21 パンツ怖い
王女様に任せて8日ほどたってから、俺達は呼び出されていた。
案内されて通された部屋にはモッコーリ男爵が芋芋しい顔をしてこちらを見ている。
隣にはシヤの母親も一緒にいるようだ。つまりその話をしようってことなんだろう。
俺の方も俺だけではなく、シヤを連れてきている。
「さて、皆さんそろいましたし、お話を始めましょうか」
王女様からの開始のゴング。さてどうなることやら。
「モッコーリ男爵が大金貨2枚で、そちらにいらっしゃる方を開放すると言ったのは事実ですか?」
「いいえ、そのような事実はございません。大金貨2枚で開放などするわけがないではありませんか。私はそのようなことは一切申しておりません」
まあそう答えるよね。特にこれといった証拠が残ってるわけでもないんだし。そりゃ自分はやってませんって答えるだろうさ。
「ではモッコーリ男爵はなんと答えたのですか?」
「私はどんなに金を積まれても無理だと話しました。それでもしつこく食い下がってくるので、正直困っていたのです」
俺がしつこく食い下がったみたいな感じになってるんだけど。ナニコレ。
「アルナさんも同じ意見ですか?」
あ、シヤ母アルナって名前だったっけ。完全に忘れてたわ。
「真実を話してくださいね」
「モッコーリ男爵が大金貨2枚で私を開放すると言ったのは間違いありません」
「貴様!」
「黙りなさい、モッコーリ男爵。アルナさん、続けてください」
「はい。私の娘たちがモッコーリ男爵のところを訪ねてきて、私を開放してほしいと言い、モッコーリ男爵がそれに対して大金貨2枚で開放すると言っていました。ですが、実際に持ってきても金額を上げて開放する気はなさそうだったと、他の方から聞いています」
「くっ……!」
「モッコーリ男爵は先ほどそんなことは言っていないと言っていましたよね?お話が違うようですが?」
「そ奴が適当を言っているだけでございます!!」
「そうですか。では徹底的に調べてみることにしましょう」
「それは……」
男爵の顔色が悪くなっている。なんか調べられると困ることがあるんだろうか。まあこの件は見てた人もいるし、調べればすぐにわかるだろう。それ以外にも何かあんのあかね?
「さて、モッコーリ男爵、もう一度確認させて頂きたいのですが、どうだったのでしょうか?」
「大金貨2枚と……言いました」
「そうでしたか!それでは大金貨2枚で良いということですね?あなた方もそれでよろしいですか?」
俺の方を見て王女様が確認してくる。
「はい、もともとそのつもりで稼ぎましたので、こちらは大丈夫です」
こうして俺達はシヤ母を開放することができたのだった。ありがとうございました王女様。
窮屈な話し合いが終わり、パンツ一丁で王城から出てきた俺は、周りから変な目で見られている。が、そんな目は気にしないし、俺の変態を気にせずに親子の再開を喜んでいる人もいる。
「お母さま……」
「シヤ……」
感無量と言った感じで向き合う二人と、パンいちの俺。完全に俺が異物。
「無事だったのね、良かった。奴隷になってからどうしているか心配していたの。何もできなくてごめんなさいね」
「いいえ、仕方ありません。またお会いできてうれしいですお母さま」
「感動の再開のところ悪いんだけど、とりあえず、今の宿にもう一部屋借りようと思うから、お金払っといてもらって良い?」
「……わかりました、ご主人様」
感動の再開にパンイチの変態は不要なので、積もる話は2人でしてもらおう。
というわけで、変態の俺は、入ったことのない酒場に来ていた。パンイチで。
「マスター、いつもの」
「……はいよ」
初めて来たのにいつものって言っただけで注文通ったんだけど。ここのマスター最強じゃね?
「こちら、本日のおすすめです」
カウンターにパンイチで座る俺の目の前に置かれたのは、パンティです。
「マスター、こいつはイキが良いね。どこ産だい?」
「ええ、何せつい今しがた取れたばかりのものですからね。当然です」
「ちょっと!!私のパンツ盗んだの誰よ!!」
なんか女の人がパンツを盗まれたと怒っているが気にしない。
産地は結構近かったらしい。
「マスターが自分でとってきたのか?」
「ええ、きちんと自分の目で見たものでなければ、お客様にお出しすることなどできませんので」
何だろう。すごく立派なこと言ってるような気がするんだけど、やったことパンティ泥棒だからね。
「そいつは立派な心掛けですね」
「いえ、私などまだまだ。私も今パンツがない状態でして。現在ノーパンです」
「いやさっさとはいて来いよパンツ」
すごくどうでも良い情報を得てしまった。
「ですがお客様を待たせるわけにもいきませんので」
「ノーパンで接客される方が嫌だわ」
「それは困りましたね。替えのパンツがないため、履いてくることができないのです」
なんで?え?パンツ1枚しか持ってないってこと?
「いつもパンツどうしてるんだよ」
「はい?パンツは毎日履いていますが?あ、履いていましたが?」
「同じパンツを?」
「当然です」
「お前のパンツ盗んだ奴相当やべーな!!」
なんか少しうれしそうな表情をしているマスター。なんでだ。なんでその表情なんだ今。
「おほめ頂き恐縮です」
「これっぽっちもほめてないけどな」
この変態マスターは俺を凌駕しているのだろうか?まるで俺が普通の奴みたいな反応をしてしまっている。まずい、これは俺の股間にかかわる。ってそういや俺そもそもパンイチだった。
「悪いけど、このパンティは返品で頼む」
「お気に召しませんでしたか?」
「お気には召したんだけど、さすがにテイクアウトはまずいから、ここで楽しませてもらうだけにしておくよ」
「そうですか。では……良いしょっと」
え、ちょっと待って、何してんのこの人。なんで返したパンティ自分で履いてんの?
「私もパンツが帰ってきてほっとしました」
「お前のかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は泣きながら店を出ていった。
手を洗った。とてもとても手を洗った。これでもかというくらい。
多分生まれてから一番長く手を洗った。しわしわになった自分の手を見て、何かの呪いかと思ってしまったが、普通に洗いすぎてふやけていただけだった。それくらい夢中で洗っていた。
俺の心はパンツへの恐怖心でいっぱいになっていた。