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俺のセイケンはヌけない  作者: さんいちぜろ
9/31

9 魔族、襲来

 奴隷はこちらをみておびえている。

 いつまでもおびえているので、さすがの俺も、今回ばかりは本当にやりすぎたと反省している。

 B地区だってお家でおとなしくお留守番している。

 さて、どうやって俺になれてもらおうかね。

 そうしないとムラムラとか言ってる場合じゃないしね。

 いや、むしろ嫌がっている今だからこそ失うものは何もないのか?

 だめだ、関係が完膚なきまでに壊れる。というか、すでに壊れてはいるんだけど、どうしたもんかね。

 そういえばまだ名前も聞いてなかった。


「そういえば名前何て言うの?」


「し、シヤ……です」


 シヤというらしい。もういっそのこと単刀直入に聞いてみるのも手かもしれない。


「俺の事が怖い?」


「い、いえ……」


 怖いって顔にかいてありますね、わかります。

 そして怖さのベクトルが違いますね、わかります。


「シヤは騎士だって言ってたよね?戦闘はできるとおもって大丈夫?」


「はい。ですが、しばらく戦闘はしていなかったので、衰えてはいると思いますが」


「わかった。じゃあとりあえず装備買いに行こうか」



 俺は装備屋にやって来ていた。宿の人に場所を聞いたので、特に迷うことなくたどり着くことができた。


「ごめんくださーい」


「あ?なんだあんた」


 いかつい髭もじゃのちっこいおっさんが……ってドワーフじゃん!そのまんまドワーフじゃん!鍛冶にドワーフ!良いよ良いよ良いよ!テンション上がってきたよ!


「あんたの造った武器が欲しくてな。腕は確かなんだろ?」


 俺はあえて挑発するような言葉を混ぜた。


「あ?俺はただの店員だぞ?武器はつくってねぇ」


 え、何これ恥ずかし。「腕は確かなんだろ?」とかキメ顔で言っちゃったよ。結果これよ。

 何でさ、ドワーフじゃんさ、武器をつくってくだしゃんせ!


「なにを頭抱えてぐねぐねしとるんじゃい。気味が悪いぞ」


 武器を造らないドワーフなんて、ただのちっさいおっさんじゃん。酒好きのただのちっさいおっさんじゃん。


「いや、すまない。こいつの装備が欲しくてな、何か良いのはないか?」


 剣打~たないチビオッサンはチラリとシヤを見て「ちょっと待ってろ」と言い、何処かに行ってしまった。

 シヤは無言だ。奴隷だからだろうか、俺と会話をしたくないからだろうか。前者だと思いたい。わかってる、後者だって。


「これでどうじゃ?一通り見繕ってきた」


 見るとそこには姫騎士と呼ぶにふさわしい鎧と、両刃の剣、そして楯が用意されていた。完全にくっ殺装備だ。

 おっさんは俺の方を見て、サムズアップしている。こいつ、ただのおっさんだと思っていたが、そうじゃねえ、できる。こいつはできるやつだ。


「そういえば、まだあんたの名前を聞いてなかったな」


「シフタスローじゃ」


 俺はこいつの名前を忘れるまで忘れないだろう。



 全て購入してシヤに装備させ、装備屋を後にして、とりあえず戦っているところを見せてもらおうと思い、街の外に来ている。

 やはり近くに現れるのはスライムのようだ。とりあえずスライムと戦ってもらう。


「はあ!」


 シヤの振るう剣でスライムの核が破壊され、液体が飛び散る。


「きゃっ!」


 騎士様とは思えないようなかわいらしい悲鳴をあげたので、そちらに視線を向けてみれば、なんとスライムの粘液が顔にかかっている。

 きっと(こんなスライムごときで不覚を!)とか思ってるんだろうけど、その悔しそうな顔が粘液だらけになってるのって、なんかエロい。もうくっ殺そのものなのよ。

 そして俺はこの時、この奴隷を選んで正解だったと確信する。なんと溜まっていくのだ。何がとは言わない。察してほしい。


 どれくらいムラムラしただろうか。違う、スライムを倒しただろうか。辺りは粘液の残骸があり、スライムの姿も見えなくなってしまった。シヤはドロドロに汚されている。

 汚されたシヤを汚れた心の俺が見ていると、そこに影が差した。

 上を見ると、なんか蝙蝠みたいな羽根を生やしたマッチョがこっちを見ている。


「人間め。貴様らは運が悪かったな。この俺様に出会ってしまった」


 なんか俺様とかいう頭叩いたらいい音なりそうなやつがいきなり俺の運の悪さを指摘してきた。

 いや、ここまでの展開考えると、俺って結構運がいい方じゃね?とは思うものの、まだこうもりマッチョの話は続きそうなので、とりあえず


「ナイスバルク!」


「むぅん!」


 ふ、フロント・ダブル・バイセップスだと!?正面から見える上腕二頭筋がとんでもねえことになってやがる……!!


「むぅぅぅん!!」


 な!?フロント・ラット・スプレッドだと!?


「むぅぅぅぅぅぅん!!」


 いや、もういいよ。もうお腹いっぱいだよ。なんだよこいつ。お前の言うとおりだよ。運悪いと思えてきたわほんと。


「どうだ?」


 何が?え、もしかして感想求めてんの?あ、ナイスバルクとか言ったのがいけなかったのか?

