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俺のセイケンはヌけない  作者: さんいちぜろ
26/31

26 盛る変態

「お疲れ様です。孤児院からの依頼を受けてくださってありがとうございます」


 冒険者ギルドの受付のお姉さんからお礼を言われた。


「まあシヤパパ見つかるまでは依頼受けるくらいしかやることないしね」


「シヤさん達と会話でも楽しめば良いんじゃないですか?」


「俺が?シヤ達と?冗談だろ?この変態の俺と会話を楽しめるのなんて、同じく変態であるお姉さんくらいのもんだろ?」


「私をあなたと同じ枠に入れないでください!」


 お姉さんお怒りのご様子。別にいいじゃない、変態だって。変態だもの。


「とにかく、依頼完了の報告、承りましたので」


「どうも」



 冒険者ギルドを後にした俺は、シヤとシヤママを誘って孤児院まで来た。

 フォレストバッファローは解体されてお肉になっている。もともとお肉だったんだけど、完全に解体されて、よく見るお肉になっている。


「あ、お待ちしてました。もう準備できますので、もう少しお待ちください」


「いえいえおかまいなく」


 もうこれだけ準備していれば、院長にばれているんじゃないかと思ったのだが、今院長は出かけているため、帰ってくるまでに準備を終わらせるつもりらしい。


「それなら、俺達も何か手伝うよ。いいよね?」


「私は全然かまいません。そもそもいきなり誘われて何をするのかわかっていないのですが……」


「私もシヤと同じくですね」


 そういえばなんで誘ったのか言ってなかった。完全に自分だけバイソン食うつもりでいたわ。


「実は今日孤児院からの依頼を冒険者ギルドで受けてさ、フォレストバイソン狩ってきたから一緒に食べないかって誘われてさ、2人を連れてきた行って言ったら良いって言うから一緒にと思って」


「そういうことだったんですね。私は何もしていないのにいただいてしまって良いのでしょうか?」


「そういう気持ちがあるなら、少しでも手伝ったほうが気もまぎれるんじゃないかと思って。で、手伝う?」


「そうさせてもらいます」


「もちろん私もシヤと一緒にてつだわせてもらいます」


 ということで院長が帰ってくるまでに準備を終わらせるために、俺達も手伝うことにした。


 準備が整い、あとは肉を焼いて出すだけの状態になったところでちょうど院長が帰ってきた。


「「「いんちょーせんせーおかえりー」」」


 子供たちが院長を迎えてそこに俺も加わる。


「いんちょーせんせーおかえりー」


「あらあら、これは大きな子供が増えましたねぇ」


 院長さんはノリの良い感じの人らしい。


「歯を食いしばりなさい、今すぐに目を覚まさせてあげますからね」


 ノリが良いわけではなかったらしい。割とバイオレンスな人だった。


 頬にはたかれた後をつけた俺はもともと正気だったが正気に戻ったことにしてフォレストバイソンの肉を楽しみながら、子供たちに盛りに盛った武勇伝を話していた。


「これは今お前たちが食べているフォレストバイソンというお肉と戦った時の話しだ。こいつは相当手ごわくてな。戦う前に俺に話しかけてきたんだ『この俺様に歯向かう馬鹿がいるとはな。俺様直々に地獄を見せてやろう』ってな」


 子供たちは俺が話始めると静かに聞いている。


「そこで俺は言ってやったんだ『お前が俺に地獄を見せるだと?違うな、お前が俺に与えるのは美味しい食事だ。材料は黙って調理されてれば良い』ってな」


 子供たちは自分が食べている肉を見ていた。多分「この肉がそんなことを言っていたのか」とでも思っているのだろう。


「そして俺とフォレストバイソンとの死闘が始まった。フォレストバイソンは凶悪な角が生えていてな、その角を使って攻撃をしてくる。そして俺は剣を使ってその角をさばきながら戦った。息をする暇もないような連撃を、何度も何度も剣で弾いた。失敗したら重症だ、だから俺は必死に弾き続けた。相手だって負けたくないからこっちを本気で攻撃してくる。森の中での戦いだったんだが、その戦いの間、森の中に響いていたのは俺とフォレストバイソンの剣と角がぶつかり合う音だけだったかもしれない。いや、そう思うくらいに俺はフォレストバイソンとの戦いに集中していたんだ」


