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5月24日

プロローグです。

□ 五月二四日


 結論から言えば、ここは異世界らしい。


 ところで、何を以って異世界というかは簡単な問題ではない。


 もしその意味が、わたしたちの普段の生活圏とは異なる所ということなら、海外のリゾート地だって、国内の温泉街だって異世界だ。しかし誰もハワイ旅行や温泉旅行のことを異世界旅行と言う人はいないだろう。つまり異世界と呼ぶには他にも条件があるということだ。


 直感的に思い浮かぶものは、その場所に対する事前知識を持っていないことだと思う。つまり、ハワイや温泉街には雑誌やインターネットなどの情報源があり、現地に行かなくとも豊富な知識を得ることができる。たとえ有名な観光地ではない地域でも、学校の授業や日々のニュースなどから知識を知ることが可能だ。


 もう一つの条件としては、現地でのコミュニケーションの可否を挙げることができるだろう。ガイドブックも持たず、現地で気の向くまま旅行の予定を決める人だっている。しかし、それができるのは、現地の人とのコミュニケーションにより、情報収集が可能だからに他ならない。そして、コミュニケーションを成立させる要因としては、例えば、共通の言語、相互の文化理解がある。これらは、近年の情報技術の発展により、大きく敷居が下がってきている。


 このように、長々と異世界について論じてきたのだけど、結局わたしは何を言いたいかというと、少なくとも現代において、地球上のどこかを異世界と呼ぶ人はいない、ということだ。


 その上で、大切なことなのでもう一度言おう。


 どうやらわたしは異世界に来てしまった、と。


 異なる惑星なのか、異なる宇宙なのか、それとも異なる時間軸なのかはともかく、ここは異世界としか言い表しようのない所なのだ。


 これだけでも充分すぎるほど衝撃的だが、更に驚くべきことに、わたしはこの異世界にて伝承の賢者として祭り上げられ、今まさに、現地の人たちが聖都と呼んでいる場所へ向かっているのだ。


 なるほど、確かにわたし細倉博美は、東京郊外にある中堅私立大学を卒業後、そのまま大学院へ進学し、博士課程も一昨年度に満了、日本の教育制度の最終地点まで到達した。しかし現在は引き続き研究生として、正式に博士号を取得するため研究に邁進している。世に言うポスドク、より正確に言えば、塾講師のバイトで糊口をしのぐフリーターだ。賢者と称するにはあまりにもおこがましい。


 ——どうしてこうなった!


 異世界に来て以来、何度も脳裏によぎったこの言葉を、わたしとともに聖都へ向かう騎士団たちの面前で叫び出しそうになるのをぐっと堪え、代わりに、スマホのメモ帳アプリを立ち上げた。電波の入らない異世界で使用できる数少ない機能だ。これに最近の出来事を記録し続けている。


 わたしはメモを見ながら、ここに至る経緯を改めて振り返ることにした。

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