7 犯人はあなただ
色々心配していたけど、結局何の心配もなかった王都までの旅。俺の出番はありませんでした。
そりゃもう優雅なもんでしたよ。馬車が揺れるからお尻は痛いし、揺れ揺れだから、ちょっとだけ愛があふれちゃったりもしたけどね。馬車には出してないよ?閉じた空間でそんなことしたら、愛のお返しが来ちゃうからね。馬車の車窓から投下しましたとも。
さて、そんなこんなで王都までついた俺は、今、なぜか殺人現場に出くわしていた。
王都にはついていたのだが、既に夜も遅かったため、とりあえず近場のロイヤルな宿で1泊することになった。そんな宿屋でその状態である。
行く先で殺人が起こるなんて、まるで自称名探偵の小学生にでもなった気分だ。
「クレソンさん!クレソンさん!!」
メイドの1人に体をゆすられているのは、執事のクレソンだ。彼はつい先ほど体から血を流して倒れているのが発見された。
クレソンの体に触れてみるが、まだ温かかった。殺害されたばかりだ。
第1発見者はキャメロミット・ロマノン・ポンドリデンデ・ピッポヌンソ・タルマン・ボリヤージュ・ネンネンコロリと言う名前のメイドで、そのメイドが今の状態ってわけである。
うん、わかる。クレソンの状態より気になるよね。
――なにそのクソ長い名前――
キャメロット・ロマノン・ボンドリデンデ・ピッポヌンソ・タルマン・ボリヤージュ・ネンネンコロリは、山奥の集落の生まれらしく、その集落では親の名前を受け継いでいくものらしい。
つまり7代目ネンネンコロリのキャメロットさんである。意味が分からない。というか親の名前ってどっちからとってんだよ。
話がそれてしまったが、今はクレソンさんのことだ。
どうやらクレソンさんは自室で殺害されていたようで、その部屋に行ったものは誰もいないとのことだった。
今現場にいるのは俺、王女様、護衛5人、王女の世話役1人、そしてキャメ……長い奴である。
他の従業員は既に帰っていて、それがクレソンに会う前だったたから、今ここにいる人間全員が容疑者だ。
まあ俺じゃないんだけどね。
1人ずつアリバイを聞いてみたところ、
王女様はメイドの声に気付くまで自室にいた。それを証言できるのは王女の世話役がいる。
2人が2人ともお互いが一緒にいたことを証言している。
更には護衛の5人。こいつらは2人が女性であり、その2人が王女の部屋の前で護衛をしていた。
そしてその2人もお互いがそこを動いていないと証言し、王女が出てきたときにも部屋の前にいたということらしい。
そして他の護衛3人だが、これには俺からすれば完全なアリバイがある。
この男の護衛3人は俺の部屋で猥談をしていた。こいつらはやっていない。いや、ある意味でやっちゃいけないことをやっているが、こいつらはこの事件に関係ない。王女様のかがんだ時に見える山頂がどうとか、そんな不敬なことを考える護衛だったとしても、今回の事件には関係ない。
そして長い奴。こいつはクレソンと話していたらしい。いや、お前確定じゃん。クレソンさんの部屋本棚で窓ふさがってるし。
「そういえば、そのメイドが執事の部屋に入っていくのは見ましたね。物音がしてからそのメイドのクレソンを呼ぶ叫び声が聞こえてきました」
え、確定で良いでしょ?もうこれ確定でいいでしょ?
「犯人が分かりましたよ」
俺が行ってみたかったセリフを放ち、もうあいつで良いよねの気分で迷推理を始める。
「犯人は……メイドさん、あなただ!」
「そんな!私はやってません!」
「いえ、証拠があるんですよ」
「え?そんな、嘘よ!証拠何てあるはずないわ!」
いや、待って、まだそんなこと言わないでよ。それほぼほぼ自分が犯人だって言ってんじゃん。
「その証拠は……あなたのメイド服についている返り血と、その背中に隠した手に持っている血だらけの短剣ですよ!」
「そ、そんな……なぜ、わかったのですか……」
いや普通にさっき気づいたみたいに背中に隠したじゃん。え、これもしかして俺が馬鹿にされてんの?
「迷探偵にかかればそれくらいは当然ですよ」
「あの人が……あの人がいけないんです……私の……私のプリンを勝手に食べたから!!」
クレソン命軽すぎない?死因がプリン強奪による怒りを買ったための刺殺?嘘でしょ?
何それ、マジ?プリン見つけたの俺だったら殺されてたの俺だったかもしれないじゃん……。
キャメロット・ロマノン・ボンドリデンデ・ピッポヌンソ・タルマン・ボリヤージュ・ネンネンコロリは食べかけのプリンののった皿を握りしめ、涙を流している。
すごい、目の前で涙を流している人がいるのに、ここまで心になにも来ないのは逆にすごい。
こうしてキャメロット・ロマノン・ボンドリデンデ・ピッポヌンソ・タルマン・ボリヤージュ・ネンネンコロリは王女様の護衛にとらえられ、然るべき場所へと連行されていった。