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7. 腐女子、出動

電気ぱちぱち。

彼女から預かった写真を、失くさないようタオルハンカチごとぎゅっと握り締め、暗い道を歩く。向かうのは、洞窟の奥だ。


散策した時に、洞窟の入口から泉まで、人物らしき存在は見当たらなかった。

女騎士も入口から来たようだし、いれば見つけていただろう。

とするなら、探すべきはそれより奥。


そうしてたどり着いたのは、散策の時点ではそれ以上行くのを諦めた、アンデッドのたむろする場所。気のせいか少し数が減っているようだ。


(いや、気のせいじゃないか)


おそらく、私が(たお)したゾンビ集団はここから流れ来たものなのだろう。

意思なく(うごめ)いている様子に顔をしかめて、その先へと進む。

通常、人間なら生きて通れないだろうが、私の場合は全く問題なく通れた。

むしろ仲間だとでも思われているのだろうか、気にすらしてもらえない。


複雑な気持ちになりながらその場所を抜けると、突然、開けた場所へとつながった。

先ほどまで低めの天井な高さしかなかった通路は、3階建てのマンションが余裕で入るくらいの高さに、ほんの数メートルしかなかった道幅も、10メートル以上の広い道になっている。


陰気で湿気があるのは変わらないが、どことなく開放感があった。

不思議とゾンビ達はこちらに入ってこないようで、他のモンスターの姿もない。

ただ、なんとなく不気味な感じがするのは気のせいだろうか。


「あ”?」


なんとなく感じる異様な雰囲気に戸惑っていると、ボゥっと淡い光が見えた。

近づいてみると枝分かれした小道から光が漏れているようだ。

蛍光灯や自然光とは違う、不思議な光が呼吸するように瞬いている。


「あ”~!」


ひょいっと覗き込んでみると、入口にはなぜか葉の付いた枝のようなものが突き刺さっており、その奥に人が倒れていた。

慌てて中に入ろうとすると、パチッと火花が出た。


「あ”?―あ”べべべべ!!??」


ビリビリとまるで電気を体中に流されているかのような感覚。

この身体に痛みはないはずなのだが、ビリビリするせいで思うように動けず、倒れてしまう。倒れた拍子に地面に突き刺さっていた枝を倒し、同時に身体に伝わる衝撃と淡い光が消えた。


「あ”ぅ~…(うぅ~痛くはないけどひどい。これって結界みたいな感じ?)」


まだ痺れているような身体をなんとか動かし、倒れている人へと這って進む。

そこでようやく、彼女(・・)を見ることができた。


(間違いない…彼女だ)


握り締めていた写真と見比べ、彼女が女騎士の妹だと確信する。

しかし、喜んではいられなかった。

女騎士とは違い、普通の洋服を着た少女は、その全身に酷い怪我を負っていた。

ワンピースのような服はボロボロで、ところどころ破れていたり穴があいていたりする。

そのどれもがどす黒い血で染まっており、幼い顔は血の気を失って真っ白だ。一見したところ生きているようには見えないくらいだった。


それでもかろうじて呼吸をしていることを確かめると、写真をジャージのポケットにしまいこみ、彼女を抱えて立ち上がる。

気を失っている彼女の身体は完全に力が抜けており、正直小柄な女性の私が抱きかかえるのは難しかったが、とにかく時間がない。

幸い、この身体のせいで力には問題なかったので、お姫様抱っこをしたまま、その場所から出た。


元来た道を戻っていくと、先ほどまで私を無視していたゾンビの群れがいっせいに私を見て襲い掛かってきた。伸ばされるゾンビの腕から逃れ、転がるようにしてその場を走り抜ける。ゾンビの足が遅いのが幸いし、なんとか彼らから距離を取ることができたが、時間の問題だろう。


ひたすら走り続けて、やっとのことで元の場所に戻ってきた。


入口に積んである死体の山を避けるようにして洞窟内に入る。


「!?エレンっ!!」


途端、こちらを見た女騎士が大きな声を上げた。

私は彼女の傍によると、彼女の隣りにそっと少女を横たえる。


「エレンっ!エレンっ、起きろ!」


動かない身体で懸命にもがきながら、彼女は少女に触れて呼びかけた。

しかし少女はぴくりとも反応しない。このままでは死んでしまうだろう。


「あ”ぅあ”ぅあ”~~!(芋虫くん、彼女を治療してあげて!)」


いつの間にか近くに来ていた芋虫の大きい方に指示を出すと、芋虫はすぐに少女の身体へと這って行く。それを見た女騎士は祈るような声を出した。


「頼む…!エレンを、妹を助けてくれ…!」


すがるような瞳を向けた女騎士に、芋虫は一瞬止まって顔を上げると、そのまま傷口へ向かい丸くなった。治療の証である金色の光がのぼると、女騎士は少しだけ安心したように見守っている。

私は女騎士の肩当を手に取ると、泉から水を汲んで地面に置いた。それを見た青い芋虫が当然のように中に入って行く。浄化の証の青白い光が立ち上った。


「…?それは、一体何をしているんだ?」


心配そうに妹を見守っていた女騎士が不思議そうに水の入った肩当を見る。

浄化は数秒で終わり、青い芋虫が出てきた。

彼女の問いに答えることはせず、少女へと近づく。

…うん、先ほどより力強い呼吸になってきた。顔色もほんの少しだけ戻ったようだ。

その様子に安心すると、私は肩当を少女の唇へと持っていく。


「お、おい、それ―」


驚いたような声を上げる女騎士に大丈夫と頷いて、少女に水を飲ませると、少女は少しだけ水を飲んだ。だが、一口、二口以上は飲まない。まだそこまで回復していないということだろう。不安そうにこちらを見ている女騎士に、水を差しだした。


「…水、だよな?飲んでいいのか?」


飲めるのか?という表情で私を見る女騎士に大きく頷く。


(というか貴女既に飲んでいるし)


その後何の異常も出ていないようなので、おそらく大丈夫なのだろう。

半信半疑っぽく水を見ながら、彼女はおそるおそるというように口をつけた。

一口飲んだところで、特に異常がないことがわかったのか、はたまた喉が渇いていたのかごくごくと喉を鳴らす。


「んっく…す、すまない、つい全部飲んでしまった」

「あ”~(大丈夫だよ、まだいくらでも作れるから。…もう少し飲む?)」


再度浄化水を作って渡すと、今度は躊躇わずに口をつけてあっという間に飲み干してしまった。随分、喉が渇いていたらしい。


「ありがとう、もう大丈夫だ。…エレンが起きたら、飲ませてやってくれないか」


渡された肩当を地面に置いて頷く。彼女は少しだけ微笑すると、妹へと視線を向けた。

妹さんが気づくまでにはまだ大分かかることだろう。その間に、私は自分がするべきことをするとしよう。

別作品も投稿しています。よろしければ下記リンクからご覧ください。



https://ncode.syosetu.com/n9310ed/


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