 とか思っていると、何やらおびえた様子でシヤが俺の服を掴んでくる。もしかしてあの筋肉だるまにおびえてるの?なにこれ、ちょっとかわいいんだけど。今まで全然なついてくれなかったネコが急にすり寄ってきた的な嬉しさがあるんだけど。惚れてまうやろぉ!!

 まあ冗談はさておき、なんかおびえ方が尋常じゃない。あいつそんなにやばい奴なんだろうか。俺と言うやばい奴にすがるほどに。


「あんた、何者なんだ?」


「むん?質問に質問で返すとは無粋なやつめ。だが良いだろう、教えてやる。吾輩は魔族である。名前はマダナイ」


 え?名前無いの?めっちゃ強キャラ感出してるのに、名前無いの?


「貴様には特別にマダナイと呼ぶことを許可しよう」


 マダナイ名前かよ!紛らわしいわ!一人称と名前が別の何かを連想させるわ!!あ、この世界では違うのかな?


「吾輩は魔王が配下12将の1人。ある者が勇者が召喚されたという情報を掴んできたのでな、確認のためにやってきたのである。隙あらば育つ前に首を取っておこうかと思ってな」


 勇者?もしかして俺のことか?いや、勇者が召喚されたという情報を掴んできたと言っていた。つまり、部下無いし、同僚、あるいは協力者といったあたりから情報をもらったと考えるべきだろう。

 俺が勇者という情報等どこにもない……いや、ある意味変態的行動をとりすぎてある一定の者達からそう呼ばれている可能性はあるか……?だが、その場合はティクビンティウスが妥当だろう。

 ならやはり考えられる可能性は、俺とは別の者。つまり本当に勇者と呼ばれる存在がこの世界にはいる。

 ということは俺がそうではないことを示せば、ここは荒事にならずに済むかもしれない。シヤもいるしな。


「だが、貴様は我々の計画を知ってしまった。生きて返すわけにはいかん」


 ねえ俺の必死の考察返して。自分から一方的に情報喋ってきたくせに。別に知りたくもない情報を教えた対価として命を要求とか、腹話術のあの人も声が遅れるどころか言葉をなくすってーの。


「というわけで良い掛け声であったが、貴様には死――」


 俺は剣を抜き放ち、48の性技に必殺技の1つを使用する。


「首引き恋慕」


 俺の体が俺の者じゃないような動きを見せ、一瞬でマダナイの後ろに回り込み、剣を一閃。

 それをマダナイは避けたのだが、首にワイヤーのようなものが巻き付いている。その先を見ると、あれ?俺が左手に掴んでる?い、いつの間に……。

 そして俺がその左手を、勢いよく引き、マダナイの首を刎ねた。

 プツンッという肉を縛り切る感触が手に伝わってくる。殺した。俺が。


「まさか……勇者……」


 驚愕したマダナイと、俺の目があった気がした。その目から光が失われていく瞬間を見てしまった。

 生々しい光景に、そしてそれを自分が引き起こしたのだという事実に、俺はたまらず――


「うおおえええええええええええええええええええ」


 ――吐いた。



 意識がはっきりしてくると、俺は天井を見ていた。辺りを見回してみると、宿屋だとわかった。

 ここに戻ってくるまでの記憶がない。衝撃的だった。スライムは生き物を殺しているという感覚が薄かった。だから倒してもなんとも思わなかった。

 だが、人と同じ姿かたちをした者、それも会話の通じる相手を、この手にかけた。

 今も少し気を抜くと、肉を断つ感触がよみがえり、戻しそうになる。


「ご主人様……」


 シヤが心配そうにこちらを見ている。ここまで俺を連れてきてくれたのは彼女だろうか。

 しかし、そんな彼女の心配を取り除いてやろうなどと考えられる余裕が今の俺にはない。


「勇者は」


「はい?」


「勇者は魔王を倒すように言われているのか?」


 俺は何か気がまぎれる話がしたかったはずなのに、問いかけたのはそんなことだった。


「そうですね。魔王を討伐するために、勇者はもたらされると聞きます」


「勇者は、あんなことを、強要されるのか、世界に」


 心の底から勇者でなくてよかったと思った。こんなことを強要されたら、俺は絶対に逃げ出す。

 人どころか動物も殺したことがないような俺が、耐えられるとは思えない。

 いや、もしかしたら慣れていくのかもしれない。慣れていってしまうのかもしれない。だが、そうなりたくない。人間として大切な何かを失ってしまうような、そんな気がする。

 色々並べ立てたって怖いだけだって言うのはわかってる。でも怖いと思うのはいけないことか?

 ためらうのはいけないだろう。きっとためらいは自分を殺すことになる。この世界では特に。

 でも、俺はどうしても殺しを怖いと思ってしまう。人の命を散らすことに慣れてしまったものを、本当に人間と呼べるのだろうか。


「ご主人様!」


 あたたかな感触に包まれる。とても、安心する。

 見ればシヤが俺を抱きしめてくれていた。きっとグジグジしている俺を見ていられなかったのだろう。

 いつもの俺ならきっと馬鹿みたいに喜んでいたことのはずだが、今はとても安心するそのぬくもりに、ただ身をゆだねて眠ってしまいたいと思った。

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