朝というものは、未来も昔も変わらない。
朝。俺は当然起きた。
白い天井、やはり現実か。
しかし、あの派手なシャンデリアが消えている。どうしてだろうか。
コンコン。
俺が起きたのがまるで分かったかのように部屋のドアが叩かれた。
「どうぞ」
そう言うと、咲さんが手に制服をもって部屋の中に入ってきた。
本当にこれから新しい学園生活が始まるんだと、身に染みた。
「サイズは大丈夫かと思うのですが、一応試着の方をお願い致します」
「分かりました。あの、昨日上にあったシャンデリアは?」
そう言って俺が天井を指さすと、咲さんの視線もそちらに向いた。
「あぁ、実物だと危ないので、あれもフォログラフィックです」
やはりか。
「あの、そのデザインって自由に変更出来たりしますか?」
「出来ますが、どのようなものに?」
「2018年頃の蛍光灯型のデザインって……無理ですか?」
そう言うと、咲さんは黙って目を瞑る。
「サーバーにて情報を検知しました。帰宅までにはそのようにしておきます」
やはり、咲さんは人間ではないんだと、俺は痛感した。
それと、聞かれはしなかったがなんでそんな要望を出したかと言うと、少しでも自分の元居た場所に部屋を近づけたいと思ったからだ。
新しい物ばかりでは落ち着かない。
「それにしても早起きですね」
咲さんが俺のそばの机の上に制服を置きながら言う。
携帯で時刻を確認すると、6時ちょうどだった。
「あー、いつもより30分早いくらいですね。ちなみに学校まではどうやって?」
「徒歩で駅まで向かって頂き、モノレールに乗ってください。学校はその駅前にあります」
「駅名は?」
「経済特区東京第二高等学校前です」
経済特区?
もしかして、と思い俺は続けて質問を投げつけた。
「あの、この国の名前は?」
「ここはどこの国にも属していません。ただ、昔使われていた地名で、経済特区東京、と言われています」
「な、なるほど」
「ちなみに出発時間は7時半なので、今後はいつも通り6時半に起きて頂ければ問題ありません」
それだけ言って、咲さんは部屋を出て行った。
「さて、着てみるか……」
日本だけど日本ではないというショックが少しあったが、今更その程度では驚かない。
それよりも今日の学校が憂鬱だ。どんな顔でクラスメイト達に見られるのだろうか。
「学ランじゃなくて、ブレザーなんだな」
試着して、サイズに違和感が無いことを確認した俺は、机の椅子に座った。
そうして、携帯を開く。昨日使い方の説明書を読んだが、テレビも見れるらしい。
ちなみに、説明書もタブレットみたいなものだった。
一通りチャンネルを見てみるが、正直言って訳が分からないニュース番組だらけ。
「あ~・・・・・・」
俺はベッドの上に携帯を投げると、机に項垂れた。
「学校行きたくねぇ」
本心からそう思った。多分、人生で一番学校に行きたくない日だと思う。
しかし、そんなことをしている場合ではない。もう7時だ。咲さんにサイズの問題が無いことを伝えなければ。
そんなことを考えていた矢先。
「ぎゃ~! 寝坊! 遅刻しちゃう!」
正直言って美代は美少女と言っても良い外見だった。
だからこそ、この大声が美代のものであると思いたくはない。
俺は登校時間まで余裕があったので、ゆっくりとエントランスへ向かった。
洗面所に行って歯磨きを済ませ、朝食用の携帯食料を飲んで、玄関に着く。
7時20分、余裕だった。
「咲~! 髪の毛梳かして~!」
美代は全然余裕がないみたいだ。
咲さんが人間だったら呆れているだろう、いや、もしかしたらアンドロイドでも呆れているかもしれない。
この騒動のせいでサイズの事を伝える事さえ出来なかった。
「みゃ、げんひひん! ひゃやおきにゃにょね!」
ブレザーを着て、携帯食料を飲みながら美代がなんか言っていた。
多分、あ、原始人、早起きなのね! だろう。
なので俺は。
「お前が遅いだけだよ!!」
と思い切り突っ込みを返してやった。
「むぐ・・・・・・、仕方ないでしょ。お気に入りの音楽聴いてたら夜更かししちゃったんだから!」
その開き治りは何だ。
まあ、時刻は7時29分。ギリギリ出発時間に間に合っている。
「美代、駅までの道のりを教えておいてくれ」
「何? その変な言い方は」
「今後お前が大寝坊して、俺まで遅刻するのは嫌だからな」
「きぃー! 原始人のくせに生意気言って! そんなに言うならあんたより早起きしてやる!」
「6時半」
俺は得意げな顔でそう言う。
ぶっちゃけ普通である。
「ぐっ!」
しかし、やはり美代にとっては早いようだった。
「6時45分に起きれば余裕だから、さっきの話は無し!!」
そう言って俺に指をさしてきた。
「お嬢様、登校時間です」
「あ、ほんとに遅刻しちゃうじゃない! 行くわよ原始人!」
正直その呼び名は未だに納得していないが、グダグダ言っていると初登校で本当に遅刻してしまう。
俺は、はいはい、と言って美代と共に外に出た。
いつの時代になっても、時間だけは変わらないことに俺は安堵した。