23 おれ は こんらん している
シヤママであるアルナと一緒に行動するようになってから何日かたっていた。
アルナの件で王女様に困ったときに助けると言った俺は、現在王女様に呼び出されていた。
「実はあなたにお願いがありまして、今日は呼び出させて頂きました」
「お願い、ですか」
まあ断れるようなものじゃないんだろうな。
お世話になってるし基本的に断るつもりはないんだけどさ。
「実はこの近辺に強力な魔物が出たとの報告がありまして、その魔物を討伐していただきたいのです」
強力な魔物が出たのはわかるんだけど、なんで俺?
「なぜ、私なんでしょうか?凄腕の冒険者にお願いする方が良いのではないでしょうか?」
「実は、高ランクの冒険者には別件で動いていただいていまして、その魔物を倒せる実力のある方が残っていないのです。ですので、低ランクではありますが、実力のあるあなたにお願いしようと思ったのです」
高ランク冒険者が少ないのか、別件が多いのか、出現した魔物が強いのかわからないけど、お願い使ってまで俺に言ってくるあたり、結構まずい状況なのかね?
「わかりました。正直倒せるかどうかわかりませんけど、とりあえずやってみます」
「倒せるのが良いとは思いますが、もちろん実力が及ばないと思った場合は撤退していただいて結構です。その場合は、できれば少しでも多く情報を頂きたいですが」
なるほど、死んでも倒せってことじゃないのか。じゃあ逃げようと思ったら逃げられるように準備しとけばいいか。
「では、勝てそうになければ全力で逃走させてもらいます」
「ええ、それで大丈夫です」
というわけでやって参りました魔物退治。さてさてどんな魔物が出るんでしょうか?
うっそうと茂る木々の隙間を抜け、どんどんと進んで行く俺。
この先に待っているのは俺に倒せる魔物なんだろうか。
そんな風にちょっとした探検気分で進んでいた俺をぶん殴ってやりたい。
『ほう、貴様、単独でこの我に戦いを挑もうとは、よほどの強者か、それとも、よほどの愚か者か』
頭に直接語り掛けてくる相手は、俺も知識としてはかなり存じ上げている存在だった。
実際には見たことないけど、知っている人は多いだろうその存在は、そう、ドラゴンである。
マジでどうしよう、これさ、ドラゴンって普通にどこでも強キャラじゃね?やばくね?
『まあどちらでも良いか、ここにきてしまった自分自身を恨むのだな』
口をぱっかり開けてこちらに向けるドラゴン。もうどうしたらいいのかわからない。
正直焦り過ぎて正常な思考ができない。わけもわからず自分を攻撃した。
「デュクシ!!」
俺は効果音付きで自分を攻撃している。というか何しようとしてたんだっけ?あれ、ここにきてしまった自分自身を恨むべきなんだっけ?
「デュクシ!!」
なんだろう、思考がふわふわしてきた。なんかハートドキドキ?
クソ、もっとちゃんと働けよ俺の脳細胞!!
「デュクシ!!」
俺は目の前が真っ暗になった。
唐突に目を覚ました。そして見回しても見知らない場所に、見知らない場所だ。それになんかドラゴンがこっち見てる。こっち見んな。
『目を覚ましたか。今まで我のところに来た人間と行動が違いすぎて、幻術か何かにかけられているのかと思ったが、その気配も感じぬし何かを仕掛けられるということもなく、何が起こっているのかわけがわからなかったぞ。まるで目の前で自分の理解できない超常現象が起きているかのような気分になったぞ』
なんか頭に直接話し声が……ってあれ?なんかデジャビュ?俺なんでここにいるんだっけ?
