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流れ着いた人魚

 日差しがかんかんと照りつける海辺で、響、椿、薫、キマリス、レライエ、ハルファス、マルファスはボール遊びをしていた。

 一番レシーブが上手いのは狩人としての権能からレライエ、一番高く飛ばすのはこの中でがたいがいい響であった。体が幼いハルファスとマルファスは、響達が取りづらい位置にボールを飛ばすなどして彼女達なりに楽しんでいた。


「先輩行きます!」


 やる気十分の椿が響に向かって掛け声を上げる、そして飛んできたビーチボールを椿がトスする瞬間ボールが椿の胸に直撃する。


「きゃあ!」


 思わぬ衝撃に悲鳴を上げる椿。飛んできたビーチボールを受け止めようとする響であったが、あるものに視線を奪われて受け止めるのに失敗する。

 響の視線を釘付けにしたのは、ビーチボールが当たった衝撃で水着が外れた椿の胸であった。

 すぐに椿は気づいて体を縮こまり胸元を隠す。


「椿、早くこれを!」


 椿の水着に一番近かったキマリスが、急いで水着を回収して椿の元に駆け寄るのであった。

 男である響と薫は、申し訳無さそうに椿を見ないように視線をそらしていた。


「ああいうのが好きなのか? 響」


 いつの間にか響に近づいていたレライエは、響の耳元で小さく囁く。こそばゆい感覚に響は小さく身を捩ってしまう。


「流石にこんな衆人観衆では水着は外してやれんが、風呂場ならいいぞ」


「レライエ!」


 レライエの誘惑に顔を真っ赤にして怒る響、しかしレライエはどこに吹く風と言わんばかりに口笛を吹いていた。


「先輩ー! ボール取ってくださーい」


「わかったー」


 なんとか水着を付け直した椿は、ボールが響の近くにあることを確認して響に取ってもらおうとする。

 響がボールを探すと、ボールが波に流されていきどんどんと響から離れていくのであった。


「っとっとっと、ヤバい離れていく」


 急いで響はボールを追っていくが、波の流れは速く距離が離れていく。そしてボールは岩のある所まで流されていく。

 岩に隠れてボールを見失ってしまった響は、周囲を見渡し懸命にボールを探す。すると岩の側に小さな影を見つける、それをボールと思って響は近づいていく。

 影に近づいた響はソレを見て驚愕するのであった。


「おいおいマジかよ」


 岩の側にあったのはボールではなく仰向けになった少女であった。しかもその少女は水着ではなく普通の服で、さらに響が見た限り意識がなかった。


「おい、大丈夫かあんた!」


 響は少女に声をかけるが、少女はピクリとも反応しない。

 流石にそのままほっとくわけにはいかなかったので響は、少女をおぶって陸まで運ぶことにした。

 少女の体は氷のように冷たく、服は海水を吸収して鉛のように重くなっていた。それでも響は力を振り絞って、少女の体をおぶって移動するのであった。


「フーフーフー」


 重い少女の体を背中に抱えつつ、響はまず現状説明のために椿達の元へと戻っていった。


「先輩ー遅かった……ってどうしたんですかその人!?」


 響が戻ってきたことに気づいた椿は手を振るが、すぐに響の背中に人がいる事に気づいて急いで近づいていく。


「そこの岩影に漂流していたんだ」


「それって大事じゃないですか、急いで海岸に戻りましょう!」


 響と椿は薫やキマリス達に急いで事情を話すと、全員で海岸に戻ることが決まった。




 漂流していた少女は椿が体をタオルで拭いて、苦しくないような姿勢にして安静にさせた。

 そして時刻は既に真昼に近づいていたために、椿と薫は全員分の昼食を買いに行った。


「しかしこの人はどうして海の真ん中で普段着で流れていたんだ?」


「さあもしかして川に落ちて、海まで流されたとかね?」


「ははは、まさかー」


 響とキマリスは意識を失っている少女の様子を見ながらも、なんとか冗談を飛ばせるぐらいには余裕はあった。


「う、うーん……」


「気づいた」


 少女はうなされたような声を上げて目を覚ます、そしてすぐに誰かを探すように周囲を見渡すのであった。


「あいつは……いないか」


 少女は誰かが居ないことを悟ると、安心したのか大きくホッと一息をついた。


「あのーいいですか?」


「は、はい!」


 響は少女に海岸漂流していて救出した事を説明した、それを聞いた少女はペコリと頭を下げるのであった。


「助けてくれてありがとう、でもごめんなさい詳しいことは言えないの」


 そう言うと少女は立ち上がり、その場を去ろうとするのであった。しかしその瞬間待ったをかける人物がいた、ここまでずっと黙っていたキマリスである。


「一つ聞いていいかね、どうして人間のフリをしてるんだね。ご同輩?」


 キマリスの質問を聞いた少女は、一瞬で顔を青ざめさせてキマリスの方にキッと視線を向ける。

 少女はその場を離れようと走ろうとするが、キマリスによって腕を掴まれ動けなくなる。


「おいおい逃げるなんて、悲しいねこっちは命の恩人だというのに」


「私の正体が分かるなら、お前たちもあいつと同じだろ!」


 ヤレヤレと首を振るキマリス、そんなキマリスの手を振り払って少女は威嚇するのであった。


「待ってくれ! 俺たちはあんたに危害を加えようとは思っていない」


「ならあれはなんだ!」


 少女は響の荷物を指差す、その先にはキマリスのイヴィルキーがあった。


「お前達もあの鮫のイヴィルダーと同じように、私のイヴィルキーが欲しいだけだろ!」


(あれ? 鮫のイヴィルダーって)