 子供たちがわくわくと目を輝かせて話を聞いている。話してるこちらもだんだんと楽しくなってきてしまう。


「ブンモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 突然の奇声に話を聞いていなかった人たちが何事かとこちらを向いてくる。しかしそれに構わず、俺は話を続ける。


「叫ぶフォレストバイソンに一瞬驚いたが、それでもまだ俺とフォレストバイソンは剣と角での攻撃を続ける。そしてやつは必殺技を繰り出してきた」


 野生の魔物が必殺技など持っているはずがないが、そんなことはお構いなしで話を盛りまくる俺。


「スペシャルサイクロンバイソンホオオオオオオオオン!!」


 再びの奇声にまたしてもこちらを向く周りの人たち。


「俺はその必殺技を真正面から受けた。逃げたら負けだと思ったからだ。相手の必殺技を正面から受けるために、こっちも必殺技を出すことにした」


 俺は大きく息を吸い込んでまた大声を出す。


「超必殺!超最強瞬間究極斬敵剣!!」


 周りの反応は両極端だった。叫ばれた必殺技の名前に無邪気に喜ぶ子供達。そしてクソみたいな必殺技の名前に「いや、それはないだろう」という顔をする純粋な心を失った者達。

 大人ってのは知識を手に入れるために、純粋さを対価にしてるんだろうな。


「ぶつかり合う必殺技と必殺技。互いに自身の全てをかけたその一撃は、轟音を周囲に響かせて、その衝撃は周囲の木々を揺らした。そして、森が静かになった時、そこに立っていたのは、そう、ここに俺がいるんだからわかるだろ?勝ったのは俺だった」


「「「すげえええええええー!!」」」


 俺の盛りに盛ったフォレストバイソン討伐の話を聞いて純粋に喜ぶ子供達。

 俺の盛りに盛ったフォレストバイソン討伐の話に聞き耳を立てて、こいつやりやがったって顔をしてこちらを見ている純粋さから遠ざかって行った者達。

 そして子供たちにもみくちゃにされる俺。


「ふはは!フォレストバイソンを倒した俺様を貴様らに倒すことができるかな?」


「「「ぶったおせー!」」」


 こうして俺は肉を楽しみつつ、子供たちに討伐されるのだった。



「お疲れ様です、ご主人様」


 子供たちに討伐された俺は、現在パンイチに剣を装備している状態である。

 討伐報酬としてそれ以外のものは持っていかれた。

 辺りは既に暗くなっていた。


「今夜は冷えるね」


「いえ、たぶんパンイチだからだと思います」


 周りにはそんなに人がいない。それでも全くいないわけではないので、奴隷を従えるパンイチが通るとこちらを見るものがいるが、それが俺だとわかると「あ、あいつか」という感じで納得した顔をして興味をなくす。


「俺の服まだあったっけ?」


「いえ、もうパンツしか残っていなかったと思います」


「そんな状況で私に生活用品を買ってくれていたのですか?まずはご自分の必要なものをそろえたほうが良いのでは?」


 シヤママにごもっともなことを言われてしまったので、今度買いに行くことにする。

 もちろん服がないから服を買いに行くわけなので、パンイチで。


「しかし、この姿にもなれたもんだよな」


「いえ、できれば慣れないでください。私のご主人様が変態なのは半ばあきらめてはいますが、できれば常識を持っていただきたいとは常々思っております」


「やだなあ褒めても出せるのはもう一か所しかないよ?」


「褒めていると思えるその思考回路がどうかしていますし、パンツに手をかけるのはやめてください」


「どうだい?今度俺とデートでも」


「夢の中で勝手にしてください」


「そう?じゃあ今夜」


 俺達はそんな馬鹿なやり取りをしながら宿屋に帰った。

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