3 白き聖域に魅入られし男
勢いで外に来てスライムを倒したが、結局何も残らなかった。
定番どころとして、核みたいなやつをもって帰ればいいかなーとかえてたけど、何も残らなかった。
どうしたもんかね。お金ないと今日寝る場所も確保できないよな。
そもそももって帰ったところで売れるかどうかすらわからないんだけど。
最悪、なんか装備売って金稼げばいいかな。あんまり売りたくないけど。
「先ずは情報収集でもしますかね」
まあいいや、とりあえず町に戻ろ。
町に戻ってきたはいいが、結局何をすればお金を稼げるのか聞ける人が誰なのかわからない。
「誰か助けてくれぇーーー!!!」
「どうかしたんですか?」
以外にも救いの声は俺のすぐ近くから聞こえた。
声のした方を見てみると、可愛い系の女性が俺を心配そうに見ている。
天使ちゃんや。物凄く優しそうな天使ちゃんがおる。
というかこの状況で話しかけてくれるなんて天使ちゃんに違いない。うん、そうに違いない。
「天使ですか?」
「え?天使?え?」
天使ちゃんが混乱している。まずい紳士的なふるまいをしなければ。
「すみませんお嬢さん。少々取り乱してしまいました。もしよろしければ、少々助けていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はぁ。私に協力できることであれば、はい」
天使ちゃんは協力してくれると言ってくれた。やはり天使。
「実はね……」
もう紳士的振る舞い無理。と思った俺は最低野郎だとわかりつつ、さっきの話し方は終わらせて、天使ちゃんに今の状況を話してみる。
「というわけなのよ。あ、自己紹介まだだったね、俺は―――」
「くーたーばーれえええええええええええええええ!!!!」
俺は自分に向かって突進してくる女がいることに気づいた。
その女はあろうことか、いきなり俺に向かって飛び蹴りを放ってきた。スカートで。
全神経を集中し、その蹴りを見極める。
見切った!白!!
ドゴッ!!
痛い。めっちゃ痛い。もろに食らった蹴りってこんなに痛いんですね。
ズザアアアアアアアアアアアッ
腹が痛いと思ってたら地面を滑る音が聞こえて、空を見ていた。
ソフトクリームみたいな雲があるなーとかのんきなことを考えているが、そうじゃない。
今大事なのはそんなことじゃない。さっき見た白いもののことだろう。
ここは異世界なのに、日本と同じようなものをはいていた。
露出過多な女性の多い天国のような場所だと思っていたが、まさか下着が日本の知識のそれと同じものだなんて思っていなかった。
それはもうふんどしか何かをつけているんじゃないかくらいの想像をしていた。もちろんそれはそれで良いと思えるのが俺という変態なのだが。
しかし、どんなに興奮しても、今の俺には生殺しでしかない。この世界、怖い。
「いてえ」
俺はそう言って蹴られた腹を抑えながら立ち上がる。
「あんた!アンジェに何してんのよ!!」
はて、アンジェとは誰だろうか。まあ見当はつくんだが。
「何って、触れたんだ(彼女の優しさに)、初めてでわからなかったんだけど(この世界が)、出ちゃったから(変態っぽさが)、もう一度ちゃんとしようと思って(自己紹介を)」
「ほろびろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
また蹴りを入れてくるその女。
だが俺だってさっきは大したことができなかった。
今回は本気でいかせてもらおうと思う。
全ての動きを見切る。白。その動きに全身全霊を捧げる。
女の足は俺の頭上を通り過ぎていき、目の前で足の動きに合わせて踊る白、白、白。
小さなリボンの飾りのついたそれは、フリルのついた部分を風に―――-
ドゴッ!!
ズザアアアアアアアアアアアッ
ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!
「やめっいたっごめっひえっ」
蹴ると音の出る楽器のように何度もリズミカルに蹴られる俺。
俺はいい音を奏でられているのだろうか?いたっ
そんな思考いたっもうまくできいたっない感じにいたっ
――――――――――――――――――――
「あんたが紛らわしいこと言うからいけないんでしょ!!」
事の成り行きを説明した俺に対して、被疑者は自分は悪くないと、堂々と宣言している。
正直、今回のことは俺は悪くないと思っている。なんせ本当に何もしてないんだから。うん、何も。
ちょっと蹴られる時に、軌跡の欠片が舞い降りただけなんだ。そうだ、うん。
「カロリーヌちゃん、この人最低だね」
あれ?おかしいな。アンジェと呼ばれていた天使が俺の擁護をしてくれない。むしろ、ゴミ捨て場のカラスにつつかれて中身ぶちまけられてるゴミを見るような目で俺のことを見てくる。
俺何かしたっけな。あ、そういえば聞いたことがある。女性は男性の視線に、男性が思っている以上に敏感だと。
まさか、俺のが白を見ていたことに気づいてしまったのだろうか。でも、その視線、ご褒美です。ありがとうございます。
「ぱん!2!まる!みえ!」
ドゴッ!!
俺が意識を手放す前に見たのは、やはり白だった。