圧力をかけてくる。
血で赤くなった手を見続けている響に、「先輩」と大声で呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと響の元に走ってくる椿の姿があった、椿は長距離を走ったのか息も絶え絶えで、響の前に立つと呼吸を整えた。
「あの……先輩大丈夫ですか?」
顔色の悪い響を心配した椿は、下から響の顔を覗き込む。
「ああ、大丈夫だよ」
「嘘です、先輩酷い顔してます」
椿の指摘を聞いた響は、その言葉に少しだけ反応してしまう。それを見た椿は、響と体を密着させるのであった。そして椿は響の手が赤く染まっていることに気づく。
「先輩、これ怪我しているんですか!?」
「違うよ、これは返り血だよ」
響は自虐的にそう言い放つ。しかしその表情は椿に知られたくないようなものであった。
そんな響を見た椿は、優しく響の頭を抱えてそっと胸元に当てる。
「椿君!?」
椿の行動に驚いた響は慌てて椿から離れようとする、しかし椿の抱きしめる力は強く、力ずくで解かないと離れられなかった。
「先輩は優しい人です、誰かのために戦う人ですから。だから先輩が先輩自身を嫌いにならないでください」
優しげな椿の言葉を聞いた響は、少しだけ気持ちが楽になったのか表情を和らげる。
「ありがとう、椿君」
「はい! どういたしましてです」
椿と調子を戻した響は、ウェパル達の元に歩いていくのであった。
二人が居なくなった後に、二人を見ている視線があった。実体化したキマリスである。
「僕が響の調子を元に戻そうとしたけど、……まあいいけどね」
キマリスはふてくされた顔をしながらも、砂浜を歩く二人を見守るのであった。
砂浜を歩く響と椿を見つけたウェパルは、先程まで暗かった表情を明るくさせた。
「生きていたのか!」
「ああ、なんとかな」
ウェパルは一歩進めば顔がぶつかりそうなほどの距離まで響に近づくと、ウェパルのイヴィルキーを響に差し出す。
「これ、いいのか?」
「ああ、この体も持ち主に返さないといけないしね。君なら私の力をうまく使ってくれると、信じられる」
ウェパルの言葉を聞いた響は、ウェパルからイヴィルキーを受け取る。
響がウェパルのイヴィルキーを受け取った瞬間、ウェパルは響の額に軽くキスをするのであった。
「なっ!」
響の額にキスをする場面を見て、椿は驚愕の表情をする。
そのままウェパルであった少女は意識はなく、そのまま地面に倒れ込もうとするのであった。
すぐに響は少女を受け止め、そして千恵に連絡をするのであった。
千恵に連絡して魔術学院の手の者が少女を家に送り、響達は電車で帰路についていた。
「今日は大変でしたね先輩」
「でも楽しかっただろ」
「はい!」
響と椿はは笑顔で海についての話題で話し続けるが、薫だけは疲れた様子であった。
「いいですよね、二人は楽しい話題があって。僕はあの後もナンパされ続けましたよ」
薫の話を聞いた響と椿は、申し訳無さそうに苦笑するのであった。