25 断末魔の叫び
王女様に龍の報告をしてから、王様に呼び出されて褒美をもらった。
王女様が王様に伝えておくと言っていた通り、普通にお金をくれた。大金貨で
なんか「あのままにしておけば少なくない被害が出ていただろう」とか「そもそも龍を相手にできる実力者がどれだけいるだろうか」とか最もらしい理由をつけていた。
まあ龍を退けたって話を聞いて、貴族として自国に縛っておくべきではないかって話をする貴族もいたみたいなんだけど、それは丁重にお断りしてくれたらしい。
褒美の話よりも、そこをどうにかする方が大変だったみたいだけど、正直それをされると、シヤの親探しができなくなるから、もらうとしても、親を探し終えた後にしてもらいたい。
そもそも、もらいたいわけではないんだけど。
そんな感じで王様からの褒美は終わった。
龍も普通におとなしくしているらしい。そもそも暴れたいとか思うようなタイプでもなさそうだったし、そこはあんまり心配してなかったんだけど。
シヤは毎日父親の情報のチェックをしに冒険者ギルドに行っている。
まあまだ俺達はアポクリにいるので、結果はお察しである。
シヤママも今は一緒に生活している。
奴隷から解放されたが、生活できるだけのお金もなければ、もともと騎士の家系の嫁いだ人なので、礼儀作法に関しては身についているが、自身でお金を稼ぐすべを持っているわけでもない。
それに戦闘に関しても素人同然なので、冒険者として一緒に行動するのも難しい。
かといってシヤパパを探しているため、ここアポクリで定職を探してしまうということもできない。シヤパパを見つけてからどうするかが決まっていないからな。
さて、そんな俺が今何をしているかと言うと、孤児院に来ていた。変態である俺がこんなところに来てしまっていいのだろうかと思うが、仕方ない。冒険者として依頼を受けに来たのだ。
孤児院には親を亡くした子供が集まっているらしい。そこには院長と、もともと孤児だった子供が成長し、冒険者として活動して得たお金を孤児院に入れて、自身も孤児院で暮らしているという者が4人程いるらしい。
そして、そんな孤児院からの依頼は、お世話になっている院長にお返しがしたいという可愛らしいものだった。
依頼のランクはもちろん高くない。しかし、孤児院の子供が依頼を出したものであるため、依頼を受けてもお金にはならない。
そのため、受けようと考える冒険者はいないのだそうだ。そう、俺のような変態的行動をするような紳士以外には。
もちろん冒険者ギルドの受付のお姉さんに受けてほしいなって感じのことは言われたので、それがきっかけではあるけれど、お金に余裕がある今は別に受けてもいいかなと二つ返事で受けた。
そして孤児院に行くために、俺はまず必要になるものを狩っていた。
依頼の内容である、お肉をお腹いっぱい食べさせてあげたいという依頼を完遂するためだ。
「しかし、こんな近くにそんな魔物がいる場所があったとは」
アポクリの近くの森に、フォレストバイソンという魔物がいるらしく、そこに行ってみると、バイソンと言う言葉から想像した通りの感じの魔物がいた。
この魔物は肉がおいしいらしいが、狩ろうとすると抵抗が激しく、倒すのが結構大変らしい。
食用として確保する依頼がいくつかあるそうなのだが、そこまで高額ではなく、一人で狩るとなると結構しんどいため、パーティで狩るらしいのだが、依頼完了の代金を分配するにしてはそう高いものではない。
そのため、市場に出回ることが結構少ないのだとか。
そして、今俺の前に、そのフォレストバッファローがいる。
「さて、じゃあいっちょやりますかね」
俺は愛剣の珍包を抜き放ち、柄をこする。
「下一刀流、刈首!!」
この技は下一刀流の技の中で、首を刈り取ることに特化した技である。
技名が付いているが、やっていることは首に向かって剣を振っているだけである。
しかし、下一刀流は腰の動きを攻撃に加えるため、基本的に振り下ろしを得意としていない。
もちろん武器の自重を利用した振り下ろしが普通に考えれば強いのだろうが、下一刀流では腰の突き出しによる下段からの斬り上げが基本となっている。以前使用した双頭弧も、攻撃としては上段から始まってはいるが、本命は下からの斬り上げだ。
そして、その下からの斬り上げで首を刈にいく技が刈首である。
「ブンモオオオオオオオオオオオオオ!!」
自分が首を切断されたことにも気づいていないフォレストバイソンは、俺が代わりに再現した断末魔の叫びと共に、その命を散らした。
後は受付で教わってきた首の部分を下にした状態でつるして血抜きをし、お肉を持って帰れば依頼完了である。
運ぶために滑車も借りてきている。まあ木製の滑車なので、使いにくい。特に森の中で使うのは本当にしんどい。でもないよりはマシという感じ。
ようやくたどり着いた孤児院。孤児達(冒険者をやってる元孤児も)に狩ってきたフォレストバッファローを渡して依頼完了。
「あなたも一緒に食べていきませんか?流石にこの量を僕たちだけでは食べきれないと思うので」
元孤児の子がそう言ってくれた。冒険者としては若い方で、元の世界で言うと高校生くらいだろうか。
「それはありがたい。ぜひ一緒させてほしい。とりあえず、冒険者ギルドに依頼完了の報告をしてこようと思ってるんだが、その後に、二人ほど連れてきたい人がいるんだけどいいかな?」
「ええ、報酬も大したものではありませんし、それくらいでお返しになるのであれば、是非」
できた子である。冒険者は丁寧な口調が得意なものが少ないため、こうした口調で話せるのはきっとこの孤児院で学んできたことなのだろう。
「ありがとう。それじゃちょっと行ってくるわ」