確か王女様に魔物の退治を頼まれて、そんで森の中を進んで龍さんに出会って、あ。
「デュ――」
「やめぬか!!」
なんと自分を殴ろうとしていた俺の手を、誰かに掴まれていた。
見てみると、そこにはかっこいいお兄さんがいた。
「さっきから何なのだ貴様は!?なぜ我が止める立場になっておるのだ!?わけがわからぬ!!」
なんかお兄さんが大変そうだ。
「大丈夫か?」
「それは貴様の頭の心配か!?そうであろう!?」
なんだこの人、失礼だな。俺の頭は心配できる領域をとっくに逸脱しているっていうのに。
「というか誰ですか?」
なんか龍もいなくなってるし、なんで急に知らないお兄さんに俺の自傷行為を止められないといけないんだろうか?というかなんで俺は自傷行為をしているんだろうか?あれ?なんかわけわからなくなってきた。
「わけもわからず自分をデュク――」
「だからやめよと言うておるだろうが!!今その混乱を解いてやる」
また止められてしまった。
なんか温かい光に包まれてる。
お?思考がまとまってきたぞ?そうだ、ある日、森の中、龍さんに、出会った。
龍さんどこいったよおい。
「貴様は我の力の前に混乱しておったのだ。それを魔法で回復した」
「魔法?」
魔法と言っただろうか?このお兄さん魔法と言ったのか?
「おい貴様、その反応、まさか魔法を使えぬのか?」
「たぶん」
「魔法も使えぬのにここに来たのか?自殺が目的か?」
「いや、この辺に出た魔物を倒すために」
「その魔物がこの我であり、龍なのだぞ?」
「いや、そんな話聞いてなかったし。無理なら逃げていいって言われてたし。ていうかお兄さんが龍?」
いきなり色々情報が入ってきて辛い。目の前のお兄さんが龍でした。なんだよそれ。
「俺に倒されてください!なんなら脱ぎますから!」
「倒されるわけないであろう!!それに脱がんで良いわ!!たわけが!!」
というか普通に会話できるんだね。よく考えたらこれ別に倒す必要ないんじゃないか?
「1つ聞きたいことがあるんだが、なんでここに住み着いたんだ?」
「今までいた場所にやたらと人間が戦いを挑んでくるようになっての。基本的に寝てる時に奇襲を仕掛けてくるのだ。めんどくさいから別の場所に移動したのだ。移動した先がたまたまここであっただけだ」
なるほど。でも移動してきていきなり邪魔なので退いてくれってのもいただけないよな。
というか人間の姿になれるんだったら、人間として暮らせばいいんじゃないかね?
「今人間の姿になってるよな?その姿はずっと維持できるものなのか?」
「人化か?魔力は減るが、自然に回復する量を上回るほどではない故、ずっとこの状態でいることもできるが、それがどうした?」
「いや、人間の姿になれるなら、人間として生活したほうが楽なんじゃないかと思ってな。龍としてのスペックがあるなら、人間基準の世界で生きるのって相当楽なんじゃないかと思ったんだが……」
「そうしようとしたこともあったのだがな、金というものを払わなければ食事ができないということを食事をした後に知ってな。そのまま閉じ込められてしもうてな。逃げたしてそれきりじゃ」
つまり、お金関係が何とかなれば別に人間の世界で暮らすのもやぶさかではないってことだよな。自分でそうしてみようと考えるくらいには。
むしろ、これ国としてはかなり欲しい戦力になるんじゃないだろうか。
ご飯あげとけば、いざという時に戦力になってくれるだろうし、しかもその強さも一級品だし。
王女様相談案件かな?
「じゃあもし毎日ご飯食べられて、困ってるときに力を貸してくれっていわれるくらいの環境だったら住みたいと思う?」
「できるのか?」
「できると思う。というかこのままここにいても、また人間が襲ってくるようになるのも時間の問題だと思うし。俺もその一人なわけだし」
「どうするのだ?」
「人間の姿で人間の国に住めば良いよ。いざという時に力を貸してくれるような存在が欲しいと思って良そうなところに心当たりがあるから、そこに紹介するよ」
「ふむ、人間の手引きがあれば、人間の世界に溶け込むのも簡単であるということか」
「そういうこと。どうかな?」
まあもし嫌だって言われても、相手が龍だったことと、こっちから手出ししなければ害はなさそうなことを話せばほっといてくれるだろ。
「そうであるな。まあ面倒ごとがどの程度あるかにもよるところではあるが、その時は逃げ出せば良いだけであるしな。特にそんな話でもなさそうであるな」
「じゃあ決まりってことで」