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俺のセイケンはヌけない  作者: さんいちぜろ
12/31

12 新たなる扉への目覚め

 自身の力不足を感じた俺は、鍛えるために、近くにあった道場に転がり込んだ。

 シヤには「おPを揉みに行ってきます」と置手紙を残してきた。その手紙と一緒に「あなたはメインディッシュです」と言う置手紙も残してきた。

 しかし、今になって完全におっぱ……失敗だったと思っている。俺の書いた字って多分シヤじゃ読めないな。

 まあ帰ったら怒られればいいので、それは今はどうでも良い。今は力をつけることだ。

 そう思ってとりあえず道場まで来たんだが、師範と思しきおっさんが、弟子の1人になんかもってこいって指示出してから早1時間程。出ていった奴はまだ帰ってこない。


 社会人として働いていた時、人をうまく使える人になれと言われたことがある。

 だが、俺は既に人をこれ以上なく使いこなせていると自負している。刮目せよ!!


 ――(人)――


 どうだ?このヒップライン。これ以上にうまい人の使い方があるだろうか?いや、ない。

 この道場の師範は俺を見習うべき。



 どうにもお弟子さん帰ってくるまで暇だったので、俺は無駄に無駄のない無駄な動きを練習していた。

 この足さばきの無駄のなさ、しかし、全体の動きは無駄なものと来ている。どうだ?これには師範も……

 すげー顔だ。まるでクソほどどうでも良い映画を見せられた上に感想を言わされ、挙句「その感想じゃまだまだだな~」と言われた女くらいすごい顔してる。

 そんなに俺のステップが魅力的だったのだろうか?


「戻りまし――」


「――遅いわぁ!!何をしておった!?ああ!?言うてみよ!!」


「ひぃっ!!」


 おっと、師範が弟子に殴り掛かりそうになってる、これはいけない。

 すかさずそこに無駄のないステップで入り込む無駄に無駄のない無駄な俺。


「きもちわるっ!」


 庇った側から被弾した。


 なんか書類書かされたり、書けないから書いてくれと頼んだらまたクソを見る目をされたり、色々と紆余曲折あったけど、道場に入れることになった。

 そして、当日からみっちりとしごかれ――



 気付けば3年の月日がたっていた。

 シヤは毎日のように冒険者ギルドに通っていたが、晴れた表情を見せることはなかった。

 俺は新たなる扉へ目覚め、力を手に入れる代償に、何か失ってはいけないものを失ったような気がする。

 毎日毎日辛く厳しい特訓だった。しかし、師範は俺の強くなりたいという気持ちに答えてくれた。

 ボコボコに叩きのめされ、それでも起き上がり、またボコボコに叩きのめされ、起き上がり、その繰り返しの中で確かに何かを得て、失い、しかし、確実に強くなっていった。

 自分よりも強い者のいる環境で自分を鍛えるというのはかなり効果的であると知った。


 そんな俺が、町をブラブラさせながらブラブラしていると、以前に俺をボコボコにした連中が俺を見て嫌らしい笑みを浮かべて近づいてくる。

 あれ以来見ていなかったが、どこかに行っていたのだろうか?


「おいおい、お前久しぶりじゃねーか?お前にもらった金がなくなっちまってよ。また金貸してほしいんだわ」


「断る。お前達では最早俺をどうこうすることはできん」


「ああ?俺たちにボコボコにされてたやつが何言ってんだ?」


「俺はあの時の俺とは違う。俺は1皮剥け――」


 そこではっとなってセイケンを見る。俺はその先の言葉を紡げなかった。


「なんだか知らねーが、おとなしく渡さないってんなら、また痛い目見てもらうしかねーな。おい、やっちまえ!!」


「「へい!」」


 俺の方に向かってきて、俺に拳を叩き込む2人。しかし、俺には効かない。


「な、なんだこいつ……?わ、笑ってやがる?」


「いや、こ、この気持ち悪いニヤケ顔は、ま、まさか……」


「そう、そのまさかだ」


「こいつ!気持ちよさそうにしてやがる!!」


 俺は激しい攻め……修行の中で、ボコボコにしていただ……ボコボコにされている時、この痛みへの完全耐性を手に入れることに成功した。意識がもうろうとする中、それでも苦しみながら立ち上がり、そうして唐突に、1つの狂地へとたどり着いた。

 ヤマアラシのジレンマを知っているだろうか。今の俺なら、あいつの苦悩ごと、抱きしめられる。


「気持ちい!超気持ちい!!」


 俺が2人に1歩近づくと、俺の新たな能力に恐れをなしたかのように、2人は後ずさる。


「お、おい、こ、こいつ、やべぇよ……マジでやべぇよ……」


「逃げるぞ!!」


 奴らは逃げていった。俺は勝ったのだ、今度こそ。



 その夜、冒険者ギルドに行ったシヤから話を聞くと、なんと母親らしき者の情報を手に入れたとのことだった。

 シヤは嬉しそうにそれを話していた。すぐにでも行って確かめたいのだろうが、遠慮があるのだろう。だから俺はシヤのおっPを触った。

 殴られた。涙目になりながら殴られた。殴られたことは俺にとっては痛みという名のご褒美だ。しかし、涙は心にくる。


「すまん、そこにおっPがあったから……つい……」


「最低です!!近づかないでください!!」


「悪かった。何でも言うこと聞くから!」


 そう言うと、シヤは少し落ち着いて、話し始めた。好機だと思ったのだろう。


「じゃあ、母を、探しに行きたいです。すぐにでも」


「わかった。明日準備をして明後日に出る。それでいいか?」


「はい」


 こうして俺たちは、第一歩を踏み出すことになる。

 大事な何かを失ってこの世界に来た俺が、大事な何かをまた失い、そして大事な何かを守るために、旅を始める。

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