度を超えたお金持ちは、友達が居ない、だが
俺は何とか、昼休みまで学校で無事に生活を送れた。
朝の委員長、藍子の言葉のおかげで、質問が一回の休憩につき、3個程度だったからだ。
ただやはり一番多かったのは、2018年の生活事情だった。
俺がちょっと不便だけど今とそんなに変わらないと伝えると、ある生徒はそうだったのか、と感心したり、そうなの? と少し残念そうな顔をしていた。
それとは別に、気になったことが一つ、それは教室からの外の景色だった。
空は快晴、それは別に当たり前だが、どうやらこの学校は海辺に立っているらしく、綺麗な海が視界に広がった。
話しかけてきた生徒に聞くと、ここは人工島らしい。
さらにそれとは別に、気になったこと。
美代の方には、誰も近寄らず、話しかけないことだ。
もっとも、美代が休憩中寝たふりをしていたり、昨日みたいな不機嫌そうな顔で携帯を弄っていた。なども関係ありそうだった。
俺は未だに違和感を覚える携帯食料のゼリーを飲みながら、美代の方に目を遣る。最速で食事を終えた美代は、また寝たふりをしていた。
話しかけるべきか? と俺が悩んでいると、ふと、視界の隅にちょいちょいと手招きしている。藍子の姿が目に映った。
何の用だろうと、俺は立ち上がる。
「どこいくの?」
俺にはやたらと干渉してくるな、こいつ。
見れば美代が起きて、こちらを見ていた。
「どこって、トイレだけど」
「あっそ」
俺が適当にそういうと、美代も適当な返事を返してきた。
俺は手招きしていた藍子の後を追って、教室を出た。
そうして、教室から少し離れた。水飲み場の広場に出る。
「関くんに、神宮司さんについて話しておきべきかな、と思ってね?」
唐突に、藍子が言った。
「美代か・・・・・・、まぁ俺も何を伝えようとしているかなんとなく分かるけど」
「そうですか・・・・・・、じゃあ単刀直入に言うと、神宮司さんには、関わっている人が少ない、いや、こう言うとちょっと失礼なんだけれど、居ないんです」
「それって……友達とかもか?」
そう言うと、藍子は首を縦に振った。
「この学校はクラス替えがないんだけど、今日の朝の件で、多分神宮司さんと一番話したかな? って感じなんです」
「やっぱり美代のあの態度か?」
そう聞くと、藍子は今度は首を横に振った。
「神宮司さんがお金持ち過ぎて、みんな何を話せばいいか分からないの」
「そうか? あいつ見た感じ普通の女子生徒じゃないか」
「関くんは、神宮司さんの家に昨日から居候始めたばかりだから、そう思うのだろうけど」
「……?」
朝とは違ってどこか口ごもった藍子の発言に、俺は疑問を抱いた。
「まず、この人工島、ここは神宮司グループが作ったの」
「え」
「それと、ここから少し離れた、シブヤの軌道エレベーター、それも神宮司グループが一番関わっているの」
「ちょ」
「あとね、東京のビルの会社も大体が神宮司・・・・・・」
「ストップ、ストップ!」
俺は手を挙げてそう言った。
良家のお金持ち、程度だと思っていた美代が、そんな異次元のお金持ちだとは思わなかった。
「あ、あいつがそんな?」
「う……あ、はい」
うん、と言いかけた藍子が、はい、に言葉を変えた。
「そういうお金持ちが行く学校は無いのか?」
「一応あるけど、そこでも確実にういちゃうと思います。あと、校則が厳しいから、それが嫌で神宮司さんはここを選んだんじゃないかなって」
「なるほどねぇ」
俺はそういうと、素直な言葉で言った。
「別に、金持ちとか気にしないで仲良く話せばいいじゃんか」
「え、でも話題が……」
「あいつ、昨日は夜遅くまで音楽聴いてて寝坊したって言ってたぜ? 藍子たちが思うより、多分美代はずっと庶民的だよ」
「でも……」
「俺は、そんな程度の理由で距離を置くやつの方が嫌いだ」
心の底から俺はそう思った。身分なんて、関係ない。みんな仲良くすればいいじゃないか。
「なんだか」
藍子が言う。
「関くんって、かっこいいね」
「はい?」
俺は頭に?マークを浮かべて言う。
「そんなこと、簡単に言っちゃうなんて、私が神宮司さんに対して特別視しすぎていただけなんだなって、反省しました」
「そ、そうか。あとさ」
「なんで・・・・・・なんでしょうか?」
「お前はなんで敬語を使ってるんだ」
「それは、私の家は女子は大和撫子らしく、と言う決まりがあるからでして」
「確かに守るべきかもしれないなそれは、でも、俺には普通に話しかけてくれ」
「どうして?」
「そういうのって、どうしても距離を感じるんだよ、お前、藍子だってもう少し仲良くなりたいだろ?」
「それは是非!!」
何故だか物凄く喰い付いて来た。
「まぁ、徐々にでもいいから、俺にはフレンドリーに話してくれ」
「わかり・・・・・・分かったよ、関くん」
「それじゃ、早速行動を起こすぞ」
「え?」
俺はそう言って教室に向かう。何をするんだろう? と言った顔で藍子は俺について来た。
そうして教室に戻って、自分の席に着く、藍子もそばにいる。
「おい、美代」
「何? トイレにしては長かったけど?」
「お前、昨日どんな音楽聴いてたんだよ」
「は? あんたに言っても分からないでしょ」
「確かに俺はさっぱり分からねえと思う、でもよ」
俺は藍子を指さして。
「藍子なら分かるはずだ」
「はぁ?」
理解できないと、美代は顔でそう言っていた。
「いいから教えろ」
「……シャントレーゼってバンドの曲、だけど」
「シャントレーゼ? あ、私もたまに聞きますよ」
「え? どれとか?」
「愛の世界、とか」
「あぁ、あれね! あの曲良いわよね!」
「はい、愛とは何かを伝えてくれる曲で!」
「あんた意外と分かるじゃない……、っ!?」
美代は、今まで感じたことない視線に、驚いていた。
「神宮司さんって今どきの音楽も聴くんだね」
「神宮司さんって庶民の事分かるのかも?」
そんなヒソヒソ話が聞こえる。
「~~~っ! 寝る!」
そう言って再び美代は寝たふりをする。
「ね、寝ちゃったよ関くん? どうすれば」
「ははっ、まあ最初はこんなもんで良いだろ」
続けて俺は言う。
「俺と美代。二人の友達になってくれたな? 藍子」
そんな言葉を投げかけると、少しの間の後。藍子はとびっきりの笑顔で。
「うん!!」
そう言ってくれた。
~~~~~~
放課後。
俺と美代は3メートルの距離を置いて帰り始めた。
「原始人」
「なんだ?」
「あんたがなんか言ったんでしょ? 急にあんなこと東雲が喰い付いてくるなんて」
「まぁな」
俺がそういうと、美代は大きくため息をついた。
「でも、楽しかっただろ?」
「……それは、まぁ……うん」
「俺みたく乱暴に扱わなれば、友達は出来るって」
「それはどういう意味よ」
「特に意味はない。普通に接しろってことだ」
「そう……ねぇ、原始人」
「ん?」
前を歩いていた美代が、歩みを止めて振り返った。
「ありがと」
そんな感謝の言葉と、笑顔。
「いや、礼を言われるほどの事じゃねえよ」
俺はその笑顔に少しドキッとして、そっぽを向いた。
なんにせよ。俺だけじゃなく、美代の学校生活も変わっていく、俺はそう思った。