表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/100

オカルト研究会と魔女

 季節は夏の暑さが身にしみ始める七月、上之宮学園の生徒達も夏服に衣替え始めていた。

 そんなある日の中庭で夏服に衣替えした響は、同じく夏服に衣替えした椿から相談を受けていた。


「先輩はオカルト研究って知ってますか?」


「オカ研かー、名前と活動内容は知ってるね」


 オカルト研究会、それは上之宮学園でも悪い意味で有名なクラブである。

 ある時は有志を募って校内でサバトを実行する、文化祭では多様多種の占いを出し物として出す、時には通りすがりの生徒の前世診断と称して占うなど。悪行は様々でその結果、上之宮学園の生徒からオカルト研究会を知らぬ者は全くいなかった。


「実はクラスメイトがオカルト研究会から教わった、その……魔術にハマってしまって……」


 椿はとても申し訳無さそうに顔をうつむかせて、響に相談する。

 その内容はクラスメイトが近頃オカルト研究会から教わった秘儀として、コックリさんを何度も実行しているのだ。しかし何度もイヴィルダーを見ている椿からすると、それが恐怖しか感じないのだ。


「何度も止めて欲しいとお願いしたのですけど、でもクラスメイトの子は止めないと一点張りで……」


「なるほどわかった。でもその前に一回オカルト研究会に行って、何でコックリさんを教えたのかを聞いてみるよ」


「大丈夫ですか!?」


 響の提案を聞いた椿は、まるで死地に行く軍人を見るような目で見ていた。


「大丈夫のはずだよ、生贄とかにされない限り」


 楽観的な表情で響は答えるが、最後にポツリと不安を吐露してしまう。それを聞いた椿は、涙目になって響の胸に飛びつくのであった。


「やっぱりオカルト研究会に行くなんて、止めてください!」


「でも聞いちゃった以上、気になるしね」


 椿と密着した響は一瞬顔を赤らめるが、すぐに表情を元に戻してそう呟く。


「わかりました先輩、ご武運を祈っています」


 響と付き合いの短い椿であったが、こうなった響は恐らくどうやってもオカルト研究会に行く、と感じ取ってしまい祈ることしか出来なかった。






 響が椿から相談を受けたその日の放課後、響はオカルト研究会の部室の前にいた。

 オカルト研究会の扉の前に立つ響であったが、扉から発せられるなんとも言えないプレッシャーに圧倒され部屋に入れなかった。


(何ていうか扉の前からして怪しいな)


 オカルト研究会の扉は怪しげな紋章が描かれていたり、よくわからないドクロがかけられていて、もはや人避けのためにやってるとしか響は思えなかった。

 響が決心してオカルト研究会の扉を触れようとしたその瞬間、ギギギィーと金属音と共に扉が勝手に開いたのだ。


「うわっ!」


 イヴィルダーとの戦闘を経験した響も、流石に怪奇現象に驚いてしまう。開いた扉からは、長い髪を伸ばして目元を隠した女子生徒が顔を出した。


「本当だ……部室の扉の前に……人が居た」


 少女は響を見ると驚いた顔をする、そして響に「どうも」と軽く会釈をするのであった。


「あ、どうも。中に入っても?」


「あ、はいどうぞ」


 妙に片言で喋る二人であったが、遂に響はオカルト研究会の部室に入るのであった。

 部室に入った響を出迎えたのは、日光を通さない程に分厚い黒いカーテンに包まれた部屋だった。部屋の内装はドクロの置物やキャンドルなど怪しいインテリアが置かれており、壁には大小様々な魔法陣と大量の古書が入った本棚があった。


(うっ、すごい臭いだ)


 また部屋は香が焚かれているのか、響は臭いに一瞬顔をしかめてしまう。

 流石にしかめた顔を見せるのは失礼だと思った響は壁に視線を向けるが、視線の先には響の腰ほどの大きさの十字架、同じ大きさの仁王像、さらに響にはわからなかったが、古今東西の神話の神を模したオブジェが乗った机があった。


「よく外の人は部室の臭いに嫌な顔をされますので……」


 案内する少女は響の様子を見ると、「エヘヘ」と軽く笑いながらそう言うのであった。


(めっちゃ帰りたい!)