『キマリス、鮫の悪魔なんてフォルネウス以外いるのか?』


『明確に鮫というなら、フォルネウスだけだね。他にも海洋生物の姿をした悪魔はいるけど』


 響は両手を上げて敵意が無いことを示す、そして少女の足元にイヴィルキーが入った荷物を投げるのであった。


「何の真似?」


「俺たちがあんたに危害を加えないって証明さ。だから何があったのか教えてくれないか?」


 猜疑心にまみれた表情の少女は一瞬悩むと、口を開き始めた。


「台風が近づいてきた日、私は私の契約者と共に外に出歩いていたの。その時に鮫のイヴィルダーに襲われたのよ、そしてその時のダメージで契約者の意識はずっと眠ったまま……」


「じゃああんたは?」


「私の名はウェパル、二十九の軍団を率いる大いなる公爵よ」


 ウェパルと名乗った少女は、フォルネウスイヴィルダーに切り裂かれた首元を響とキマリスに見せつける。傷口自体はすでに塞がっているが、横一文字に切り裂かれた痕が痛々しく首に残ってた。


「実は俺たちも鮫のイヴィルダーに襲われた事があるんだ」


 響はウェパルにかつてフォルネウスイヴィルダーに、目の前で別のイヴィルダーが倒された時の事を話始める。そしてすぐに自分も襲われて、さらにイヴィルキーを活用できる技術も持っていることを話した。


「そうなの……貴方達も大変なのね」


 ウェパルは響の話しを聞いて表情を緩めると、同情からか彼女は信頼の視線を響に向ける。


「おいおいおい、賞金の懸かったガキを探してみればさっきのガキもいるじゃないか」


 突如として話しかけてきた声に、響とウェパルは声の方向に視線を向ける。

 そこには先程薫に絡んでいた三人の男達が、ウェパルに向けて下卑た視線を向けていた。


「お前達、さっき薫に突っかかていた……」


「今はお前に用はねぇよ、用があるのはそっちの女の子」


 そう言うと一番前の男はイヴィルキーを取り出す、そうすると男の腰にデモンギュルテルが巻き付く。


〈Demon Gurtel!〉


 そして男はイヴィルキーを起動させると、デモンギュルテルにイヴィルキーを差し込んだ。


〈Furfur!〉


「憑着」


〈Corruption!〉


 ベルトの中央部が観音開きになると同時に、落雷が男に向かって落ちる。

 落雷が落ちた衝撃で土煙が舞、男の姿を隠してしまう。次の瞬間何者かが、土煙を切り裂き現れる。

 現れたのは翼が生えた鹿の意匠持つ怪人、フルフルイヴィルダーであった。


「なに!? こうなったら私が……ううう」


 ウェパルはイヴィルキーを取り出して変身しようとするが、胸を抑えて膝をつく。

 急いで響はウェパルに近づいて。「大丈夫か?」と体を支える。


「いいから逃げなさい! あいつらの目的は私なのよ!」


「悪いけどそんな姿見せられて、あんたを置いて逃げるなんて出来ないね」


 響はそう言うと荷物からキマリスのイヴィルキーを取り出して前に出る、それと同時に響の腰にデモンギュルテルが巻き付く。


〈Demon Gurtel!〉


 腰にベルトが装着されたことを確認した響は、イヴィルキーを起動させてデモンギュルテルに差し込むのであった。


〈Kimaris!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 響のデモンギュルテルの中央部が開き、中からケンタウルスの姿をした騎士が現れる。

 騎士は一瞬でパーツ状に分解され、響の体に装着されていく。そして響はキマリスイヴィルダーに変身するのであった。


「俺が相手だ!」


 キマリスイヴィルダーに変身した響を見たフルフルイヴィルダーは少し驚くが、なんともないように響に殴りかかる。

 攻撃してくるフルフルイヴィルダーの攻撃を、響は回避して距離を詰めるとフルフルイヴィルダーに胸に掌底を叩き込むのであった。

 ズンと鈍い音と共にフルフルイヴィルダーは吹っ飛び、砂浜に倒れ込む。

 無様な姿を見せたフルフルイヴィルダーを見て、残りの二人の男達はゲラゲラと下品に笑う。


「おいおい、恥ずかしすぎだろ!」


「ッチ、黙ってろ。こいつは俺が殺す」


 他の二人を黙らせたフルフルイヴィルダーは、立ち上がると響に殺意を込めた視線を向けるのであった。


「来いよ、俺は二人でも三人でも構わないぜ」


 響は慢心しながらも、フルフルイヴィルダーと二人の男達に向かって挑発するのであった。

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