13 準備する変態
昨日シヤと約束した通り、俺は明日にはここを出るために準備を進めていた。
まずは、捜索のために預けていた大金貨がまだ2枚ほど余っているとのことだったので、引き続き調査をお願いしつつ、金貨50枚を受け取っておいた。それでも旅をするには十分らいし。
とりあえずその金を使って旅に必要なものを集めることにした。
「おにいさ~ん、よってかな~い?」
煽情的な服装をした女性が話しかけてきた。とても良い匂いがする。息子は……返事がない、ただの29棒のようだ。いつも通り。
なので、なるべく相手を傷つけないように、俺のDNAがしゃべっているような感じを出すため、裏声で答えた。
「無理だよ、おいらは契約で貯蔵庫から出られないんだ」
「お、お兄さん何言ってんだい?大丈夫かい?」
割と本気目に心配された。大丈夫かって言われて大丈夫って答えられるなら変態やってねえって話さ。
シヤは我関せずといった感じで済ました顔をしている。あ、間違えた。済ました顔だと、なんか事後みたいな感じになってしまう。澄ましただな。
「俺が大丈夫だったら世界中大丈夫になっちまうよ。俺を大丈夫にしたら大したもんですよ」
「そうかい?まあ、がんばんなよ」
もう関わりたくないといった感じの表情をして俺から離れていくお姉さん。その残りがをたっぷりと吸って、俺は歩き出す。
「ご主人様は相変わらず気持ち悪いですね」
「シヤのばか!もうしらない!」
色々と買い集めて、そろそろいいかなと思っていたところで、何やらに騒がしい感じになっているのが見えた。
ざわざわしているので何かと思ってみてみれば、まるで俺が勇者だ!と言うような恰好をした者達が囲まれていた。なんなのだろうか。聞いてみるか。
「何かあったのか?」
「勇者様が魔王討伐の旅に出るんだってよ。これから魔将達との厳しい戦いが始まるんだろうよ」
魔将を倒しに行くと聞いて、大丈夫か?と思いはしたが、もうあれから3年もたっている。勇者がどれほど強いのかはわからないが、魔将と戦えるような強さの人物なのだろう。
何て考えていたら、勇者がこっちに向かって歩いてきた。
「あなた、良ければ僕と一緒に来ませんか?」
ふ、俺に目をつけるとはいい審美眼をしている、と言おうと思ったんだけど、よく見たら視線が俺じゃなくてシヤの方向いてた。
「いえ、私はご主人様の奴隷ですので」
お?デレ期か?デレ期なのか?お?
「ご主人様に親を探して頂いていますので、ご一緒することはできません」
へっへーん!ざまーみろ勇者ー!!いや、親探し代わるとか言われたら終わりじゃね?これ。
「だったら、その親探しを僕が代わるよ。勇者だからお金はあるしね」
「……」
シヤ沈黙。確かに俺でなければいけない理由もないので、それが正解かもしれない。
まあそっちの方がいいって本人が思うならそれでもいいかなって思うし、まあ任せるか。
別に探す人が増える方がシヤの為にもなるしな。親を見つけたら冒険者ギルド経由で勇者に伝わるようにでもしておけばいいだろう。
シヤがうかがうような感じでこっちを見ている。
「シヤのおPは渡さない!!」
「少し考えさせてください、今日中には結論を出します」
良いよ良いよ、そうやって頭冷静にしてちゃんと考えたほうが良い。
「今日中にここを出るつもりなんだ。だからそれじゃ待てないな。ねえそこの君、その奴隷を僕に売ってくれないかな。お金なら払うから」
おっと、勇者様が勇者様じゃないみたいなこと言いだしたんだけど。どうしようこれ、めんどくさいことになりそうな予感。
「ほほう!それは太っ腹ですな!じゃあこの世界にあるお金全部欲しいな!そしたら考えるくらいはするかもしれない!」
勇者様がものすごい形相で俺を睨んでくる。ゾクゾクする。新たな力に目覚めてしまいそうだ。
「売る気はないってことかい?だったら、力ずくでも良いんだよ?魔将を倒した僕と戦うっていうなら、それなりの覚悟はしてもらうことになるけど」
そう言えば魔将倒したとか噂されてたんだっけ?
