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今日から学校と仕事、始まります。②莞

2月8日11時21分の時、何してたかくらい覚えてるのが普通だろ

作者: 孤独


「不在票が入ってなかった?」

『入ってねぇーんだよ!おかげで再配達の依頼ができなかったんだよ!!どーしてくれんだよ!』

「……いやぁ、そー言われましても」


今日はよくあると言えばあるが、遅すぎると割とどーにもならないお話。


「こちらのデータ上。2月8日の11時21分にお宅にご不在の入力してるんですけれどね……」

『入ってねぇって言ってんだろうが!!2月8日11時21分に何してたかくらい覚えられてねぇのか!テメェは!!』

「今日、4月13日ですし。そこまで遡るとなると、覚えてませんよ。仕事してたかぐらいしか、データには残りませんから」



◇         ◇


「いやぁ、怒られたわ(笑)」


そう言いながらも、矢木はタバコを吸いながら笑っていた。新人の森橋くんはまだ経験していないので、尋ねる。配達員の誰もが直撃するという対応の一種だ。


「実際、不在票入れてるんすか?矢木さん」

「そもそも、2か月前の事なんか憶えてるわけねぇーじゃん(笑)。1週間前でも怪しいんだぜ」

「ですよね。どれだけの荷物があると思っているのか……」

「いやいや。それよりも、なんで2か月前のお客様自身が再配依頼や確認をしなかったんだと、過去の自分に言っているみたいで笑っちまうんだよな」


矢木が笑っているのは、正直なところ。嘲笑っているという、なんともお客様の前では見せちゃいけない姿である。実際のところ、この手の問題は配達した者に対応される。


『上司を出せ。話になんねぇ』

とか言われても。

『こんな問題、下っ端で対応できるやん。配達してるのお前だし』


こんな感じで渡される。上司もこの手の問題、メンド臭がる。ないものはないし。


「大方、チラシと一緒に捨てたか。新聞の間とか入ってんだろ。荷物が壊れたわけでもないし、何怒ってんだかな」


配達員の多くは楽観的な事しか考えていない。稀にではあるが、隣のマンションに不在票を入れちゃったり、表札のない一軒家で間違っちゃったりとかあるが……。

ホントに届くものだとしたら、その期間内に配送会社に問い合わせる事を勧めます。


「荷物を壊したよりマシだからセーフ。着払いで荷物を送ってもらえばいいじゃねぇか。仕事は気楽にやるのが一番だよ、森橋」

「……そんなもんすかね」

「場所一軒家だし、似たような名前のところねぇし。割と留守にしがちなお宅だから、チラシが溜まってるのは知ってるからな。大方、自分のせいにしたくねぇだけだろ。お客様らしいところだよ」


自分のミスかどうか、正直分からないものに関しては、気にしない。そーいう心構えをするのはかなり大変である。

ところで


「その手の客は電話で謝って、話を聞いて終わりだから割と楽だよな。隅田川から聞いたよ」

「山口、休憩か」

「世間話、お疲れ様。矢木さん」


この手の人をクレーマーとして扱うことはほぼない。対応が比較的安易であり、荷物がまだ会社内に残っていれば、届けて終了であるからだ。当然、客の大半は怒っているが、荷物が届けばセーフ理論。不在票を入れ忘れるより、その不在票を誤配する確率の方が高いし、それ以上にお客様が不在票を誤って捨てているという可能性がはるかに高い事を、配達員は知っているからだ。

だからというか、対応が若干おおらかだし、ちょっと笑っている事も多い。それお客が悪いやん。って、心では爆笑しているからである。

なにより


「荷物の中身が限定のフィギュアらしくてよ。プンスカなんだってよ。コレクションしてるとかよー。お前と話合うんじゃね?これ引き継いで対応してくれ」

「引継ぎはしないぞ。荷物が来るまで対応しろ」


大きな声では言わないが。こちらは何にも聞いてないのにお客様はよく自分語りを始め、荷物の中身や自分の趣味とか、自分の状況とかを語る確率が非常に高い。このような問題では特にしてくる。不在票が入っていないという話題は3分くらいで終わり、あとの10分は隣人や自分の会社でのイザコザを言われたりと。”はい”とか、”そうですか”とか。……そのような言葉しか返せない電話となる事が多い。非常に多い。



『こっちは借金してるのに、お前が不在票を入れてないのはどーいう事だ。俺の借金と関係あるだろ』

『あなたがしてる借金は関係ないでしょ……』


別に聞いてもないのに、お客様自身の現状はよく電話で言われます。

ぶっちゃけそのような事は知りもしませんし、興味もないんですがね……。あと自分で個人情報をバラしていくスタンスで、個人情報の漏洩言われても困るんですよね。電話を切りたくなります。


「大変じゃないんすか?そーいう問題?気楽過ぎじゃないですか」

「結局、荷物が無事に届けばお咎めなしだから良いんだよ。深く考える必要ないさ」

「クレーマーには程遠いからな。なんつーの、お客様なんだけど。笑っちゃうっつーか。微笑ましいっていうのか?それぐらいなら対応してやるか、ぐらいの気持ちだな」

「そんな感じだな。こーいう客なら優しく対応してあげるつもりだ。あ、そうだ。不在票を入れる場所は覚えておくんだぞ。あるいは、荷物にメモるとか。ドアポストに入れたとか、集合ポストに入れたとか、家によって決まっていれば、この手の問題の対応も早く行える」



お住まいの人ならよく分かるかと思いますが、ドアポストに不在票が入る場合はポストに荷物が入らないか、印鑑や署名が必須なものとなっています。対面での配達が必要なため、ドアポストに入れるのが対面を試みた証明にもなるわけです。オートロックなどでは集合ポストが大半です。

ドアポストと集合ポストは綺麗にすることをお勧めします。

とはいえ


「お客様が宅配BOX使ってくれれば、大抵問題ないけどな」

「BOXごと盗まれるとかあるけどな。でも、それはあんまり大袈裟か。ワイヤーで縛ればまずねぇな」


不在票が嫌な場合はやはり、宅配BOXが良いですよ。

一軒家でしたら、大きめなポストを使用するのもオススメです。


「山口さん的には、こーいうのでどのラインを轢いているんですか?お客とクレーマーの区別」

「話が通じるのがお客様、日本語を喋っているだけなのが、クレーマー。そんな区別だ」


ひでっ……


「この手の問題でクレーマー級は早々いないというか、まず現れないけれど」

「現れるんだよな。たまに、ホント極稀に」


山口と矢木が互いに視線を落として思い出す。笑えるが、怒りたくもなること。

最初テンパってるのかなって思うかもしれないが、そーじゃなく。明らかに気付いていないで突っ走る方。


『ドアポストに不在票を入れるのが基本なんだろ!!じゃあなんで、ドアポストに不在票が入っているのか!説明しろよ!!基本はなんなんだ!』


「いやー……世の中探せば、すげーのいるから」

「あれは困ったよなー」


『俺はこの荷物を、昨日からずーーーーっと、待ってるんだぞ!なんでドアポストに不在票が入っているんだ!ドアポスト見ると思ってるのか!客がよー!』

『そもそもその不在票、3日前なんですけど。再配依頼してないだけじゃないですか』

『データ改ざんしてんじゃねぇよ!』



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― 新着の感想 ―
[良い点] かなり大変である点。
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