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8. 腐女子、助ける

頑張ります

どこかへ行くのかと尋ねる女騎士にひらひらと手を振ると、私は彼女の大剣をと盾を持って外に出た。案の定、外にはゾンビ軍団がたむろっている。


「あ”~…」

(だよね、やっぱり来るよね…)


彼らにとっては生きた人間は食糧だ。

この洞窟内に人間はおそらくいない。――彼女たち、二人以外は。

だから狙ってくるのは当然だった。


(でも、悪いけどあんたらに喰わすわけにはいかないの!)


ゾンビの死体をかきわけて中に入ってこようとしたゾンビ達を斬り伏せる。

新たなゾンビ狩りの始まりだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




最後の一人を斃して、私はため息をついた。

前世では、戦争とは無縁の平和を享受してきた私だ。

たとえゾンビとはいえ、フィクションの世界の中でしか知らなかった『殺す』という感覚を味わうのは中々に(こた)える。

まして、今の自分が外見上は彼ら同様に見えているからなおさらだ。


(…でも私は人間だもんね!)


そこに人としての意思がある以上、彼らと私は違うと決定づけ、私は斃した彼らの身体を積み上げた。


「あ”~…」


泉への入口は死体の山が積み重なり、酷いことになっている。

というか、アンデッド系のモンスターって斃したらすぐ塵となって消えるとかじゃないのか。しばらく待ってみても消えないそれらを見て諦めた。


女騎士の剣と盾を手に中に戻ると、彼女は顔を上げてこちらを見た。


「アンデッドを斃してくれたのか。すまない、礼を言う」

「あ”~(いいってことよ!見返りは求めるから!)」

「…何か寒気がするんだが」

(気のせい気のせい!)


私的極上営業スマイルをしてみせると、彼女は引き攣った顔をした。

まだ体調が優れないのだろうか。


「ぅ、ん…」

「エレン!?」


治療中だった妹からぽとりと芋虫が落ちた。

同時に妹の口から可憐な声がこぼれる。


「ぁ…、お、ねえ、さま…?」

「ああ…!エレン、気が付いたんだな、良かった…!」

「あ、れ…わ、たし、どうして…」


気が付いたばかりで頭が回らないのか、寝ぼけたような声でゆっくりと身体を起こした妹に、女騎士が涙を浮かべて微笑んだ。


「覚えてないのか?『開かずの森』ではぐれたんだ。その後、私はずっとお前を探していた」

「ぁ…ああ…っ!そう、わたし、お姉さまとはぐれて、洞窟の奥で…アンデッドの集団に襲われて…!」


次第に状況を思い出してきたのか、妹は顔をこわばらせる。そして、私に気づいた。


「あ”~…(あれ、これやばくね?)」


気が付いた時には遅かった。


「なんでここにアンデッドが!?お姉さま、そこにいてください、わたしが守りますから!」

「!?え、エレン、ちょっと待――」

「聖なる神、エストレアよ!我に浄化の力を!―リバイブ!」

「あ”?あ”あ”あ”あ”あ”~~~~~!!!!!(ひぎゃあああああああああ~~~~~~!!!!!)」


妹の手が光ったと思ったら、私の身体に衝撃が走る。

結界らしきものに触れた時の衝撃を何万倍にもしたような、それはこの身体になってから初めての『苦痛』だった。

身体中を、まるで雷に撃たれ、焼かれるかのような熱さと痛み。

今生(こんじょう)では勿論、前世でもこれ程までの苦しみを感じたことはなかった。

あまりの熱さと痛みのせいで、目の前が真っ白になる。


「エレン!やめろっ!」

「お姉さま?」


文字通り昇天しそうになったところで、私を苦しめていた光が消えた。


「あ”ぅ~…(し、死ぬかと思った…)」


真っ白な世界の向こうには綺麗の川が見えた。

三途の川というのは異世界にもあるのだろうか。

光のせいか、まだビリビリとしている身体をふらつかせていると、あちこちに落とし物が見えた。どうやら、今の攻撃のせいで落としてしまったらしい。

散らばった落とし物を身体に詰め込んでいると、背後から彼女たちの会話が聞こえてきた。


「お姉さま、なぜ止めるのですか?」

「あいつは、私たちを助けてくれたんだ」

「え…?あ、アンデッドが私たちを助けた?どういうことなんですか?」

「私にもよくわからん。だが、ここに来た時、私はエレファントベアに襲われて瀕死の状態だった。それを、あいつが治療してくれたんだ」

「ええっ!?」


驚いたような声を上げる妹。

エレファントベアってなんか格好いい名前だな。

英語的に直訳すると象熊って意味わからんけど。


「まさかそんな…なにかの間違いでは?」

「私もそう思ったさ。だが、そうも思えない出来事が続いてな…」


女騎士は、私が他のアンデッドから彼女を守ったこと、エレンを探し出してここに連れてきて治療したこと、更にアンデッドを斃したことを話した。

その間、妹は信じられないとばかりに何度も姉に質問をし、私を見て混乱し、また質問をするということを繰り返した。


私はその間、辺りに散らばった落とし物を一生懸命拾い集め、身体に戻していた。

転がり落ちた目を押し込んでいると、ようやく話が落ち着いたのか、女騎士が私を呼ぶ。


「おい、そこの…アンデッド、ちょっとこっちに来てくれないか」

「あ”~…」

(行くのはいいけど、もう攻撃しないよね?というか、私にも素敵な名前があるんですけど)


前世の名前だが、自分的には気に入っている。

だが、今のところ伝える術がないので、仕方なく彼女たちへと近づいた。

ただし、妹がびくびくしているようなので、少し離れた位置に立つ。


「本当に、こちらの言葉が通じるんですね?」

「あ”~!(当然!だって私、人間だし!)」


強調するように強く頷く私に、妹さんは驚いたように目を見開いた。


「すごい…言葉が通じるアンデッドがいるなんて…」


まだ信じられないという顔をしながらも、彼女は興味を持ったのか私を見つめる。


「ところで、私たちを治療してくれたって言いましたけど、アンデッドがヒールを使ったってことですか?」

「いや、それは…」


できれば聞いてほしくなかった、そんな風に顔を歪めた姉の姿に、妹はきょとんとした顔で首を傾げた。可愛い。


そこに、今話題沸騰中の芋虫(ヒーロー)がやってきた。

改めて妹を見ると、大きな怪我は治療したようだが、細かい傷までは治しきれていないようだ。ちょうど良い、意識のある状態で経験して頂こう。


「あ”~」


芋虫に指示をすると、芋虫は了解、と頷くように頭を振って妹へと近づいて行く。


「え?きゃあっ!な、なんですかこのおっきな芋虫は!?」

「お、おい!せめて説明するまで待て――」

「説明ってなんですかっ!?ひぃっ!ななななんで近づいてくるんですかっ!?」


神聖な泉に悲鳴が響き渡る。それはしばらくの間続いた。

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