 部室に入って早々響は、オカルト研究会に来た事を後悔しだした。しかし今回オカルト研究会に来た理由を思い出すと、響は心の中で「平常心、平常心」と呟いて落ち着かせるのであった。

 部室の奥に案内された響は、響達に背中を向けて革製の椅子に座っている人物を見つける。


「部長、部室の前にいました」


 少女は部長と呼ぶ人物にそう告げると、そそくさと部室から退出した。


「始めまして、加藤響くん」


 椅子に座っている人物は、響の名前をよどみなく呟くと、その姿を響に見せつける。

 その姿はまるで西洋人形のような精巧な美しさと、愛らしさ、そして高校生とは思えぬ幼さを持った人物で、肩口で揃えた金髪をゆったりととたなびかせていた。


(高校生か?)


 響は部長と呼ばれた人物の外見に見とれてしまうが、すぐに目を合わせる。

 部長と呼ばれた生徒は、空いている席を指差すと「お座りになって」と言う。その指示に従って響は、椅子に座るのであった。


「私の名前は豊崎(とよさき)千歳(ちとせ)、高等部三年生でオカルト研究会で部長をしているわ」


 千歳と名乗った少女の胸元には、高等部三年生を示すリボンがあった。


「さて我がオカルト研究会に何の用事かしら?」


「高等部一年生にコックリさんを教えたって聞いた、その理由が聞きたくて」


 千歳は一瞬「うーん」と頭を傾けるが、すぐに思い出したようで笑顔になる。


「ああ、あの子ねとても悩んでいたから。私が誰でもできる魔術を教えたの」


 千歳は無邪気に笑うと、まるで高校生に小学生の勉強を教えるように言った。


「それをして害はないのか?」


「ないはずよ、きちんと私の教えた通りにすればね」


 響の質問に対して千歳は、何処吹く風と言わんばかりの態度で答えるのであった。そしてポツリと「変に誰の手も借りてなければ、ね」と小さく呟く。

 そんな千歳の態度にイライラし始めた響は、「もういい」と言って席を立つ。


「あらもう出ていくの? なら一つ教えてあげる。私の占いではあの子、今日の放課後もコックリさんするみたいよ」


 千歳は響の対応にケラケラ笑いながらも、絶対に起きる確証を持ったように言い放つ。

 それを聞いて一瞬動揺が走る響であったが、すぐに落ち着いて部室を出ていくのであった。


「フフフ、ああかっこよかった」


 一人になったオカルト研究会の部室で、千歳は頬を赤く染めて笑うのであった。その表情はまるで恋する乙女のようで、愛らしく人形のように冷たいものだった。

 そして千歳は笑顔のまま机の下の引き出しを開ける、そこには四つのイヴィルキーが置いてあった。


「さてこの子達の出番かしらね」


 クスクスと笑う千歳の影は、三つの異形で形作られていた。





 オカルト研究会の部室を出た響はすぐさま椿に電話をする、程なくして椿が電話に出る。


「椿君、例のクラスメイトだけど……」


「先輩その人なんですけど、今クラスでコックリさんをやるんだって言いだして」


「わかった、直ぐに椿君のクラスに向かう!」


(何だか嫌な予感しかしない!)


 響は電話を切ると、急いで椿のクラスへ走るのであった。




 夕日が差し込む椿のクラスでは、既にコックリさんが二人で行われようとしていた。さらに周囲には十五人程のクラスメイトが、野次馬根性丸出しでコックリさんを見ているのであった。


(どうしよう、先輩止められませんでした)