「その魔将、実は俺が倒したって言ったらどうする?まあ周りにそんなこと言っても信じないよな。ある一握りの奴ら以外は」
勇者達の表情に動揺が見えた。他の可能性も考えてたけど、これはビンゴかな?
やはり既にマダナイは死んでいたのだろう。それを勇者が自分の手柄にした。まあ勇者の実力が本当に魔将を倒せるだけの力があるかもしれないけど。
「お前、まさか……」
「いや、その辺はどうでも良いんだけどさ。流石に本人の意思を無視して買い取ろうとする奴に、シヤを渡すつもりはないよ?」
勇者は何か考えているようだ。ここを切り抜けるための方便だろうか?
「なら、君も僕の仲間になれば良い。勇者である僕の仲間になれば、彼女の親の捜索もはかどるんじゃないかな」
なるほど、一理ある提案だ。俺が勇者の仲間になってしまえば、ギルドで情報を収集しつつ、勇者と旅する先で情報を収集することができるかもしれない。
しかし、そうするのであれば、確認しておかなければならないことが1つだけある。
――カチャカチャ
「き、君は、何を、しているん……だい……?」
突然脱ぎだした俺に絶句している勇者。何をこれくらいで絶句しているのか。
まだ、終わらない、俺は、止まらない。
――ゴソゴソ
「おい!」
「まあ待て、確認したいことがある」
「何を確認したいんだよ!?」
とうとうパンいちになった俺がこの世界に君臨する。
「お前、そしてお前の仲間が、俺の変態的行為への耐性、もしくはそれに類する耐性を持っているかどうかの確認だ」
そう言って、俺はパンいちで勇者の仲間の僧侶ちゃんに近づいていく。
「ぐへへ!ぐへへぇ!!」
「いやあああああああああああああああああああ!!」
全力でその場から逃げ去る僧侶ちゃん。だめだ、あの子は耐性を持っていない。
グリンッと表現するのがふさわしい視線の向け方で、今度は魔法使いちゃんをロックオンする。
「きゃあああああああああああああああああああ!!」
視線を向けただけで逃げ去ってしまった。だめだ、あの子は耐性どころか弱点属性かもしれない。
そして、勇者を見やる。
「な、何なんだ……お前は……」
「とっくにご存じなんだろう?」
勇者が後ずさっている。
「おだやかな息子を持ちながら、激しい快楽によって目覚めた伝説の紳士。それが俺だ!!」
俺はズキュッズキュッと勇者へと寄っていく。
これは強者にのみ出すことを許される足音である。
「く、来るな……くるなあああああああ!!」
勇者は逃げ出した。しかし、回り込まれてしまった。
「ひいいぃぃぃっ!?」
「俺は今軽装だからはえーぞ。俺のパンツが残っているうちにとっとと消えるんだ!!」
勇者は恥も外聞もなくその場から逃げ出した。本気だ。あれは逃げるのに本気の者が見せる逃げ方だった。恥も外聞もなくって俺が言えた義理じゃないけど。
勇者が逃げた後、俺はシヤの方を振り返ると、シヤはご褒美の視線でこちらを見ていた。
その瞳を見るだけで「ああ、私、選択を間違ったかもしれない」と思っているのがありありとわかる。
全く、時代が俺についてくるようになるのはいつのことになるのか。
「シヤとりあ――」
「来ないでくださいそれ以上近づかないでください服着てください気持ち悪いですご主人様には羞恥心はないのでしょうかあったらそんな行動はしませんよね本当に選択を間違えたかもしれませんあちらについていっていれば――」
シヤが壊れた。早口言葉みたいに俺への罵詈雑言が止まらない。きっと前から色々と溜まってたんだろうな。
俺はシヤの罵詈雑言をBGMに旅の準備を進めていくことになるのだった。