12. 腐女子の衝撃
短めです。
姉妹に同行することを許されたとはいえ、すぐに出発できるわけではない。
怪我は治ったものの、まだ体力が回復していない姉妹を無理矢理旅させるわけにはいかないからだ。
しばらくは身体の回復が優先だ。
動けない姉妹の代わりに、水と食事を確保し、彼女たちに与える日がしばらく続いた。
泉の魚は結構美味らしく、姉妹には好評だ。
私も一度試してみたが、かなり美味しかった。
すぐお腹から身が出たので食べることは諦めたが。
(お腹をなんとかしないと、食事もままならないな~)
そもそも食べなくてもいいという事実はさらりと無視して、穴が開いているお腹を見る。
「ん…。ようやく身体が回復してきたな」
お腹を撫でていると、食事を終えた女騎士が両手を動かしながら呟いた。
ここ数日はひたすら身体を休めている姉妹だったが、今朝くらいから少しずつ動くようになっていた。この分なら、あと数日で完全回復するだろう。
「はい。これも、貴方のおかげですね。本当にありがとうございます」
にっこりと微笑んでくれた妹に思わずデレッとしてしまう。
やばい、なんという破壊力。天使としかいいようがない。
この世界の妹という存在は全てこんなに可愛いのだろうか。
ありがとうの代わりにハイキックをかましてきた前世の妹とは一体、なんだったのであろう。
「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」
考えていると、ふと気が付いたように女騎士が首を傾げて私を見た。
名前…名前か。
当然、私にも名前はあるのだけれど、それは前世での名前だ。
自分なりに気に入ってはいたので、できればそのまま使いたいけど、どうやったら伝わるのか。
「なんていう名前だ?…とは言っても、お前の口から言うことはできないか。…ふむ」
腕を組んで思案顔になった女騎士は、しばらくして口を開いた。
「そうだな…。あ、アーロン、アレン、アダム、アレックス、アイラ―…」
「…あ”?(んん?)」
どうやら名前を言うことで、私が名前を伝えやすいよう考えてくれたらしい。
それはいい。それはいいのだが。
「え、エイベル、エイブラハム、エドウィン、エッカルト…」
「ちょ、ちょっと待ってください、お姉さま」
名前を聞いているうちに微妙な顔になった私。
え、これってまさか…いや、まさかね、うん。
まさかそんなはずは…ないとは思うのだけど。
というか思いたい。いくらアンデッドになったからとはいえ、いくらなんでも、ねえ。
しかし、動揺している私に気づかないのか、女騎士は「なんだ?」と妹に尋ねた。
「お、お姉さま、あの、それらは男性の名前ですよね?」
「そうだが?」
きょとんとした顔で妹を見る姉騎士に、妹はこちらを気にしたのか少し声を潜めて言った。
「あの…あの方は、女性なのでは?」
「はっはっは!何を言ってるんだ、どう見ても男だろう?」
洞窟内に、女騎士の笑い声が響いた。
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