表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/100

愛と憎悪、無知という罪と知りすぎる罰

 琴乃のスキンシップが激しくなって、数日が過ぎた。

 その間に響は実の妹に心拍数を上げてしまうことに、自分を戒めながらも不安な日々が続いた。


(今日も琴乃のスキンシップ激しかったな……)


 響はリビングでうなだれながら、今日の琴乃の様子について思い返していた。

 様子のおかしい琴乃については、達也からも質問されたが響には何が原因か分からなかった。


「はぁ」


 疲れた様子の響は、ため息をついてしまう。そうしているとリビングに琴乃が入ってくる。

 琴乃は響に気付かれないように、ゆっくりと足音を消して響に近づくと後ろから抱きつく。


「あーにき、どうしたの?」


「うぉ!」


 後ろから抱きつかれたことに驚く響であったが、直ぐに後ろを振り向く。


「なんか悩んでいたみたいだけど、大丈夫?」


「おう、大丈夫大丈夫」


 悩んでいる理由は琴乃について、とは言い出せなかった響であった。

 琴乃は心配そうに響を見つめるが、少しすると徐々に顔を近づけていく。

 響は琴乃との距離が近くなったことで、顔を徐々に赤く染めていく。そんな様子の響を見て琴乃は、クスクスと妖艶に笑うのであった。


「兄貴~」


 琴乃は猫なで声で響の体に頭を擦り付ける、柔らかい感触に響の心拍数は急上昇してしまう。


「好きだよ兄貴」


 響の耳元で琴乃は誰にも聞こえないようにささやく、しかしそれは響に違和感を持たせるものだった。

 琴乃は響の目の前で「好きだよ」と言う子ではなかった、その事実は響に勇気をもたせる。


「なあ琴乃、やっぱりお前様子がおかしいよ」


 響の言葉を聞いた琴乃の表情は一変する、先程までの笑顔は消えて能面のような表情に変わる。

 そしてハイライトの消えた目で琴乃は、響を見据えるのであった。


「なんで……兄貴はそんな事言うの? 私は兄貴のことが好きなのに」


「なんでって、俺たちは兄弟だしおかしいだろ」


「おかしくないよ、私は……」


 言い争いを始める琴乃と響、兄に拒絶された琴乃は涙目になる。

 琴乃はショックを受けたようにうつむくと、上着に手をかけてそのまま捲り始める。


「琴乃!?」


 服を脱ぎ始めた琴乃を見て、響は顔を赤面させて見ないようにする。

 しかしそれよりも琴乃の脱衣のほうが速く、彼女は上半身下着姿となる。



「ううう……え?」


 見ないように目を隠していた響の視界に、あるものが目に入る。それは響にとって見慣れたもの、デモンギュルテルが琴乃の腰に装着されてあった。


「琴乃それは……」


「兄貴が私を否定するなら、動けなくしてでも一緒にいさせる!」


 琴乃はイヴィルキーを取り出すと、起動させてデモンギュルテルに差し込む。


〈Flauros!〉


「憑着」


〈Corruption!〉


 ベルトの中央部が開くと、中から炎をまとった豹が現れる。そのまま琴乃の周囲を歩くと、琴乃に向かって炎の塊となってジャンプをする。

 炎に飲み込まれる琴乃、炎が消えた後に居たのは、炎のように赤い豹頭の怪人フラウロスイヴィルダーであった。



「琴乃!?」


『響、気をつけろ。あれは六十四番のフラウロス、炎を操る豹だ!』


『く!』


 キマリスから何のイヴィルキーを使ったのか教わる響、家の中で火を使われたらマズイと思ったのか、リビングの窓を急いで開けに走る。


「こっちだ! 琴乃!」


 響は琴乃に窓の方に視線を向けさせるように叫ぶ、琴乃は真っ直ぐに響の元へ走るのであった。

 そのまま琴乃の突撃を受け止める響、二人は窓から飛び出しリビングから外に向かうのであった。


「熱い!」


 炎のように熱をまとう琴乃へ接触している響は、熱さに弱音を吐く。しかしすぐさま距離を取り、琴乃を見据えるのであった。


〈Demon Gurtel!〉


 響の腰にデモンギュルテルが生成される、それと同時に響はポケットからキマリスのイヴィルキーを取り出す。


「兄貴それは……」


 兄も自分と同じ力を持っていることを初めて知った琴乃は、ショックを受けたかのように驚く。

 琴乃の様子に気づかないまま響は、イヴィルキーを起動させてデモンギュルテルに差し込む。


〈Kimaris!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 響のデモンギュルテルの中央部が開き、中からケンタウルスの姿をした騎士が現れる。

 騎士がポーズを決めると、一瞬でパーツ状に分解され響の体に装着されていく。そして響はキマリスイヴィルダーに変身するのであった。

 相対する響と琴乃、響はキマリススラッシャーを生成して構えを取り、琴乃は両手の甲から五センチ程の爪を伸ばす。

 独自の武器を持った二人はすぐには動かず、互いに間合いを取り相手の動きを見る。


「すううぅ、はあぁぁ!」


 最初に動いたのは琴乃であった、息を大きく吸って吐くと、口から炎を吐き出す。


「っく」


 強化されたイヴィルダーの体を焼き尽くす程の熱を前に、響はキマリススラッシャーを盾のようにして防ぐ。しかし全身を守るようなものではないために、体の端々が焦げていく。

