20 解せる
はいというわけで帰ってきましたアポクリに。そして現在は、出発前に泊まっていた宿屋の中だ。
快適とも言えない馬車での旅を経て、ここアポクリに帰ってきたはいいけど、シヤの表情はさえない。
そりゃ母親を目の前にして帰ってきちゃったんだもんね、そうなるよね。
「とりあえず、シヤは冒険者ギルドに父親の情報入ってきてないか確認してきてくれる?」
「わかりました。ご主人様はどうされるのですか?」
「俺はちょっと頭を地面にこすりつけてくる」
「頭を地面に……?それは何か楽しいことなのでしょうか?」
「とってもゾクゾクする」
理解できないといった顔でこちらを見るシヤにティクビを見せてから俺は宿屋を出た。
頬に紅葉のような跡ができている俺は、現在王城へと向かっている。
とりあえず母親を開放してもらうためには金だけじゃだめだと思ったので、あっちが約束を守る気がないなら、約束を守らないといけない状況にするしかないと思った。
だから、今、王城に来ている。そして王女に合わせてもらうために、どうすればいいかを必死に考えていた。
まずは第1の方法を想像してみる。
『さあ!俺のこの腰の動きについてこられるかな!?ホレホレホレホレ!!』
『な!?は、早い!?なんという速さだ!?』
『驚くのはまだ早い。いつしか光速を超えることで、過去への刺激となる。つまり、快楽の一点集中を可能とするのだ!!』
『な、なんだと!?これほどの逸材がこんなところにいたとは……これは王に知らせなければ!!』
――いける!俺は自身が展開した、未来予測演算と言ってもいいだろう出来栄えの妄想にほくそ笑む。そして妄想を現実へと昇華させる。
「さあ!俺のこの腰の動きについてこられるかな!?ホレホレホレホレ!!」
「この不届き者め!!」
「馬鹿な!?」
俺の未来予測妄想は完ぺきだったはず!!どうしてこうなった!?
「あれ?あなたは……」
なんかどこかで見たことのある人がこっちを見ている。こんな押さえつけられた状態でも腰を動かし続ける俺を普通の目で見られる人など……こいつ……真顔だと……?
「って、あ、王女様のお世話役の人じゃないですか!!すみません!!王女様と話がしたいんですけど!!」
「上半身裸になって王女様にたたき出された方を、王女様にお会いさせるわけには……」
「そこをなんとか!!上半身だけで足りなかったなら下半身も脱ぎますから!!」
「逆です!!全部しまってください!!とりあえず王女様に確認してみますので、そのままお待ちください」
「え、あの、腰も振り続けたままってことですか!?」
「それはやめてください。本気で」
この世界に来て一番の殺気を受けた気がする。ものすごい目をしていた。あれは戦闘民族の目だった。マジでやばい奴だ。あの人は逆らったらいけない人なんだと理解した。
「イエス!マム!」
というわけで、俺は地面と濃厚接触しながら王女様からの返事を待つことになった。
王女様があってくれるってことらしいので、お世話役の人について王女様のところに向かっている途中で、俺は借りてきた猫のようなおとなしさを見せていた。
逆らったらいけないと思って怖くなってしまったのだ。タマヒュンタマヒュン。
「王女様、お連れしました」
「入ってください」
「失礼します」
中に入ると、凛とした雰囲気を漂わせた王女様がテーブルに座っている。
正面の席を手で示して「どうぞ」と言うのでそこに座ることにする。
「まず、訪ねてくるのであれば、普通に訪ねてきてください。時間が取れれば応対しますので。流石に王女の知り合いに変態がいるという噂はされたくありませんので」
最初に俺の変態行為に対して釘を刺された。解せる。普通に解せる。げに解せる。
完全に迷惑をかけてしまったようだ。謝るしかない。
「ごめんなさいでした!!」
土下座した。
「いえ、こうして訪ねてきてくださるのは良いので、今度からは普通にお願いします」
「まるで俺の行動が普通じゃないかのような言い方ですね?」
「そう言ってるんです!!それで、何か用があってきたんじゃないんですか?」
「思い……出した……そうでした。ムァクナイのモッコーリ男爵のことなんですが」
「モッコーリ男爵ですか?」
「はい。実は王女様と別れてから奴隷を買いまして、その奴隷の母親も奴隷になっていたのですが、モッコーリ男爵のところでメイドとして働いているのを確認しまして、大金貨2枚で開放していただけるとのことでしたので、盗賊を狩って稼いでもう一度訪ねたのですが、値段を引き上げられてしまいまして、まあその時の金額であれば、盗賊狩りが予想以上に稼げましたので、払える金額だったのですが、それを払えると言うと、また値段を吊り上げられてしまいまして、泣く泣く帰ってくることになりました」
「なるほど。つまり、私にその男爵を何とかしてほしいということでしょうか?」
「ありていに言ってしまえばそうなります。何とかならないですかね?」
「なりますね。ただ、それを私がやるとどんなメリットがこちらにあるのでしょう?」
まあそうなるよね。俺に提示できるものなんてたかが知れてるんだけどさ。それに王女様も俺が何を提示するかわかってて言わせるために言ってるような感じあるし。
「王女様が困ったときに1度全力で助けるというのでどうでしょうか?」
「1度だけですか……?」
うるうるした瞳の上目遣いとは高等テクニックを持っているではないですか王女様。しかしここはティクビを鬼にして堪える俺。
「なるほど、王女様にとって、モッコーリ男爵はそれほどまでの相手ということなのですね?」
「あ、いえ、あれをそんな大した者だと思われるのもシャクですので、1度で納得しておきましょう」
「では何とかしていただけるのですか?」
「はい、私に任せておいてください」
「有難うございます!」
王女様に任せろと言ってもらえたので、俺は体の前面を全て地面につけるような全身で敬意を表す土下座を王女様に披露した。