 椿はとうとう始まってしまうコックリさんを見て、心の中で響に謝っていた。


「コックリさん、コックリさん次にこのクラスにやって来る人は誰ですか?」


 コックリさんをしている少女がそう聞くと、紙の上に乗った硬貨が動き出す。


『と、し、う、え、の、お、と、こ』


「なるほど、年上の男が来るのですね」


 紙の上で動いた結果を少女は、クラスメイト全員に聞こえるように大声で発表する。

 それを聞いたクラスの野次馬達は、本当に来るかどうかでざわめきだした。


「なら俺の質問に答えてくれよ、お前の名前は?」


 そこにオカルト研究会から走って来た響が、椿のクラスに入ってくる。


「先輩!」


 響の顔を見た椿は思わず叫んでしまう、それを聞いたクラスメイト達は「占いが当たった」と騒ぎ始める。


「なんですかいきなり、そんな方法じゃコックリさんは答えては……」


 少女は「くれませんよ」と続けようとしたが、その顔は驚愕に染まる。なぜなら指で押さえているはずの硬貨が、勝手に動き出したのだ。


『が』


『み』


『じ』


『ん』


 がみじん、硬貨の軌道はそのような順番で動いた。自分が呼んだのがコックリさんだと信じていた少女は、驚きのあまり言葉出てこない。

 コックリさんに協力していたクラスメイトは、恐怖でその場から逃げようとするが、指が硬貨から離れないために逃げられない。

 野次馬をしていたクラスメイト達も何かがおかしいと気づいたのか、再びざわめき始める。


『響、ガミジンは七十二の悪魔の一体だ!』


 キマリスの助言を聞いた響はイヴィルキーを取り出そうとするが、クラスにはまだ生徒が大勢居るために変身出来ない、そのために取り出せなかった。


〈Demon Gurtel!〉


 次の瞬間コックリさんの紙の上に、イヴィルキーが空間転移してくる。それと同時に少女の腰にベルトが生成され、そして独りでにイヴィルキーが起動するのであった。


〈Gamigin!〉


 そのままガミジンのイヴィルキーは誰の手も借りずに宙を舞い、少女のデモンギュルテルに装填される。


〈Corruption!〉


 ベルトから起動音が響くと、デモンギュルテルの中央部が開き馬が現れる。そして馬は少女の周囲を回ると、パーツ状に分解して少女と融合する。

 その後に居たのは馬の意匠を持つ怪人、ガミジンイヴィルダーであった。


「うわあああぁぁぁ!」


 突如として現れたガミジンイヴィルダーを見て野次馬達は、恐怖に怯えて恐慌状態になる。


「急いで! 逃げて!」


 そんな中でも椿は、冷静にクラスメイトを避難させていた。

 教室から逃げ出すクラスメイト達、しかし一人例外がいた。コックリさんに協力していたクラスメイトである。


「おい、逃げろ!」


 響は逃げないクラスメイトを逃がそうとするが、一向に避難をしない。


「い……嫌ぁ」


 彼女は目の前のガミジンイヴィルダーを見て怯えているが、指が硬貨から離れないために逃げることが叶わなかったのだ。

 クラスメイトを逃がそうとする響を、ガミジンイヴィルダーは殴り飛ばす。そして殴られた響は、床を転がって行き壁に激突するのであった。

 ガミジンイヴィルダーは無言で新たなイヴィルキーを取り出すと、クラスメイトにそれを近づける。するとクラスメイトの腰にデモンギュルテルが生成された。


〈Demon Gurtel!〉


 勝手に腰に装着したデモンギュルテルを見て泣き出すクラスメイト、しかし無情にもイヴィルキーは勝手に起動するのであった。


〈Bune!〉


 起動したブネのイヴィルキーをガミジンイヴィルダーは、クラスメイトの腰のデモンギュルテルに無言で装填する。


「助けてぇ!」


〈Corruption!〉


 ベルトから起動音が響くと、デモンギュルテルの中央部が開き三つの首を持つドラゴンが現れる。ドラゴンは動けないクラスメイトを丸呑みすると、光とともに一体化する。

 光が消えるとそこに居たのは、全体的にドラゴンの意匠を持ち、肩から犬とグリフォンの顔が生えた、ブネイヴィルダーであった。


「Uhaaaaaaaaa!」


 ブネイヴィルダーが雄叫びを上げると、教室の窓がビリビリと振動する。

 響は立ち上がると椿の前に立つ、そして教室に他の人が居ないことを確認するとキマリスのイヴィルキーを取り出す。


「椿君、ここは俺に任せて避難して!」


「先輩、わかりました勝ってください!」


 椿は一瞬躊躇するが、すぐに決断すると響を応援して教室から避難した。

 響は椿の背中へ無言でサムズアップすると、デモンギュルテルを生成させる。


〈Demon Gurtel!〉


 響の腰へデモンギュルテルが生成されたことを確認すると、キマリスのイヴィルキーを起動させてベルトに装填する。


〈Kimaris!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 ベルトから起動音が響くと、デモンギュルテルの中央部が開きケンタウルスの騎士が現れる。そして響の前で騎士は構えると、全身がパーツに分解されて響と融合する。

 そしてその場には、キマリスイヴィルダーに変身した響が居た。

 響はキマリススラッシャーを生成して構えると、二体のイヴィルダーへ走って行くのであった。


「さぁ、やってやるぜ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