 響はキマリススラッシャーで炎を縦一文字に切り裂く、そして琴乃に向かって走り出すのであった。


「はあああ!」


 キマリススラッシャーを振りかざし近づいてくる響に対して、琴乃は片手の爪でキマリススラッシャーを受け止める。

 攻撃を受け止められた響は、直ぐにキマリススラッシャーを引き横に振る。しかし琴乃は爪でキマリススラッシャーを絡め取ると、足でキマリススラッシャーを蹴り上げるのであった。


「なに!?」


 あまりの事態に驚く響、そんな響の体を琴乃の爪が襲うのであった。響の胸に突き刺さる五本の爪、それは深々と響の体を貫通し根本まで入っていく。


「があああ!」


 体を襲う痛みのあまり叫ぶ響、そんな兄を前に琴乃は笑っていた。


「兄貴はずっと前からこの事を知ってたんだ、なのに私には何も言ってくれなかったんだね」


 琴乃は響の体から爪を抜こうとする、しかし爪は響の体の筋肉が締めつけて抜けなかった。


「なに?」


 爪が抜けないことに顔を傾げる琴乃、そこに響は琴乃の腕を掴むのであった。


「そりゃ言えねえよこんな危ないこと、大事な妹によお」


 琴乃は「大事な妹」と聞いて一瞬動揺する、その瞬間に響は空いた片腕で琴乃を殴る。


「俺は大切な家族を守りたくて戦っていたんだ!」


 響は悲痛な声を上げて琴乃を殴る、異形の下の素顔では涙を流していた。


「それなのに俺は、妹が苦しんでいるのにも気づけなかった!」


 響は悲しみながらも、妹を止めるために殴り続ける。それしか無いと言わんばかりに。

 しかし響の攻撃をくらっていた琴乃は、遂に響の一撃を拳で受け止める。


「琴乃!」


「そんなに苦しいのなら妾が開放してやろうか?」


 琴乃の口から琴乃の声とは違う、女の声が発せられる。すぐに琴乃ではないと判断する響、フラウロスイヴィルダーは爪を折ると距離を取るのであった。

 フラウロスイヴィルダーは妖艶な動きをすると、新たなイヴィルキーを取り出し起動させる。


〈Sitri!〉


 そして起動させたイヴィルキーを、デモンギュルテルに差し込むのであった。


「憑着」


〈Corruption!〉


 デモンギュルテルの中央部が一度閉まり、再度開かれる。そこから出てきたのは、グリフォンの翼を持った四足の豹であった。

 豹は響へ威嚇をすると、すぐにフラウロスイヴィルダーに吸収される。そしてその姿は翼の生えた豹頭の怪人、シトリーイヴィルダーへ変貌した。


「お前、誰だ!」


 シトリーイヴィルダーに変身した琴乃を睨みつけ、響は強い口調で問いただす。


「妾か? 妾の名はシトリー。六十の軍団を支配する大いなる君主よ」


『響! 君の妹はシトリーの権能で、感情を煽られたのかもしれない』


『何!?』


『かもしれないだけど、シトリーの権能は欲情。妹の家族愛を異性愛に変えることぐらい容易いはず!』


 キマリスの推理を聞いて、怒りをあらわにする響。

 事実キマリスの推測は殆ど当たっていた、琴乃はシトリーによって家族である兄への愛を、男である異性愛に変えられたのだ。さらにフラウロスによって、情欲に火を付けられたのだ。


『とりあえず一旦倒せば琴乃は開放されるよな?』


『ああ、きっとね』


 キマリスの返事を聞いて響は、落ち着いて冷静になっていく。そして地面に落ちているキマリススラッシャーを拾うと、シトリーイヴィルダーに切っ先を向けるのであった。


「お前をぶん殴って、琴乃を返してもらう!」


「できるかな?」


「できるさ、違うやるんだよ!」


 シトリーイヴィルダーの挑発に、響は不敵に笑うのであった。そして走り出すと、シトリーイヴィルダーへと距離を詰め斬りかかる。

 響の攻撃をシトリーイヴィルダーは回避するが、一歩前に出た響によって胸元にキマリススラッシャーが突き刺さる。


「ぐぅ~、いいのか大事な妹の体なんだろう?」


「なら誠心誠意謝るさ」


 嘲るように笑うシトリーイヴィルダーの言葉に、どこ吹く風と聞き流す響。そのままキマリススラッシャーを手放すと、そのままキマリススラッシャーを目掛けて飛び蹴りを放つ。

 さらに深くキマリススラッシャーの刀身が体にめり込み、そして蹴りの衝撃で地面に倒れ込むシトリーイヴィルダーであった。


「悪いが手加減する気はないぜ、シトリー!」


 響は右手の親指上げて、そのまま下に向けるジェスチャーをシトリーイヴィルダーにするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